CB2005 male

Oreocryptophis porphyraceus coxi (Schulz & Helfenberger, 1998)
タイベニナメラ/Thai Red Mountain Ratsnake

Oreocryptophis porphyraceus coxi (Schulz & Helfenberger, 1998)
 Elaphe porphyracea coxi (Schulz & Helfenberger, 1998)

 和 名 :タイベニナメラ
 体 長 :平均120-150cm
 寿 命 :不明(十余年?)
 性成熟:飼育下で三年から四年
 棲息地:タイ北部
 食 性 :齧歯類

 存在が知られたのは記載年からも分かるように、比較的近年に入ってからで、ベニナメラとしては新しい亜種でありますが、それでも尚、もっとも有名なベニナメラと言えばこの亜種になるでしょう。
 タイ王国の北部、Province Loei(ラーイ地方)などに棲息するベニナメラの亜種の一つ。かのシュルツのナメラ本の表紙を飾った、アジアンラット最高峰の譽れも高いナミヘビです。

 英名はThai Red Racerや、Thai Red Mountain Ratsnakeなどと呼ばれますが、昔どこかでThailand Red Racerという表記も見たような気が……Thailandの形容詞はThaiなので、Thai Red Mountain Ratsnakeが自然なのでしょうが、語感が今ひとつですね……正しいのはこちらなのでしょうが。ただ、語感は大事だと思うのです、詩歌だって、しか、じゃなくて、しいか、って読むみたいなこともありますし。ただ、会話するときにはcoxiという呼称しか使いませんので、別にどうでも良いような気がしなくもないですが。

 特徴的な二本の条線は太いものが一般的です。下半身の腹側部に擦ったようなちょっとした細く線が入ることもあります。これらの模様は斑紋内部の色抜けを除けば、幼蛇時のものが成体になっても引き継がれるようなので、幼蛇時期に条線の太さが細いものは成体になっても細いまま、太いものは太いままと考えてよいでしょう。ただし、条線も成長することでやや色抜けすることがあり、よく見ると条線を形成している黒が薄くなって下の赤色が見えるようになることもあるようです。とはいえ、俯瞰した場合に分かるという程ではありません。

 他亜種で見られる条線に重なる斑紋は、頸部に一個出ることが多いですが、全くない個体もいますし、二個、多い場合では三個出る場合もあるようです。此の斑紋の遺伝性は審らかになっていませんが、斑紋が喪失する方向性を極めると、頸部から条線も消失していく事があり、ヴァニッシングタイプとして更に模様を消す方向でセレクト・ブリードが為されているようです。全体的に走る条線が非常に細いものは前述した通り産地の異なる個体群とされていて、これとはまた異なったものであるようです。

 幼体時は特徴的な橙色をしていますが、成体になり、四年目ぐらいを迎えると、少しですが赤みが強くなってきて、朱色になります。朱紅い色に漆黒の条線という至ってシンプルな配色ですが、頭部の正中線に入る黒のラインも含め、造形の洗練さも相俟ってナメラ独特の流麗な美しさを持ったヘビだと思います。ベニナメラはもともと大きくならないヘビですが、本亜種はその中でも小さいほうで、成長して平均90-100cm程度であるようです。

 標高は800-1000m程度の山林部に棲息するそうですが、現地の写真を見たことがないのでどういう環境なのか詳しくは分かりません。棲息している山の植生は標高によって大きく異なるようですし。

 多少乾燥した環境にも適応しているようですが、自然下では乾燥する地域にいたとしても、地下に潜る性質があるでしょうから、空中湿度があることが望ましいでしょう。実際、乾燥という環境よりは、少しだけ湿った環境を好むようです。但し、多湿すぎては簡単に皮膚病になって死んでしまうそうなので、湿度管理には一考の余地があります。
 現時点で、世界でおそらく、もっとも飼育繁殖が為されているベニナメラです。とはいえ記載年を見て分かるように、新しい亜種でもあり、別段古くから知られているが故にポピュラーだという意味ではありません。源流となった個体が何個体だったのかは知り得ていませんが、出来る限り違う血縁を集めて繁殖した方がよいかもしれません。まぁ、これはベニナメラに限った話ではありませんが。

 性質は、荒いという程ではありませんが、刺激を与えれば攻撃体勢を取ります。攻撃はアタックばかりで、噛み付いたまま巻き付くということは経験にありません。一応、コンストリクターとしての性質はあって、餌に対しては巻き付くこともあるのですが。
 管理人が飼育しているものはどれもやたら気性が荒いですが、これは殆ど触ったりしないからでしょう。また、レーサーの名があるように動きが素早い種類です。といっても、本来レーサーと名の付く連中に比べれば遅いことこの上なく、此の程度のものをレーサーと呼ぶのはどうかな、という気もします。こちらは多少進めば止まるところが全然レーサーと異なりますし、進む速度もコーンスネークよりちょっと速いかもしれない、ぐらいであって、慣れた人ならば余裕綽々で対応可能なレベルです。

 余談ですが、個人的には雄のほうが顔つきがシャープで格好いい気がします。精悍な印象なんですね。ちょっとした差なのですが、メスはややふくよかさが顔の顎周りにも出てしまうような気がします。大河ではなく山間に流れる渓流、或いは湧き水のような存在感が、ベニナメラの良さだと思っているので、それを体現しているのは、どちらかと言えば雄ではないかな、と。勿論、個人の好みの問題ではあるのですけれど。


■ 飼育/Keeping  ■

 流通している個体は、ほぼ間違いなく全てCBなので、飼育の難易度はかなり軽減されています。ただ、高山に棲息する関係で高温には強くないと云われていますので、大気温度は25-26℃を基本にするとよいでしょう。基本的にベニナメラを始めとする高山系のヘビは、上限温度を甘く見ると冗談抜きに簡単に死にますので、上限温度は絶対に超えないようにすべきです。夏場の冷房、冬眠させない場合の冬場の暖房は必須です。
 余談ですが、WCは温度勾配が必要になったりとか色々あるようで、環境に慣れるまではホットスポットを使った広いケースで飼育するとか何とかかんとか、そんな話が昔ありました。なんでも、特に温度と湿度に対する希求がシビアで、導入直後は、夜間を下げたりという細やかな設定が必要になるとか。とはいえ、CBでは気にする必要はないそうですし、管理人もしたことはありませんが。個人的にはWCを見てみたいですが、今まで流通したという話を聞いたことはありません。まぁ、ここまでCB化が進んでいるならば、必要ないと言えば、ないですが。そう考えると、ペットスネークとしての地位を確立しているヘビなのかもしれませんね。

 飼育ケースですが、最低でも400mm*300mmぐらいは欲しいところです。成体ならば、500mm*380mmぐらいでしょうか。幼体はこの限りではなく、250mm*180mmぐらいからでもよいでしょう。広いケースで飼ったほうが、成長がよいような気がしますが、かといって広くて閑散としすぎたケースというのも、蛇が落ち着いて居場所を決められないので、広いケースで初期から飼育をする場合は、シェルター(ハイドボックス)が必須になってきます。

 面積に対して、これはナミヘビ、とくに地中に道を掘って進むような土壌に依存している多湿系ナメラに多い傾向ですが、高さはそんなに必要ありません。もともと、それほど樹木に登る性質がないからです。欧州ナメラや、アジアンラットでもスジオナメラ、日本に棲息しているものではアオダイショウやシマヘビなどと違い、このあたりはジムグリのそれに近いと考えるので差し支えはないでしょう。とはいえ、タカサゴナメラは樹上に登ることもあるそうなので、個体によるかもしれませんが。加えて、樹上に登らないとしても、その分だけ、潜る傾向があるので、床材を深く入れたいところですから、地下と地上の合計として、結局はそれなりに深いケースが必要になる気もします。問題が見受けられないならば、浅いものでもよいでしょう。

 小さいケース、特に深さの浅いもので主立った問題があるとすれば、餌を与えるとき、蛇が餌に向かってアタックした勢いそのままにケースから飛び出て、パニックになって走っていってしまうことがある、ということです。ケースをテーブルなどの高い位置に置いておくと、そのまま地面に落ちてしまうので、ちょっと大丈夫か心配になるところです。飛び出ても、落ち着いて捕獲すればよいのですが、ベニナメラの常として驚くと体をつよくばたつかせて暴れることから、飼育者が慌ててしまい、幼蛇を捕まえる際に幼蛇を傷つけてしまうような事故が起こらないとも限りません。ケースサイズには、そうした事も考慮に入れて、大きさ、深さを決定するとよいでしょう。云うまでもないですが、深いケースを使う場合は、地表面にあたる側面に通風口を設けて、通気性に配慮したいところです。

 あまりに漠然とした書き方が過ぎると、「わけわからん!」という気もするので具体例を書いておきますと、管理人の飼育遍歴としては、NISSOPC-5を初期は使用していました。現在は、コンテナを加工したケースです。

 コンテナは外部からの視認性が悪いですが、これが逆に、神経質な蛇には功を奏することがあります。よく知られる方法ですが、神経質な蛇、特に地面に潜る傾向の強い種では、ケースの周囲を覆うことで、落ち着かせることが出来るからです。アリの飼育の際に、ケースを黒紙で覆うと、巣を作るのに似ています。飼育者と同じ部屋で飼育している場合は、足音などは消しきれるものではないですが、少なくとも覆いをしておくことで、ケース内部への視覚的ストレスを少なくすることは出来ます(というか、管理人はそうしていました)。ただし、云うまでもないですが、この方法は観察しにくくなってしまうので、異変や異状を察する機会を逸するおそれもあり、諸刃の剣というところもあるのですが。

 ただ、個人的には600mm*450mm*450mmぐらいの大きさの両棲爬虫類用ケージで、枝などを配して飼育するのがベストであると思います。導入直後や、怯えやすい幼蛇時期は兎も角として、飼育して一年から二年して飼育の感覚も掴めて来たならば、土をベースとしたケージに斜めに枝などを配し、淡い照明を当てて飼育すると面白いと思います。ベトナムライノラットのような樹上性種ほどではありませんが、本種も比較的、枝があればそこに登ったりするからです。自然下では夜間活動なのでしょうが、飼育していると案外、昼間にもうろついているので、そうした光景を楽しめるでしょう。

 乾燥したセッティングにウェットシェルターで飼育出来る、という話はよくあります。確かに飼育出来ない訳ではないと思いますが……個人的には、オススメしかねます。

 管理人も、そういう飼育方法も行けると聞いて、そうした環境での飼育をしていたこともあったのですが、現在ではやっていませんし、今後もそうした方法で飼育する予定はありません。理由は幾つかありますが、夏場は温度再現という観点から不利であるということ、冬期は温度という観点では問題ないのですが、日本の冬は極めて湿度が低いので、湿度不足に陥るという意味で向いていない、というのが最たる理由でしょう。

 やはり、本種のようなヘビは、湿らせた土で飼育するのが最適であると感じます。慣れないうちは湿度の案配が判断しづらいかもしれませんが、これは慣れの問題なので、経験を積んでみてください。言葉で表現すると、潜れるような土壌環境で、地表面は乾燥~すこし湿り気がある、そして地面の中は程良く湿っているぐらいの環境です。一般的に販売されている黒土はほぼ最適ですが、地中はもう少し湿らせても良いのではないか、というところでしょうか。
 表面が乾燥している方が良いと感じるのは、少しぐらいは鱗が乾く環境のほうが、鱗の調子がよさそうに見えるからです。おそらく、昼間は潜ってみたりしておきつつ、夜間の活動時間には此処から這い出て、程よい湿度の中を徘徊することで、鱗が湿ったり乾燥したりという事があり、これが鱗の色艶にとって大切なことなのではないかな、と思います。ウェットシェルターがあれば、他は乾燥しきりで平気かというと………生命が維持されるという意味では平気なのでしょうが、本種を始めとしたヘビというものを飼育する主目的が、その外見の美しさの観賞性にあるならば、そもそも飼育する意味がなくなるのではないでしょうか。
 どうも、乾燥したウッドチップベースの環境で飼育すると、別に死ぬとかそういう事まではないのですが、鱗が今ひとつ綺麗にならないような気がするからです………まぁ、遣り方次第というか、飼育専用部屋なら冬でもそれなりの湿度があるでしょうから、ケースバイケースなのかもしれませんが、筆者は満足行くレベルに仕上がりませんでした。いずれにせよ、飼育するからには美しく飼育したいと思うので、「どうも鱗が擦れたような感じというか、艶っぽさが足りないような……」と思ったら、飼育環境を見直してみると綺麗になったりするかもしれません。
 ところで、こうした鱗の美しさというのは、或る程度の段階までならば、よりよい環境で飼育することで改善が見込めるのですが、WCの個体を営々と飼育しつづけても、その瑞々しさがCBのそれに到達することがないのに似て、ある一定の段階を越えてしまうと、それきり戻らなくなるような気がします。飼育の上手な人が育てた個体は美しく、生かしているという範疇を超えない個体は、やはり美しさに欠けるものです。気になるならば――というか、気にならない人がいるとも思えませんが――、このあたりは注意しつつ飼育に臨むべきなのでしょう。

 また、外見的な面とは別に、湿潤な環境を好むヘビを乾燥環境で飼育すると、内臓にも負担が掛かるように感じられる事があり、本種ではそれも顕著です。ウェットシェルターの有無、空中湿度など、諸要因にも依るでしょうから、一概に語れる事でもないでしょうが、主に糞に含まれる尿の状態に変化が出る事があります。湿度が適切であれば柔らかな普通の色合いなのですが、水分が足りないと、水分を糞から吸い取る必要が出るせいでしょう、色合いが僅かに褐色を帯び、形状もやや変わります。触って確かめた事はないですが、自重で形状が変化しづらいことから、やや固めになっている印象があります。短期的にはあまり問題にならないでしょうが、これが中長期的に問題がないのか――逆に言えば、本当に問題なのかと問われれば、返答に窮する処です。生死に関わる問題であるかと言えば、WCではそういった負担を掛けることで調子が上がらなくなる事はよくあるものの、CBでは死ぬ程の事ではないかもしれません。しかし、少なくとも良くないことではあろう、と思えますので、現時点で管理人は乾燥環境で飼育をしていません。もしも乾燥環境で飼育するにしても、ウェットシェルターの設置だけはするようにするでしょう。

 加えていうと、当然のことではありますが、床材が湿度を持っており、また通気性のよいケースというのは、気化熱により床材の温度が大気温度よりも数度低くなっています。これが前述した夏場に乾燥環境と湿潤環境では、前者にデメリットがあるということの意味です。センサ部分が伸びるタイプの最高最低温度計で、地中温度を測ってみれば分かります。これにより、ケースの通気環境や、そもそも部屋に空気の循環があるかどうか(扇風機などで循環させているか、など)にもよりますが、だいたい大気温度から2-3℃ぐらいの低下があるようです。これを手軽に実現してくれるのが、スドーの陶器製のウェットシェルターですが、よく冷やしてくれる反面、一日にかなりの量が蒸発してしまうので水差しが必須ですし、かといって三百六十五日常時濡れるような使用方法をする製品ではないので、そういった状況で使用すれば衛生面で問題になることもあります。ウェットシェルターは便利ですが、使用にはそれなりのコツがあり、そうしたコツを掴むよりは、土を使っちゃったほうが楽なんではあるまいか、という気が……。

 余談ですが、管理人は基本土で飼育しておき、ウェットシェルターを乾燥状態で併用です。脱皮の気配を感じたらウェットシェルターに水差ししておく感じです。
 もしも乾燥環境で飼育したいならば、その状況ではより、温度にシビアになる可能性があることは意識しておくべきでしょう。総じて、飼育難易度が上がるということを意味します。
 ………そもそも、なんですか、結局のところ、エアコンを稼働させておけば、28℃以下にするのは、簡単だと思うのですが……夏場だけで良いわけですし。

 とはいえ、何でもかんでも濡らしておけばよい!という訳でも、勿論ありません。皮膚が弱い蛇なので、多湿が過ぎ、乾かせる場所がなければ、常に皮膚が濡れていることになり、簡単に皮膚病になってしまいます。具体的には、鱗の形状が歪み、萎むようなかたちになります。WCのタイリクベニナメラで特に起きやすいこの症状は、進行すると鱗が収縮し外側に反り返り、松ぼっくりのような印象になるのですが、早期であれば痕が殆ど分からないレベルにまで治癒するようですが、放置すると痕が残るのに加えて、死亡する危険性もありそうなので注意が必要でしょう。
 また、不潔な土壌でも、似たような皮膚感染症になります。こまめな掃除と、数ヶ月に一度の定期的な床材の総入れ替えは基本です。カビっぽさが感じられたら、床材の入れ替えはもとより、通気性も検討したほうがよいでしょう。WCの蛇では、土の匂いは酸性度合いが変化することで調子を崩したり餌を食べなくなるという傾向がありますが、CBに於いてはその心配は無用と思われます。飼育にあたっては、どのぐらいの湿度が適切か把握することが必要であり、この辺りが、アジアンラット全体の飼育が今一つ盛り上がらない、難しいという印象が拭いがたい一因なのでしょう。

 …………正直なところ、普通に乾燥でも飼えるんですけどね………でも、綺麗に飼うには、やはり湿度あったほうがよいと思うのですよね。というか、これって、アジアンラットに限らず、アメリカンラットやヨーロッパナメラ、ボアとかパイソンとかにも言えることだと思うのですけれど。

 床材には椰子殻土や腐葉土、黒土などが使えます。粘土質の土を使う話も聞きますが、そちらは使用したことがないので分かりません。脱皮前や、乾いてきたら、差し水するような塩梅です。粒が細かいものが良く、粗いものの場合は、餌に付着したりしての誤飲に注意するべきです。中途半端な大きさが一番よくない気がします。このあたりが未知数なので、赤玉土は使えると聞き及びますが、管理人は使っていません。オススメは腐葉土でしょうか。
 成蛇ならば問題ないですが、幼蛇では水苔などの誤飲が起こると致命的です。というか、大事には至らなかったものの、誤飲して危なかった経験があります。置き餌に頼るのは、特に幼蛇期であることを考えると、水苔の使用には注意を払うべきでしょう。

 水切れには大変弱いとされるので、常に新鮮な水を供給します。ただし神経質なところもあるので、導入直後の一週間の水替えは極力控えるなり、静かに行うなり心を砕きます。環境に慣れてきてピンセットから食べるようになれば、それほど神経質になることはないでしょう。
 ベニナメラははむ、と食べるよりは、はしっ!と食いついてくるタイプなので、ピンセットでマウスを持つときは軽く、食いつかれて奪われることを計算に入れた力加減と、差し出す方向を意識しておくと失敗がないと思います。心配ならば竹ピンとか使うとよいでしょう。

 餌は胴体の太さと同じぐらいからスタートし、慣れてきたら僅かに大きめのものを与える……という風にシフトしていくのが安全です。ピンクマウスならば複数与えても大丈夫でしょうが、心配ならば二日から三日に一回ぐらいのペースで、こまめに与えていったほうがよいと思います。他のヘビがそうであるように、ピンクマウスを与えている段階では成長が遅いので、コンスタントに餌を与え、なるべく早くにホッパーに以降にシフトして行きたいところです。健康状態や個体差もあるでしょうが、消化能力はそれなりにあるような気もしますし………とはいえ、無理をして吐き戻しをされると、個体へのダメージはもとより、もの凄い精神的ダメージを飼育者が被ることになりますので、焦らず、石橋を叩いて壊して新しい鉄橋を築いて渡るぐらいの慎重さでことに臨んだ方がよいと思います。どのぐらいが平気かというのは、一匹、二匹と飼育していくうちに慣れていくことであって、何も最初の一匹で試すこともないんじゃないでしょうか。たぶん、生後一年ちょっとぐらいで、ホッパー食べられるようになると思うのですが………まだそこまで突き詰めて飼育していないので、断言はしかねますね。

■ 繁殖/Breeding  ■

 パワーフィーディングをして、やたら早く殖やした例もあるようですが、それは結局「弊害があるので辞めた方がよい」という当たり前の結論を導いただけだったようですので、オスで2年、メスで3年ぐらいは成長させたほうがよいでしょう。此のあたりは個人の飼育技術による部分が大きいので、何年と表現して良いものか悩むところでもあります。ただ、ゆっくりと大きくなるタイプのヘビですから、一般的によく知られる低地のナミヘビと同じような速度では成長しないと思うので、やや長めに様子見すると良いのでは、という気がするのですよね。メスは最低でも全長が90cm以上は欲しいところです。もっと大きくて悪いことはないでしょう。

 □冬眠

 自然下では10月から12月半ばまでに休眠し、12月の終わりから一月頃に交尾するようです。飼育下では別段、この月に合わせなければいけないということはないようですが、冬眠期間はほぼ同じ、2.5-3ヶ月を取ります。冬眠温度は14-15℃で昼夜差の必要はなく、光源周期は日本であれば自然任せでも構いませんが、管理下に置くならば日中8時間以下が望ましいようです。完全に真っ暗にしてしまうという話も聞きますが、別にそうしなくても発情します。
 ただし、冬眠温度はかなり厳密に調整したほうがよいようです。温度9-12℃で寝かせた時、発情自体は雌雄共にしたのですが、しかし精子か卵子か、何れかか或いは両方かに弊害があったようで、受精率が著しく悪かったからです。系統を異にする複数の個体で、それぞれ二年と三年ほど試しましたが、総てが受精率が悪かったので、現在では管理人のナミヘビ繁殖の経験則ではやや高めと感じる温度ではあるものの、14-15℃を維持するようにしています。

 温度以外にも、メスを寝かす上で幾つか問題があります。前年度の交尾を受けて冬眠開けに無精卵を産んでしまいやすい傾向があること、また一年の間の減り張りを感じづらいのか、産後に餌をよく与えて立ち上げと共に翌年に備えようとすると、秋口から冬、寝かす直前になって無精卵、或いはセカンドクラッチを産卵してしまう事があることです。此を防ぐ手立ては、よく分かりません。一年通して餌遣りや温度管理を調節することで防げるように思えますが、しかし厳密にこうすれば避けられるという指針が見出せていないのも現状です。現時点では、取り立てて注意しているわけではないのですが、殆ど起こらなくなったので、低温で寝かせていた頃の弊害かタイミングのズレを引きずってしまっただけだったのかもしれません。

 他のヘビがそうであるように、本種も起こしてから一ヶ月程度で発情しますが、必ずしも脱皮は交尾の必須条件ではないようです。一ヶ月以内に脱皮してくれればそれに越した事はないのですが、そうでない場合の話です。少なくとも雌が脱皮している状況で、雄は未脱皮であっても発情し、交尾に至ったことがありました。本種に限らずヘビ全般に言えることではありますが、本種を始めとするベニナメラやタカサゴナメラでは、オスが発情していることがかなり重要です。メスの発情がそこそこでなくても、オスがアプローチをすれば上手くメスを発情へ導き、交尾へ流れる傾向があるのですが、逆は観察できないからです。ただし、メスにもそれなりに気が起きないと、オスが幾らアプローチしても受け入れないので交尾が成立しませんから、メスはどうでよい、という訳ではありません。オスに遣る気があり、慣れていれば、メスを上手く誘導して円滑に発情させ交尾へ促せる、という程度の意味です。
 オスをメスのところへ入れる方式も、メスをオスのところへ入れる方式も、どちらも交尾を確認しているので、どちらがよいかは判然としません。その時々で、選んでいくのがよいでしょう。
  交尾時間は七回の平均を採ってみましたが、3時間前後。他の亜種に比べて短いようです(半分ぐらいですか)。

 □交尾~産卵

 飼育スタイルにもよりますが、床材に土を使っている場合、土中に産卵することがあるので、卵の回収に注意が必要です。例えば、産卵床として用意した水苔の中に三個、地中に一個、という変則的な産卵の仕方をすることがあり、それに気付かないと、後々泣かされてしまうこともあるかもしれません……(遠い目)
 案外深いところに産卵されていても、用土の濡れ具合が適切であれば普通に発生しますので、土を掘り返す時は丁寧に、埋まっているのではないか、と疑いながらやるのが吉です。経験から言っている訳ではないですよ。ないですってば。

 交尾から産卵まで何日なのか詳しいデータは見当たらなかったのですが、大体40-60日ぐらいであるようです。ただ、70日たって漸く、というケースもあったので、或る程度幅があるのでしょう。
 この、70日というのは管理人の経験です。何故かこれだけの日数を要しました。初回の挑戦の時だったので、随分と気を揉んだ記憶があります。ただし、現時点での手元のデータを見てみると、この時以外は、だいたい45日前後になっています。最初に70日だった個体も、翌年は45日前後で産卵しているので、個体差ではなく、その時の調子などに影響されるのでしょう。もうちょっと掛かっても、深く考えないほうが良いかも知れません。実際のところ、産卵まで70日掛かったケースでも、卵は有精卵で発生していました。

 此らから考えるに、産卵床は交尾後30日ぐらいから設置していくのがよいでしょう。産卵床は、普段飼育しているケースに多少細工を加えるという程度ならばともかく、直前に入れるようだと、神経質なヘビでは驚いて警戒してしまうことがあるので、産卵前脱皮よりは前に設置するようにすると安全です。
 交尾直後はメスに積極的に餌を与えても問題はありませんが、卵胞が成長してくると目に見えて腹部が膨らみます。それを考慮に入れ、暫くしたら小さい餌を複数、消化するごとにまめに与えていくスタイルに切り替えたほうがよいでしょう。というか、膨らんで来てるな、と思えたら、もう止めておくのが無難でしょう。此処で辞めても支障なく卵に栄養が行くように、前年の秋までにしっかりメスの体を整えておくことが大切になります。
 この時、体型から見て膨らみが、側面部にはあまり感じさせず、あくまで腹部方向にのみ出るような、触れなければ分からない程度となるサイズが繁殖に安全なサイズであろうと管理人には思われ、そこから逆算される長さが雌で90cmだろうと思います。ヘビに限らず、繁殖の基本は、飼育がしっかりと出来ているか、否かに掛かっているのは敢えて言うまでもないことでしょう。

 産卵数は通常4-5前後、体長も関係してくるでしょうし、個体差もあるようですが、記録されている最大数は10だそうです(どこで読んだ情報だか忘れましたが……海外だったと思うのですが………)。

 □孵化~餌付け

 孵化温度は不明ですが、定温管理で45日から70日で孵化。というのが、知られている情報です。随分と幅があります。
 必ずという訳ではないですが、大抵のヘビで、交尾から産卵までの期間と産卵から孵化までの日数はほぼ同じになるような気がしています。管理人は、これがほぼ同一になる孵化温度が、その種に於いて最適かは別にして、自然なのだろうと考えています。というか、基本、飼育温度と同じ温度で管理することを良しとしているのですが、そうやって管理すると(高い温度を好む種類では高い温度で孵卵する)、だいたい上のようなケースになると後から気付いただけなのですが。
 ところが、どうも本種に限っては、そのセオリーが無視されている感があるというか、交尾後45日前後で産卵された卵が孵化したのが60余日後だったことがあります。かなり幅があるというか、その要因が今一つ分かりません。温度管理は24-26℃前後なので、此の手の仲間としては決して低いということはなく、むしろ此ぐらいが普通だと思うのですが……。
 この辺りは、もう少し繁殖データが出揃って来ないと、何とも言えないところですね………。今の処、ベニナメラの亜種の中で(といっても三亜種しかないですが………)、一番訳が分かりません………飼育は、そんなに難しくないというより、簡単な部類なのですが……。

 ただ、海外では沢山繁殖されている種類なので、「管理人の繁殖方法がヘタ」というのが理由なのではという疑念が拭いきれません(汗) ってか、普通に考えたら、これが一番自然な結論なんですよねー。

 培養基はパーライト100%で問題なく孵化します。おそらくは腐葉土や、水苔だけでも孵化するでしょう。素材は何でも良いのではないかと推察されます。
 用土にもよりますが、パーライトやバーミキュライトで言うならば、同質量の水を加えて、通気用に穴を空けたタッパーウェアなどに入れておけばそれで完了です。乾燥が不安ならばパーライトとバーミキュライトとピートモスを混ぜ込んだものがオススメです。これは、ピートモスの色合いで視覚的に、水分の度合いを判断できるからです。ピートモスにしろ椰子殻土にしろ、この手の水分含有量を視覚で確認できる点で便利ですが、ただし、どちらにしろ、完全に乾燥した状態では撥水性が高く水を吸収しないので、最初にピートモスに水を注ぎ、握り固めるようにして水を含ませ、それを他の用土と混ぜ込んでから水を吸収させるようにして使うことと、後から加水するにしても、完全に乾燥するよりも前に加水するようにするという注意は必要です。

 ただ、多くのヘビがそうであるように、産卵直後は水分を多く必要とする傾向があるものの、水分を吸収して二回りほど膨らんだ後、孵化期間を半ばまで過ぎた頃ともなれば、シビアな水分を要求しないように思えます。余程目に見えて凹みが激しいというような場合でもなければ、加水の必要はないでしょう。むしろ、そうした状況になってしまったら、孵化器の設定や、大きさ用土の量などを見直す必要があるという事なので、翌年度までに孵化器や設置場所を再検討したほうがよいでしょう。

 孵化から、週間前後で初脱皮(ファースト・シェッド)を終えます。この期間は乾燥に注意するべきでしょうから、床材は潜れる腐葉土や椰子殻土などを用いると良い気がします。

 餌付けは比較的容易な部類でしょう。そもそもベニナメラというヘビ自体が、荒い気性を持っている傾向が強いため、積極的に咬んでくるものです(ただ、威嚇レベルであることと、咬んだところで、成蛇であっても牙が短いので傷になることすら珍しいですが………)。その割にはタカサゴナメラのように神経質という程でもないため、咬んでくればそのまま呑み込んでくれるように思います。また、置き餌でも結構簡単に餌付くようです。

 ただし、これには隠れて安心できる環境であることが前提で、流石にプラケースに新聞紙を敷いて何も入れないような環境にして、餌付けるというのは無茶が過ぎますが………。
 基本的な餌付けの環境、すなわち潜れる土壌、隠れられるシェルター、適度な湿度と適切な温度勾配、新鮮な飲料水を準備してやれば、程なく餌付くという意味です。そして、一度餌付いてしまえば、簡略化したレイアウトでも食べるようになるようです。

 ただし、孵化直後のサイズは煙草と同じかそれよりもやや細身です。卵のサイズからすれば大きく感じられますし、他のヘビで言うならばコーンスネークのマイアミ系の孵化サイズよりは大きいレベルなので、ピンクマウスのSサイズぐらいから餌付けは可能であるようですが、しかし、顎をそれほど大きく開けないのか、マウスの頸の曲がりが喉につっかえるように見えるので、初期はピンクマウスの頭骨を潰し、肋骨を折って柔らかくし、場合によっては肩から先を引き抜いて小さくしたり、或いは刻んで細かくしたものを与えるとよいでしょう。
 こうした餌の問題点は、床材に触れるとそれを吸着してしまい、結果、それを咬んでしまうところにあります。土は少量であれば問題にならないのですが、切断したピンクマウスなどでは吸着する土が多いので問題です。皿のようなものに入れてもよいのですが、その場合はシェルター近くに置いてしまうと、餌に食いついた後、安心して食べられるようにシェルター内部まで引きずっていって飲むことがあります。それだと意味を為しませんし、また最悪なのが水苔をシェルターに使っていて、運悪く水苔の端が餌に絡まってしまい、水苔を一房飲んでしまった場合です。排泄できないので吐き出させないと大事になるでしょう。
 そうした観点から、できるだけピンセットから直截餌を与え、呑み込むところまで確認したいところです。ですが、なかなか餌付かない場合はそうも行かないでしょう。その場合は、ヘビの全長の六割前後の大きさの皿かタッパーウェアの中に餌をおいておく、というのが次善の策でしょうか。皿やタッパーの大きさを前述にしたのは、全身まで入ってしまえば、餌を咥えて引きずり出して食べるよりは、そこでそのまま食べることが多いからです。遮蔽物があったほうが落ち着くならば、餌の上にシェルターを被せておくという選択肢もあります。ただ、刻んだ餌は劣化が激しく、さらにシェルターを被せてしまっては、そもそも気付いて貰えないという場合もあるので、広めの皿に置き、入り口から一割から二割程度を覗かせて、残りがシェルター内部に隠れているというような塩梅にし、発見されやすいようにしておいたほうがいいかもしれません。或いは、そのシェルター自体が、ネズミの巣であると分かるような工夫――藁などで編まれた鳥の巣などを用い、それをマウスの飼育ケースに入れて臭いをつけ、それを餌付け用のシェルターとして使用するなど――も有効でしょう。
 他にも、いろいろある小技のどれかしらが使えるのではないかと思います。個体差というものがあるが故に、これがあれば完璧、というような唯一の解答は存在しないでしょうが………。

 ただ、どんな飼育技術にも言えることですが、一つ一つは大した工夫とも言えないようなちょっとしたことでも、積み重なって手札が多くなれば、それだけで有利です。飼育に際して余裕も生まれます。とはいえ、手札ばかりがあると、却ってどれを選択するのが正しいのか判断つきかねるというところもありますから、多ければ良いというものでもないでしょう。選択肢から、ケース・バイ・ケース――或いは現在飼育している個体の性質――に応じて的確なものを選び取り、さらに組み合わせ、かつ必要となるタイミングに果断なく実行できるか、というのが重要なのであって、選択肢の数は本質的なものではないような気もします。或いは、このあたりを選択する能力を、センスと呼んだりするのかも知れません。

 …………と、いうわけで。まぁ、つらつらながながと書いてみました。なんというか、なんか短いとつまんないし、長ければページの見栄えよくなるかもしれんという理由で長々と書いてみた!というだけで、大抵はピンセットから普通に餌付くと思うので……そんなに工夫いらないんじゃないですかね……
 ということで、この頁の存在意義が、ほぼ否定された気が(苦笑)

 或いは、多少工夫は要るのかもしれませんが、でも、繁殖させるまで本種を飼い込んでいれば、それに必要となる工夫の一つや二つは身に付いているでしょう。知識と経験で、だいたいはどうにかなる、というのが、CBの素晴らしさですね。


■ 後書き ■

 これを書くのに、飼育を始めてから六年、繁殖を試み始めてから三年を要しました。
 といっても、十年とか掛かっていないので、まだ短いと考えるべきかもしれません。ですが、WCではなくてCBで始めてなので、そう考えると、やはり時間を取ってしまったような気もしますね。

 此処まで読まれた方にはもうお分かりかと思いますが、管理人が持っている成功の方法論は只一つ、”成功するまで”、試行錯誤を繰り返し、挑戦し続けること、です。
 勿論、正しい方法、正しい方向性でなければ失敗するだけでしょうが、正しい方を向いていても、そこまで進まなければ結果は出ませんから………。管理人の場合、今ひとつ方向や方法が上手くなかったために、ここまで時間を要してしまいましたが、ひとまず結果が出せたので、暫くは落ち着いて飼育を楽しむことにしようかと思っていたりします。

 このページが、ベニナメラを飼育したいな、と思ってしまった人の役に立ちますように。

Oreocryptophis porphyraceus coxi CB female
2003.09.13 2003.10.27 2004.03.16 2004.03.16 2007.01.06 2007.01.07
Oreocryptophis porphyraceus coxi CB male
2007.12.16 2004.03.15 2005.10.10 2006.01.08 2006.12.17
Oreocryptophis porphyraceus coxi CB2005 female
Oreocryptophis porphyraceus coxi CB2005 male
Oreocryptophis porphyraceus coxi
Oreocryptophis porphyraceus coxi Breeding2008
2008.04.27 2008.04.27 2008.05.29  2008.06.12  2008.08.17   2008.08.17
(LastUpdate:(2011/04/21))
 2010/10/28:全項目書き下ろし終了
 2011/04/19:一部改稿


 ■参考文献/reference
 A Monograph of the Colubrid Snakes of the Genus Elaphe FITZINGER
 Reptilia No56 de( 2006)
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