ヤモリの杜/Forest Geckos Forest

Correlophus ciliatus/クレステッドゲッコー/Crested Gecko

ニューカレドニア/New Caledonia
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Correlophus ciliatus (GUICHENOT, 1866)
体長:頭胴長120-130mm、全長200-210mm
寿命:飼育下で10-15年。記録では20歳以上
性成熟:飼育下で一年半から二年
棲息地:ニューカレドニア本島南部、イル・デ・パン(パイン島)
食 性:果実食(バナナ、リンゴ、マンゴーなど。柑橘系果実は含まない)、昆虫食(コオロギ、ローチ、蛾の幼虫など)
基底温度:24-26℃(夜間16-18℃)

 絶滅していたと思われたいたものが再発見される、というのは胸躍る話です。そこに、スケッチしか残っていなくて実在が疑われていたとか、毛皮しか残っていないとか、世界に標本が数点しか現存しないとか、さらに棲息地すら謎であるといった香辛料まで加われば、再発見に至るまでにドラマすら生まれます。絶滅したと思われていたのとはちょっと違いますが、管理人的には身近で記憶に新しいところでは、最後に確認されてから百余年を経て棲息が確認されたサントメ・プリンシペ島のサントメ・ジャイアント・オリーブブラウンバブーンとか(とはいえ、もうこれ、十余年ぐらい前ですか………)、昨今心躍らせたものとしては135年振りに再発見されたGeckoella jeyporensisとか。ポンテンモンキチョウは、まだこの地球上の何処かで羽搏いているのでしょうか? 今日のこの風がそのバタフライ・エフェクトなのかもしれないな、とか考えるようになったら、ちょっと頭が心配なので冷静になるべきです。

 Correlophus ciliatus(=Rhacodactylus ciliatus)/クレステッドゲッコーはニューカレドニア島本島/Grande Terre(グランド・テレ、グランド・テール)南部及び本島の南の洋上に浮かぶile des Pins(イル・デ・パン)/パイン島などに棲息するヤモリです。

 本種が属していたRhacodactylus属は、地球上の各地で多くの種が絶滅に追い遣られた現在進行中の大絶滅時代――大航海時代以降の近代を、偶然と幸運により生き延び、また同時に遠く離れた幾つかの地で、上位に位置していたヤモリ最大種が次々と絶滅したことにより、現存するヤモリ最大種となったニューカレドニア・ジャイアントゲッコーを擁する事から、ミカドヤモリ属と呼ばれています。本種自体は、2012年にRevision of the giant geckos of New Caledonia (Reptilia: Diplodactylidae: Rhacodactylus)にて再検討されたとき、本種はRhacodactylus sarasinorumと共にCorrelophus属に移動になりました。この属は本種が発見された当時に付けられていた学名でもあります。同時に、同属には比較的本種に似ている、ニューカレドニア・グランドテレ北方に浮かぶBelep島に棲息するCorrelophus belepensisが記載されています。

 種小名の"ciliatus"は『睫毛のある』といった意味合いで、目の周りにある突起、そして目の後ろから側頭部を経て頸部まで連なる刺突起状の鱗から来ています。有鱗目の鱗は哺乳類や鳥類で言うところの体毛に相当するものだそうですから、睫毛のような鱗というのは、安直ではありますが、的を外した表現ではないのでしょう。Crestは、鳥の場合は冠羽、タンポポやアザミなどに見られる冠毛、獅子などの ( たてがみ ) に、兜の羽根飾り、そこから転じて紋章を意味する名詞で、Crestedになると形容詞になり、動物の名前にこれが附く場合、頭部に冠羽や鬣があることを指し示します。日本語でも、カンムリ何々、タテガミ何々などと呼ばれる種類は幾つか知られています。

 形状が変わっているヤモリというのは少なからず色々なものが居ますが、本種が魅力的なのは、その大きさが程良く大きいこと――全長は200-210mm程度、頭胴長(SVL)120-130mmになることでしょう。手のひらや甲に、ぺてっ、と乗っかりつつも重すぎず大きすぎない程良いサイズです。成体サイズに達した個体は45-50g程度の体重で、抱卵した雌ではもうちょっと重くなります。加えて、樹上棲といっても動きがお世辞にも素早いとはいえず、取り扱いがしやすいというのが大きいでしょう。しかも、寿命は飼育下で20年以上のものすらあるというのですから、長く付き合える要素も兼ね備えています。

 現在流通する個体は、1990年代に研究用に捕獲、輸出された200個体のいずれかの系譜に連なるものとされます。初期こそ数が少なかったですが、飼育下で容易に繁殖させることが可能であった為、現在では野生下の個体数よりも、飼育下の個体数のほうが多いとさえ云われています(ただ、この説の根拠は判然としません。自然下の個体数を科学的に推測した論文とかが何処かにあるのだと思いますが………)。

 本種の素晴らしさを、わざわざ此処で書き連ねる事に意味はないでしょう。端的に、それだけの数から現在の数まで繁殖されたこと、それを裏付ける為の飼育技術の発達、人工飼料を始めとした餌の開発研究が進められ、今なお開発され続けているということ――則ち、多くの人々を魅了したという諸々の事実がそれを雄弁に物語っています。

 ニューカレドニアに人類が到達したのは分かっている範囲では数万年前と云われており、以来幾つかの民族が独自に到達しました。彼らが森の中でひっそりと生きているこの妙なヤモリのことを、どう思っていたのか、知る人はいません。

Mémoires de la Société Impériale des Sciences Naturelles de Cherbourg,12:p411 by Google
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 ずっと時代が下って、18世紀の後半にイギリスに征服されたニューカレドニアですが、後にイギリスと領有を争うフランスにより占領されました。本種が記載された1866年とは、フランスからの流刑者が送り込まれ初めてから十年以上が経過した頃です。スケッチには頭部のクレストはもちろん、趾下薄板に似た吸着力のある尻尾先端の形状も詳細に観察し捉えていたことが窺えます。

 本種を語る上で、一番という訳ではないですがそれなりに重要なのは、この尻尾でしょう。先に述べた、尻尾の先に趾下薄板に似た吸着力のある部位が存在するという事も特徴的ですが、本種もまたヤモリの常として自切する尻尾であるのに、尻尾が再生しないという性質があるのです。
 殆どのヤモリは、自切しても尻尾を元と同じ形状に再生させることが出来ます。ただ、そうして再生した尻尾は、もともとの尻尾そっくりに再生する種類もいるのですが、そうでないものもいます。本来その種が持つ独特の模様や突起が再生されないということで、形や太さが変わることもあります。例えばGoniurosaurus属では模様は再生されず、また形状も最初が細長く、太ったときもその形状のまま全体的に太くなるのに対し、再生尾では短めで大根や蕪のように太くなることが多いようです。
 いずれにせよヤモリの尻尾というのは、多かれ少なかれ、元通りの長さ程度ではない場合であれ、尻尾としてそれなりに再生する、というのが一般的です。しかし、クレステッドゲッコーの場合、尻尾にちょびっと思い出したかのように出てくるだけで、殆ど再生しないことで知られています。切れてしまったらアウト、という感じです。

 なぜこうなったのかは定かではありませんが、自然下では成体の多くが尻尾を喪失しているという話があります。交尾の際に切れてしまうことが多いなど色々言われていますが、理由は定かではないようです。ただ、先掲のイラストには、ちゃんと尻尾ありますから、少なくとも当時に観察した人は尻尾があるものをちゃんと見ていたということになりますが。
 勿論、飼育下では注意していれば尻尾を切らずに育成することが可能です。個人的には尻尾は切れていないほうが好きです。でも、ペアリングしていると切れちゃうことがあって、そういう時はとても凹みますけど、まぁそれはそれでしょうがないな、という風に思うようにしています。

 本種が記載されたのは先に述べましたが1866年のこと。1883年には絶滅したと思われるようになり、以来100年の間、再発見されることはありませんでした。長らく絶滅したと考えられ再発見されなかったのは、棲息地として記録されていた場所には居なかったからという話ですが(その場所では、既に絶滅してしまっていたという可能性もありますが。あれ、そういえば、この逸話って何に書かれているのでしょう? どこで読んだか忘れてしまった………出典をご存じの方は情報求むです)、併せて、本種が極端に夜行性の種であり、かつ地表から15m程度の高さに暮らす樹上棲種であったことが大きな要因ではないかと云われているそうです。大規模に森林伐採をして農地転換をするような場合、そこに棲息している小型の動物種がどうなるかなどは考えませんし、焼き畑であれば尚更です(余談ですが、こういう場合、生き物は隣接する森へは移動しないものが少なくないそうですね。生き物の種類にもよるのかもしれませんが、なんとなく逃げ出すイメージが人間にはありますが、そうではなくてそのまま死んでしまうものみたいです)。自然環境に配慮して森の中を探す方式では、隠棲する種の発見はどうしても難しくなります。自然下では、おそらく本種は昼間は樹上の木の洞などで眠っており、夜間のみ樹上で動き、殆ど地面に降りることがないのではないか、と考えられており、それ故に、再発見されなかったのであろう、というのです。 このような性質の種類であるため、飼育には日光を殆ど必要としないと考えられています。外敵がいないせいか、飼育環境では、比較的、昼間もうろうろしているのを見かけることもありますが、基本的に夜行性なのです。

■触り方/How to touch■ 

 クレステッドゲッコーはヤモリですので、爪があります。忘れられがちな気がしますが、それなりに小さいながらも鋭い爪があって、これで樹木をがしがしと登るのです。ヤモリが平滑な壁面でも登ることが出来るのは、趾下薄板という部位をその指に持つからですが、これとは別にちゃんと爪があり、平滑でない、人間の手のひらや服などにくっついているときは、趾下薄板だけでなく爪をしっかりと立てていることが多いです。すべすべしたところでは趾下薄板、ざらざらしたところでは爪を使っているわけですね。

 つまり、クレステッドゲッコーが手のひらや手の甲にくっついているとき、それを上から、むんずと掴んで引き剥がそうとすると、手のひらに爪が立ち、怪我をしてしまいます。爪は鋭いと云っても小さいので、傷はごく浅く、せいぜいミミズ腫れになるようなものではありますが、細かな傷が沢山手についてしまうので、あまり良いことではないですから、特に子供は注意すべきです。浅いですし、飼育下のものであれば、破傷風とかは殆ど気にしなくてよいだろうとは思いますが、犬猫による擦過傷がそうであるように、注意を払っておくに越したことはありません。

 爪が鋭いといっても、基本的にこれは止まっているときに立てているだけで、人間の腕の場合、登攀するときには少しは立てるのでしょうが、殆どは趾下薄板の機能に頼っているので、傷をつけることはまずありません(極端に肌の弱い人や、肌の薄い子供などは別かもしれませんが、登られても傷がついたとう印象はありません)。つまりは、無理に引き剥がそうとするから傷を負うわけです。自発的に下りようとするように仕向ければ、爪を立てないので怪我をしないと考えてよいでしょう。

 そもそも、多くの生き物がそうですが、掴むというのは下手な方法です。一見すると掴んでいるように見えることがあるのかもしれませんが、多くの飼育者は、手のひらを使って、追い込みつつ抱き上げるように掬い上げるようにしているのです。そのようにされると、クレステッドゲッコーは自発的に手のひらの中に足場を移動しますから、爪を立てたりしないし、個体にもストレスになりません。

 この頁を読んでいる人はタランチュラとか蛇とかにあまり興味が無いかもしれませんが、他のそれらの頁でも書いている話の繰り返しをしますと、管理人は生き物の取り扱いの基本は誘導である、というスタンスを取っています。それは、直接接触だけでなく、その生物種の持つ最も鋭敏な感覚器官への刺激を含みます。タランチュラであれば震動であり、ヤモリであれば視覚と震動であり、また直接的な接触にしても、掴むということではなく、足や尻尾、背中といった、各部位への接触によるシグナルで、相手を誘導するのです。簡単に言えば、歩こうとしている先に手のひらを出せば歩みは止まりますし、止まっているところで尻尾や後ろ足をちょっと触れば動き出します。
 その生物の持つ習性――刺激に対してどのように反応するか、どのように動くか、個体の性格、そういったものを把握すれば、触れるあるいは撫でる、くすぐるといった程度の刺激で、動いて欲しい場所に動かすことが出来ます。例えば、慣れていることが前提ですが、枝に止まっているとき、その少し前に手を差し出し、背中や腹部のやや後ろ、あるいは後ろ足にちょっと触れることで、差し出した手に乗り移らせることもできるでしょう。登り始めた後、止まって欲しいところで眼前にそっと開いた手を翳せば、動きを止めてくれるはずです(さらに云うなら、最初に加える刺激の質を変えることで、登って直ぐ止まるように出来ることもあるでしょう)。これらには、その個体のパーソナリティ――性格、個性が関わってくるため、一概に方法論は語れませんが、題名にあるように、飼育している生物とは、掴んだり捕まえたりするものではなく、さわり、ふれるものであると考え、そのように飼育しようとしていれば、自分の飼育している個体に関しては、触れ合うことで扱えるようになると思います。

 もちろん、これはクレステッドゲッコーであるからであり、別の生物種ではまた異なった理解が必要になるとは思いますが、いずれにせよ、大前提はその生物の持つ性質、習性を理解しようと努めることでしょう。此処に書いた方法はあくまで管理人のものであり、必ずしも正しいとは限りませんが、この前提となるスタンスは共通するものではないかと思います。

■飼育/Keeping■ 

 基本的に昼間は寝ていて、夜間に活動するヤモリです。自然下では昼間に雨が降るということはよくあることでしょうから、昼間に霧吹きをしてはいけないということはないにせよ、水皿を設置し(ただし殆ど水皿からは飲まないのですが。それでも、安全策として入れておくべきです)、夜(或いは消灯の少し前ぐらい)に飲み水として霧吹きをするのを基本とするとよいでしょう。

 同居飼育が不可能な訳ではありませんが、基本的には個別飼育することが安全です。また、亜成体以降は、雌雄で分けて飼育します。繁殖に適した体格になるまでは同居させるべきではなく、また繁殖を意図しないならば同居させるべきではありません。

 誤飲を防ぐ意味合いで、とくに幼体の頃は床材にクッキングペーパーなどを用いるのが良いという話もありますが、管理人はとくに気にしたことがなく、今までそれで問題が起こったという記憶もありません。ただし、誤飲しても問題ないような、目の細かいヤシガラ土や腐葉土、杉樹皮培養土を使い、赤玉土やセラミスなどは使わないようにするといった注意は払っています。このあたりは、好みのものを使えばよいでしょう。床材はぎゅっと絞って、ぎりぎり水が零れるぐらいをベースに、霧吹きで調節します。多湿すぎるのは好ましくはなく、ケースの通気性が重要です。温度は、ケース内部の温度が24-26℃程度に設定します。夜間はもう少し温度を下げて構いませんが、下げたとしても20-21℃ぐらいとするのがよいでしょう。管理人は22-24℃ぐらいまでしか下げません。これは、飼育下繁殖個体では、わざと温度を下げる意味が飼育する上では殆どないということもありますが、繁殖させるためのクーリングに、あまり低くない温度を使っているため、普段はそんなに低温を感じさせたくはないという事情もあります。

 自然下では樹上で生活するヤモリであるため、登れるようにコルクバークを立てたり、アケビの蔓などを配します。それとは別に、昼間隠れられるよう、倒したコルクバークや植木鉢、ウェットシェルタなどの隠れ家を用意します。

 本種の特徴的な傾向として、餌にコオロギやゴキブリなどの昆虫食よりも、植物質を好むというものがあります。野生下での食性は、植物食に偏っており、特に成体であれば動物食と植物食の比率は、植物食のほうが多いぐらいであるそうです。植物食のヤモリ自体は、本種に限らず様々なものがおり、特段珍しいものではないのですが、本種はとくにその傾向が強いので印象的なのでしょう。ただ、植物といっても、葉っぱではなく果実を食べます。先に書いたように、クレステッドゲッコーには専用の配合食(水を加えて溶くことで餌になる、クレステッドゲッコーのMeal Replacement Powder=Crested Gecko MRP)が幾つかのメーカから製品として販売されており、これと昆虫を組み合わせて飼育します。配合食は、果実タイプのベビーフードや粉ミルク、蛹粉、蜂蜜などを原材料として自分で作ったりしていた事もありましたが、いろいろ面倒になってきて、現在は主にRepashy SuperfoodsCrested Gecko MRPを使用しています。ですので、このページで書いている配合食とは概ねRepashy SuperfoodsCrested Gecko MRPのことです。ただ、時折思い出したように、昆虫ゼリーを半分から三分の一ぐらいの分量加えて混ぜたものを与えたりすることもあります。昆虫ゼリーは日本独自のもので、様々な種類があるので活用し甲斐があります。欧州では果実系のベビーフードをベースに自作している人が多いようです。

 完成度の高い配合食を使えば、それだけを食べて成長させることが出来ると言います。ただ、人間もタンパク質が含まれていても植物だけではなく、動物性タンパク質を摂取したほうが大きくなりやすい(戦後の日本人を見れば明らかです)ように、コオロギなどの昆虫も織り交ぜたほうが、成長期には飼いやすくなるように思います。そこで、管理人自身は半々程度にすることを好んでいます。具体的には、一週間に幼体でだいたい二回から三回程度、成体でだいたい一週間に二回程度、餌を与えるうち、そのうち半分程度を植物性の配合食とし、半分を昆虫食としています。
 完成度の高い配合食は、それ単体で問題なく成長させられたりするのは確かなようですが、管理人自身はそうした育成方法をしていないので、配合食のみでの飼育に就いては述べられません。したがって、このページで行っている飼育繁殖は、昆虫食と植物食をだいたい半々ぐらいから、ちょっと植物食が多いぐらいの与え方で行っているものです。ただし、妊娠時期のメスなどへの餌遣りは、この限りではなく、様子を見て調整しています。

 与える昆虫ですが、フタホシコオロギ、ヨーロッパイエコオロギ、各種ローチ、ハニーワーム、ワックスモスなどへもそれなりに反応し、よく食べます。デュビアも食べるようですが、管理人はあまり与えていないのでよく分かりません。食べることは食べますが。食いが悪い個体には、触覚を取り除き、体液を出したところを口先に触れさせて舐めさせると食いつくことがよくあります。
 飼育ケースに放つ方法でも食べるようですが、これはヨーロッパイエコオロギのみにしておくのが無難でしょう。ハニーワームはすぐ潜ってしまいますし。ローチも隠れるのが上手くてなかなか餌にならないことがあります。クレステッドゲッコー自身も夜行性なので、比較的よく食べるようではありますが。

 此処で考慮すべき事柄として、先述のようなヤモリ用の配合飼料を与えている場合、両棲爬虫類用のカルシウム剤のうち、ビタミンD3を配合しているものを餌昆虫へのダスティングには使わないということがあります。これは、Crested Gecko MRPには既に必要分のビタミンD3が配合されているからです。カルシウムはD3が配合されていないものか、それを考慮して少なめになっている製品などを利用するようにしましょう。逆に、自作のフードを与える場合は、D3配合のカルシウム剤を使ってもよいかと思います。

■繁殖/Breeding

 ヤモリの中でも繁殖の簡単な部類に入ります。尻尾を落とされる危険こそ否定しきれませんが(それでも頻繁に起こるものでもありません)、繁殖に際してオスがメスに害を与えてしまうような危険は殆どないでしょう。唯一気にすべきは、産卵時にメスが消費するカルシウムが不足しないよう、積極的に与えることかもしれません。コオロギへのダスティングはもとより、卵殻カルシウムやカルシウムサプリメントを配合食に混ぜて与えるとよいでしょう。 

□孵卵/Incubate

 クレステッドゲッコーは、多くのヤモリがそうであるように、TSD(temperature-dependent sex-determination)/温度依存性決定であることが知られています。依存する温度は複数の人々が調べているので、過去の文献を渉猟すれば、概ね分かります。
 (Friedrich-Wilhelm Henkel, Wolfgang Schmidt, 2007) は、22-25℃では両性が発生するが雌が多いとしています。後に、(SEIPP & HENKEL,2011)にて、すべてが雄になる温度として82°F27.78℃を挙げ、79-82°F(≒26.11-27.78℃)の場合、両性が生まれるが雄がきわめて少ないとました。また、(Stefanie Bach, 2006) によれば26-27℃を基底温度とした上で、夜間3-4時間、温度を2-3℃下げた場合、ほぼ全てが雌になるとあります。詰まり、オスにしたい場合は、昼夜間通して28℃以上をキープする。メスにしたい場合は日中24-26℃、夜間三時間ほどを22-23℃まで下げるとよいということになります。

 実際、管理人の基本的な孵化環境である、空中温度が日中24-26℃、夜間は1-2℃下がるという室温でのインキュベートでは14個中12個がメスでした。(地表面はもうちょっと温度が低い筈です)

 雌雄の調整は、計画的に飼育繁殖をする上で有用です。現代では、タイマーとサーモスタット、ヒーター、ファンの併用により、どの条件も容易に再現可能でしょう。インキュベータがあればより簡単です。雌雄を同数欲しいならば、1クラッチを分けて、それぞれの環境でインキュベートするとよいでしょう。

 孵卵温度が分かったところで、湿度60-80%を維持できるよう程良く通気性のあるケースに、培養基としてパーライト、ヤシガラ土(ピートモス)、バーミキュライトなどを混ぜたものを使います。ヤシガラ土やピートモスは一度水分を失うと、吸水力が落ちる性質がありますので、そうした場合は一端、ぬるま湯などに入れてよく揉み込んで数時間放置し、水を吸収したところで、ぎゅっと水滴が落ちなくなるまで絞ったものを用意しておきます。これをほぐしたものと、だいたい体積が同じぐらいのバーミキュライト(もしくはバーミキュライトとパーライトを等比で混ぜたもの)を用意します。バーミキュライトに、バーミキュライトと等重量の水を加え、ふんわり、菓子を作るときの表現であればさっくりと混ぜあわせます。その後ほぐしたヤシガラ土を加え、同じように混ぜ合わせます。

 これを孵化器となる容器の中に軽く敷き詰めます。ぎゅーっと押したりはしません。ふんわりいれて、軽く均したぐらい。土の厚さは、ケースの半分ぐらいまであるのが望ましいでしょう。表面を軽く均し、指で卵を入れたときに高さの半分から八割ぐらいまで収まる程度の凹みを作って、そこに卵を並べていきます。 

 土を5mmから10mmほど上にかけてもよいですが、観察しづらいので、少し卵が顔を出しているぐらいを管理人は好んでいます。容器の具体例としては、タッパーウェアの上側面に、3mm径の穴を2-3cm間隔で空けたモノや、クワガタ飼育用のコバエシャッター・プラケース、一般的なプラケースにコバエ侵入防止シートや、クッキングペーパーを二枚重ねぐらいで挟んだものなど、なんでも構いませんが、結露するようでは通気性が低すぎます。

 今回の説明では培養基にバーミキュライトやパーライトなどを使っていますが、もちろん、好みのものがあればそれを使うので良いでしょう。ヤシガラ土だけであっても、それに合わせた容器と方法で管理していれば、問題なく孵化させることができます(実際、言ってはなんですが管理人はヤシガラ土だけで孵化させることのほうが多いです。何故なら、孵化に使った後、そのまま燃えるゴミで捨てられるし、床材として沢山ストックがありますので)。

 ところで、本種は卵を動かすと孵化率が極端に下がるという話を聞いたことがあります。ただ、管理人は、そっと掘るようにしていること、卵を見つけたらマジックで印をつけて、向きがずれないようにして移動していること、という注意を払ってはいますが、ここまでの説明でも分かるように普通に移動してしまっています。でも、別に孵卵に極端に失敗しているということもないというか、だいたい行けそうな卵だなと思った卵は孵化しているので、あんまり気にしていません。とはいえ、海外でも産卵後12-24時間以内に移動して、その後は移動しない、という風にしている人も多いようだし、ヘタに動かすと孵化率が悪くなるのはそれなりに根拠のあることなのだと思うので、注意したほうがよいでしょう。

 動かすとどうも孵化失敗している気がする………という場合は、産卵しそうなメスを産卵床を敷いた小さいプラケに収容して、産卵したら取り出すとかして、あとはそのケースをそのまま孵卵に使ってしまうとかすればよいでしょう。

 孵化に要する日数は温度に依存し、65-80日ほどです。通気性が上手く調整されていれば、途中で加水する必要性はないのですが、最初はそう上手く行かないかも知れません。ヤシガラなどは水分が抜けると色が変わるので分かりやすいですが、より分かりやすいよう、小粒の赤玉土を入れておくとよいでしょう。床材が明らかに乾燥しているようでしたら、ケースの端に沿って水を注ぎます。これは、卵の表面に水をばしゃばしゃかけるような真似は、卵が溺れてしまう懸念があるからです。水分が不足していると卵が凹んでくるのですが、そうなる前に手を打ちたいところです。そもそも本種の卵は成長に伴い膨らんでくるものなので、水不足が良いとは思えません。ちょこっと凹んだぐらいでしたら、復活してくれます。

 孵化したクレステッドゲッコーは、大きい個体をそのまま小さくしたような外見です。産まれた直後は皮を被っており、最初の脱皮(ファースト・シェッド)を終えるまでは餌を食べたりはしません。これは色合いが薄ぼんやりとしているので見ればすぐに分かります。クレステッドゲッコーの飼育スタイルとほぼ同じで、ただシェルターは設置して様子を見ます。数日から1週間で脱皮をしたら、親と同じように餌を食べるようになるでしょう。

 大抵は匂いに反応して食べるのですが、産まれたばかりだと人工飼料になれていないことがあります。そういう場合は、溶いた人工飼料を指につけ、ちょんと鼻先や口元につけてやると、反応してそれを舐めることで味と香りを覚え、食べるようになってくれる筈です。

 昆虫への餌付きもよく、コオロギ、ローチ、などをよく食べます。これらを食べるならそれで問題ないと思いますが、もし食べない場合は、ハニーワームなどのワームへの反応はかなり高いので、それらを食べさせつつ、飲み込もうとするときにそっとコオロギを口元に当て、続けて飲み込ませるチェーンフィーディングで味を覚えさせると食べるようになることがあります。

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