餌図鑑/Pet's food picture book

 Cricket/コオロギ

ヨーロッパイエコオロギ成虫

 コオロギが通年手に入るようになった事で、様々な生き物をより簡単に飼育することが出来るようになりました。両棲爬虫類飼育が一般化したのは、主にこのコオロギの養殖化、そしてマウスの養殖化に伴うものであることは論を俟たないでしょう。
 蛙、蜥蜴、守宮、蜥蜴擬、肉食昆虫など、数で大多数を占めるであろう両棲爬虫類は、このコオロギが無くては飼育出来ません。安価に通年コオロギが手に入る現在の状況は大変恵まれていると言えます。アジアアロワナを初めとする様々な要因が絡み合い成り立った現在の状況は、過去から眺望してみると、なんとも不思議なものがありますね。

 成分分析ではリンが多くカルシウムが少ないとされ、、餌として用いる場合にはカルシウム剤を塗す、或いはコオロギにカルシウムが多く含まれるものを食べさせるなどという方法が現在では主流です。これは、どの蟋蟀でも言えることであるようです。
 但し、昼行性のものと夜行性のものではビタミンD3の要不要があると言われています。夜行性の生き物には不要であるとか。寧ろ、夜行性の生き物にあっては害になるだろう、とか。僕はもともとダストよりもローディング重視の人間なので、其程気にしては居なかったのですが、結構重要なポイントなのかもしれません。いずれにせよ、自然下では色々なものを食べているであろう生き物に、コオロギのみを与えて育てていくということは些か不自然ではありますから、何かしらの方策を講じる必要があるのでは、と心に留めておくことは大切ではないかと思います。

 現在入手出来るコオロギは主に二種。
 一つ、古くからのフタホシコオロギ。これは累代された繁殖場の性質により、いくつかの種類があります。巨大化する黒色タイプの通称クロコオロギ、過去アロワナの餌として流通していた茶色のフタホシ、やや大雑把ですが、それ以外の中間的性質のものです。これらは、言うなればそれぞれの環境での選抜交配の末でありますから、それぞれに性質が微妙に異なります。例えば、動物性タンパク質を与えられて、最適な温度で巨大化することを重要視して育成されたクロコオロギは、他のフタホシコオロギよりも二回り以上の巨大さになりますが、密度に敏感で、過密になったり、餌切れ、水切れになると共食いが起こります。対して、月夜野ファームなどがそうですが、野菜を多めにして育成されたフタホシコオロギは、大きさが小振りになり、ボリュームという観点から(また、コストパフォーマンスという観点から)はクロコオロギに対して劣りますが、密度を高めにしてもストックする分には問題がなく、性質が穏やかで餌切れや水切れがなければ共食いしづらいという点では優れていると言えます。育成する場合は、それぞれのコオロギで好む餌が異なるので、それぞれのフタホシコオロギに応じた配合の餌を与えてやることが大切です。

  もう一つはヨーロッパイエコオロギ。大きさはフタホシより小さいけれど、養殖し易いという利点が、このコオロギを一気に押し上げました。しかし、フタホシコオロギに比べて二回りは小さく、重量当たりのコストパフォーマンスは、実はフタホシコオロギに大きく負けています。ただ、水に対する耐性が高く、水滴の多いビバリウムなどに一令、二令の幼虫を入れても生き残ることから、カエルなどの飼育には本種のほうがより向いているといえます。また、性格がフタホシコオロギに比べて穏やかで、フタホシコオロギが下手を打つと飼育動物を攻撃してしまうことがあるのに対し、本種はそうした危険性がずっと少ないという点も魅力でしょう。

 他にも、カマドコオロギやタイワンエンマコオロギなどがありますが、これらは餌用として簡単に手に入るものではないので、ここでは省略します。

■ コオロギ飼育総合概要編  

別段養殖する気はない、という人でも、毎日餌を買いに行く訳にもいきませんから、購入して一週間なり二週間なりは自然とコオロギを飼育することに成ります。僕は普通にストックする、と呼んでいます。呼び方は好き好きでしょう。何でも構いません。
 ストック期間中、コオロギの面倒を殆ど見なくても、種類によっては慥かに目立った問題はないとは思います。フタホシコオロギは兎も角、ヨーロッパイエコオロギ、カマドコオロギなどは比較的断水にも耐え、共食いも直ぐには行わない為、手を抜くことが出来ます。
 然し、コオロギのストック期間というのは、少し考えて見れば非常に有益な期間なのです。コオロギに対して、飼育動物に不足がちと思われる栄養素を与えておけば、間接的に食べさせることが出来る。肉食動物であっても、草食昆虫を食べることで食物繊維を摂取するのです。特に妊娠期間、その前段階ではより栄養を付けさせた方がよく、栄養価に溢れたコオロギと、過酷な状況下で疲労困憊しているコオロギとでは、どちらが餌として優れているかは言う迄もないことです。
 また、水分が少ないコオロギを食べさせると、飼育生物はより喉が渇くことになります。スナック菓子100gと果実100g、どちらが食べやすいかは考える迄もないことです。タランチュラなどは、水分が豊富な餌を与えていれば、水容器など無くとも殆ど問題なかったりします(無論水容器は設置すべきですが)。このことは幼体飼育時に重要なポイントとなります。水滴でしか水遣りが出来ない幼体時は、コオロギを通して水分を摂取させる方法が一番安全であるからです。

 とはいえ、単純に完全な体制で飼育すればよいかと言うと、そうでもありません。例えば1000匹の成体コオロギを購入し、それを一ヶ月保たせたい、という場合、最適温度で豊富な餌と水を与えては、既に終令虫な訳ですから、早く寿命が来てしまいます。半分以上は月末迄生存していて貰わなくてはならないのだから、其処のところをコントロールせねばなりません。

 よって、長期ストック目的ケースと、数日内に餌として使用するコオロギのケースとを用意します。ケースは逃げられなければ何でもよいですが、或る程度の数を纏めて管理する為にも、衣装ケース辺りが適当ではないかと思います。そして、前者のケースは各種コオロギが最適とする温度よりも3℃~4℃ほど下げます。寒さに弱いフタホシコオロギはあまり下げられませんが、イエコオロギはそこそこ下げられます。実質的な数字では21℃ぐらいが安全なところでしょうか。
 さて、ヨーロッパイエコオロギの場合は此処で断水をします。水は数日から一週間経ってから少量与えるようにし、餌も少量に留める殆ど与えません。水を与えると代謝が上がってしまうようだからです。但し、少なすぎても共食いはしない迄も事切れるので、一週間以上の断水は注意が必要です。どれぐらいまで断水に耐えるかは、温度や湿度により左右されるので一概には言えませんが、22℃程度で管理し湿度が60パーセント程度なら、十日は平気で生きている筈です。この辺は各自の環境で把握して行きましょう。
 フタホシコオロギの場合は少し変わって来ます。彼らは断水に極めて弱いので、水は兎に角与えねばなりません。そうでないと共食いに走ったり、事切れたりして、その死体を周囲の個体が食べるという事態になり不衛生な環境を呼んでしまいます。正直フタホシコオロギはストックが難しくて辟易します。フタホシコオロギのストックは、育成時よりもやや植物性の比率が多い餌に切り替え、水を与え、温度を21℃程度まで下げること、ぐらいしか僕は思いつきません。殆どフタホシコオロギを使う必要性がないので研究していない、というのが実は正直なところなのですが………(苦笑
 あと、フタホシコオロギはヨーロッパイエコオロギ以上に居住空間を多く必要とするような気がします。過密状態で飼育すると、餌と水が豊富でも共食いを始めます。ストック時は此が一番辛いので、新聞紙や卵パックを使い、空間を最大限に活用するようにしましょう。
 卵パックや新聞紙を好まない、という方は、地面に直接植えられるタイプのポットというのものが存在しますので、其れを使うのはよい手です。ピート、或いはピートモスを圧縮成型して作ったこのポットは、製品によっては連なった形で販売されており、組み合わせることで空間に複雑な足場を提供してくれます。なにより元がピートなので、コオロギが食べてもなんら心配が生じないところが嬉しいですね。
餌や水の遣り方については、下記のコオロギ飼養の項目に記述しました。


■ コオロギの飼養について

 成虫コオロギのケースに土の入った入れ物などを入れて措くと、成虫が其処になにやら産卵をし……別の暖かい場所に移動しておけば、二週間ほどで幼虫が孵化する。
 比較的容易に繁殖が楽しめるコオロギという昆虫は、然し養殖という事になると手間の嵐であり、コンスタントに生産するには想像以上に困難です。ですが、一度は挑戦してみる価値があるものと思います。

 飼育ケースなどはストックの部分と同じですが、数が十倍以上になる為、メンテナンスが容易に行える方式であればある程楽になります。そういう意味で、引き出し式の衣装ケースは単価が高いですが有用かもしれません。安価な衣装ケースの場合は積み重ねるよりも、棚を製作し、一つずつ引き出せるようにすることをお薦めします。

 さて、大量にかつ初令から終令までコオロギを育成するとなると、餌の問題が出てきます。数が少ないストック時ならば、熱帯魚の餌であるテトラフィンを初めとしたフレーク、ペレット、クリル、スイミー、昆虫ゼリー等でもよいでしょうが、数が増えれば単純にそれだけという訳には行きません。
 お薦めなところとしては、フスマ(小麦から小麦粉を作る際に出る殻などの余りの部分のこと)、きなこ、オートミール、ピーナッツ粉、魚粉、高菜粉などでしょうか。これらをコオロギの種類によって配合し、植物油、魚油を加えます。フスマなどは、基本的に殆ど食べませんが、この脂を練り込むことで食べる様になります。
 フタホシコオロギは動物性蛋白質をやや多めに配合しますが、ヨーロッパイエコオロギやカマドコオロギは植物性蛋白質メインでも共食いは殆どありません。とはいえ、ゼロで試したことはありませんが。
 こうした乾燥餌ばかりを与える場合は、当然ながら水分をより多く要求するようになります。水で練って与えると言う方法もありますが、日持ちが悪くなります。乾燥餌であれ、毎日食べきる丁度よいぐらいの分量を与えるのが基本ではありますが、毎回上手く行く訳でもないので……乾燥餌は、乾燥餌だけで与え、水容器を倍設置する方がよいかと思います(但し、初令からの小さい段階では、餌と水を同時に与えた方が好結果が得られる気がします)。。
 他にもコオロギは野菜を良く食べます。葉野菜(キャベツ、サラダ菜、レタス、白菜、青梗菜等)は勿論、人参や芋類なども食べます。然し、無農薬でない限りは生体濃縮から逃れることは出来ず、タランチュラなどには直接的な死亡要因に成りかねません。自家栽培が出来る、完全無農薬野菜が確実に入手出来る、というのでない限りは推奨しません。
 各コオロギには好む餌の傾向がありますので、個別頁を参考にしてください。

 最近はコオロギ養殖業者が餌を販売するケースもあるようですので、其処から購入するのも悪くない手です。

 餌はケースに零すのではなく、皿に入れた方が管理が楽だと思います。但し、陶器製や樹脂製の製品だと、コオロギが上れずに餌に到達出来なかったりするので、上れるようなざらざらした材質のものを選ぶか、足場を用意しましょう。それが面倒な場合は、木製の箱などが使えます。ニスなどがあると不安なので、僕は箱を自作していますが、水分を含んだ糞で汚れやすいという欠点はあります。
少々手間は掛かりますが、藁半紙で簡単な箱を折り、それに入れるという手もあります。一回使い切りではありますが。

■ 水やりは重要な要素です。特にフタホシコオロギの飼育では重要になります。
給水器は様々な人々が考案していますが、僕は写真のものを好んで使います。此は小鳥用の自動給水給餌器というもので、200円程度で購入することが出来ます。
成体にそのまま使うと、水が出てくる部分に潜り込んでしまい、貯水塔の中で溺れて大変なことになります。鉢底網や薄いプラスティック板を用いて、コオロギが通れない様、塞いで下さい。
幼体(1.5cm以下ぐらいでしょうか)の場合は溺れるので、口の部分に青梅綿を詰めるとよいでしょう。無論、成体にも青梅綿でもよいのですが……

この手の製品は幾つかあり、より大きいものも存在します。多数の成体コオロギを養うにはそちらを用いた方がよいでしょう。
尚、水を豊富に与えるとコオロギの代謝が上がり、成長が促進されますが、糞にも水分が多く含まれる様になるので、通気性の確保がより重要になります。
また、代謝が進む分だけ寿命が短くなります。ストック目的である場合は、水を沢山与えない方がよいでしょう(フタホシの場合は与えないと殺し合いますが……)。

養殖する場合には、自分でサイクルを掴むしかありません。消費量は人により違いますし……大きい個体を必要とするか、小さい個体を必要とするかでも変わってきます。一度にどれぐらい殖やすのがベストなのか、各自模索してみてください。





■ 産卵床、孵化について(執筆中)



コオロギ飼育用ケースの制作

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