餌図鑑/Pet's food picture book

 Thermobia domestica/Firebrat/マダラシミ

 マダラシミはメジャとは言い難いですが、「飼育ケースさえ作ってしまえばあんまりメンテナンスしなくても維持出来る」系の餌昆虫で、ちっちゃい生き物の飼育者には好まれているものの一つです。まぁ、海外全般を含めた場合の話で、日本ではどれぐらいいるかといえば、そんなに多くはないかもしれませんが………。

 日本にも古くから、ヤマトシミやセスジシミなどが棲息していますが、都会に住んでいるせいか、管理人は、今迄の人生で家の近所では見たことがありません。森とか、郊外では見たことがあるのですが。

 マダラシミは世界中の熱帯、亜熱帯地域に分布するとされるシミの一種で、日本でも沖縄の西表島、与那国島などでそれらしき種類を見掛けた記憶があります。別に穀物倉庫であるとか、人家であるとかではなく、普通に屋外でした。西表島では、けっこう建物からは離れた車道で見たことがあったような……何か他のシミと見間違えたりした可能性はありますが………ちゃんと写真撮影しとかなきゃいけませんね。とはいえ、それなりに素早い動きで逃げちゃうのですけれど。

 大きさはメスがやや大きく体長11mm、オスは8-7mmぐらいであるようです。ボリューム感もけっこう違います。30℃以上の暖かい環境を好み、繁殖にはこれ以上の温度が必要とされているため、比較的安心して使えるシミかな、と思っています。というのも、シミは紙魚という名前で日本で呼ばれていますが、紙を舐めるように食害することが知られているので、取り扱うのもなんか怖いな、という気がしていたのです。マダラシミも紙を舐めるように食べる様子は観察されますが、万が一にでも逃げてしまたっとしても、冬になれば全滅は必至なので、まぁ心配しなくてもよいかな、と思うわけです。もっとも、通年それなりの温度に維持しなくてはならない理由のある施設だと、なかなか問題かもしれませんが。


 マダラシミの飼育ケース例。
 コバエシャッターつきプラケース(もしくは、普通のプラケにハエ侵入防止シート)+プレートヒーター+卵パック、クッキングペーパ、脱脂綿(産卵床として)+水容器

 飼育は温度と空中湿度を維持できればとても容易な餌昆虫です。餌図鑑の他のところを見ると気付くかもですが、このサイトではワラジムシのページでは餌ムシと書いていたのに対し、シミのことは最初から餌昆虫と書いています。なぜなら、シミは歴とした昆虫だからです。
 昆虫は発育の段階で体の形状を著しく変化させることが出来、それは変態と呼ばれます。蛹の期間がないバッタやトンボなどのような不完全変態と、蛹の期間があり幼虫時期は成虫時期と姿形が全く異なる蝶やカブトムシなどのような完全変態が有名ですが、より原始的な形態を残しているものに無変態というものがあります。無変態昆虫は昆虫の中では極少数のグループで、シミ、イシノミ、トビムシなどがこれとされます。成虫と幼虫の姿形は殆ど同じで生活史も殆ど同じで、名前の通り、変態らしい変態を見せません。
 そんなわけで、シミは産まれたときからシミらしいカタチをして孵化します。違いは、初令幼虫は、色が薄いぐらいでしょうか。色の着いた餌を食べると、ちょっと色がつきます。沢山いると、なんかわきゃわきゃとしていてかわいいです。管理人は実はフナムシがなんか苦手だったりするんですけれど、シミは平気ですね。あそこまで動きが速くないからでしょうか。人の好き嫌いはよく分からないものです。


 マダラシミの初令虫。

 マダラシミは平滑な壁面を登ることが出来ないため、プラケースやタッパーウェアから脱走することが出来ないとされますが、かといって蓋をしないで飼育する人がいるとも思えない気がします。そもそも空中湿度を維持しないと飼育できないので、やっぱり蓋はあったほうがよいでしょう。管理人はいわゆるコバエシャッタープラケというので飼育しています。もっと大きいプラケースで飼育する場合は、不織布で作られたハエ侵入防止シートなどをはって通気を抑えるとよいようです。

 温度を維持すべく、底面や側面にプレートヒーターなどを立て掛けたり敷き、産卵場所を兼ねて、この暖かいところには脱脂綿を配しておくとよいでしょう。隙間っぽいところに産卵するので、クッキングペーパーや段ボールの端や隙間などにも産卵しますが、沢山産んで貰うのには粗めの脱脂綿がよいようです。

 初令幼虫はとくに、それ以上のサイズであっても、水滴に触れるとかんたんに溺れて死んでしまうため(こんなんでどうやって熱帯地方で生きているのか疑問なんですけど、ホントにあっさり溺れて死にます。てか、管理人は多湿なビバリウムに入れたことがないんですけど、こいつらカエルのビバリウムに入れて、生きていられるのかな………)、水容器はジャム瓶などに水を入れ、脱脂綿やガーゼなどで栓をしたものを入れて空中湿度を維持することで与えます。どういう原理でやっているのか知らないのですが(調べていないので)、空気中の湿度を吸収して水分を補給していると言われています。つまり、空中湿度が低いと、渇いて死んでしまいます。霧吹きをしたり床材を入れて濡らしたりしたら逆に良くないですが、水分を与える工夫は必要です。給水瓶は、濡れているアクセスできないように設置するわけなので、こんなので意味あるのか、と思われるかもしれませんが、これがないとあっさり全滅するそうなので注意してください。管理人は今のところ水を切らせたことがないので、全滅するのかどうか知りませんが、ホントにあっさり全滅すると聞いているため試す予定はいまのところありません。事故でいつか分かる日が来ないことを切に願うばかりです。
 水容器はこれ以外にも、紐タイプのコオロギ給水器や、小鳥用水入れの口に脱脂綿を詰めたものなどでもよいでしょう。ただし、初令幼虫などは水気のあるものに接触しただけで貼り付いて死んでしまうので、紐タイプを使うときは地面に接触しないよう注意が必要です。これらを使う意味ですが、口の大きいビンよりも、水が長持ちするからです。そのぶん放置することが出来るので、管理人は好んで使っています。

 立体活動をするので、足場があればより高密度で飼育することが可能ですから、卵パックや段ボール、厚紙を折るなどして作ったシェルタを入れましょう。段ボールだと小さい幼虫が穴の中に入ってしまい取り出しづらくなるので、管理人は卵パックを使うのが好きです。
 あまりにぱりっと糊の利いた紙では登れないかもしれないので、シェルタにするのには荒いぐらいの紙がよいのでしょう。ちなみに、餌が不足しようがしまいが、紙はそこそこ食べるようなので、かなり食べられたら交換、という感じでしょうか。とはいえ、表面を舐めるように食べる感じ出、クッキングペーパーやティッシュペーパーが数ヶ月で一枚ぶん(通常は二枚重ねですが、そのうちの一枚)、指先ぐらいの面積で何カ所か喰われることがある、というレベルで、交換するは必要にかられてというよりは気分で交換という感じですが………。

 このように表面を薄く噛みとって食べることができるので、餌は成型されたペレット状のものでも食べますが、初令幼虫から成虫まで全ステージを一緒に飼育することと、パウダー状のものを入れてみたところ、明らかにそちらのほうが消費速度が速いようなので、パウダー状のもののほうが良いかな、という気がします。管理人は安価な電動ミルを購入して、ハムスターフードや鳥の餌などをパウダーにして与えています。撒くのではなく、登ったり入ったりしやすい紙を折って作った皿や素焼きの皿などに入れて与えるので良いでしょう。

 魚の餌、いわゆる熱帯魚用のフレークフードでも飼えないことはないですが、あれらは動物性タンパク質の割合が多すぎるというか、それなりに価格がするわりに、シミに与えて意味があるものではないので、コオロギなどのように、植物質が多め、高くてもタンパク質は20%かそこらのもので十分であるようです。魚には意味があるんでしょうけれど、魚と昆虫では、やっぱり必要な餌が違うわけですから。

 成長は緩やかで、幼虫から成虫になるまでには、温度にもよりますが長くて四ヶ月以上を要します(温度が最適だと、かなり短くなると聞いたのですが、産卵は最短で何ヶ月なのかな)。つまりは、けっこうな量をわさわさと殖やしておかないと、使うに使えないということです。ただ、一度ある程度の成虫を得られれば、成虫の寿命は三年程度はあるとされるため、安定的に繁殖させることができるでしょう。成虫はある程度キープしておき、小さいものや中ぐらいのサイズを使うのが良いかもしれませんね。


 マダラシミの卵、直径は約1mm。写真はクッキングペーパーの隙間に産卵されたものだが、産卵場所としては脱脂綿が優れている。

 幸い飼育は簡単の極みで、幼虫から成虫まで過密で飼育しても殆ど問題らしい問題は起こりません(餌のクオリティにもよりますが、そういったところから混ざり込むことのある、ツツガムシぐらいでしょうか。まぁ、居てもあまり関係なくシミは殖えますが………)。卵は、産卵された場所にそのままにしておけば、孵化します。30℃以上でないと産卵の効率が落ちるという話ですが、気温25℃の環境で、プラケの下1/2ぐらいにスーパー1というプレートヒーターを入れておいたら(当然、水入れはこれの直上には来ないようにします)、なんか殖えていました。なんとなく殖やすだけならば、プレートヒーターさえあれば、あまり工夫せずとも問題なさそうな気がしますが、でもやはり暖かい温度のほうがより殖えるのは確かなようです。ただ、温度の違いでどれぐらい殖え具合が変わるのか、調べていないのでよく分かりません。至適温度はどのぐらいなのかな………32-34℃あたりを調べてみましょうかね………まだやっていないので分かりかねますが、温度が変わると湿度維持のノウハウも変わるかもしれないので、高い温度で飼育するひとは、そのへんのことに注意したほうが良いかもです。 

 なんにせよ、空調した部屋であればプレートヒーターさえあれば、最高効率ではないとしても、そこそこの飼育繁殖するぐらいの温度条件などは、簡単にクリアできるわけで、空中湿度は水入れに任せればよく、あとは餌さえあれば、メンテナンスをせずにけっこう放置しておいても問題はないというか、放置したほうがよいような虫です。空中湿度を水容器で少し上げてはいるものの、湿っているわけではなく、飼育温度の高さもあって、匂いもほとんどしませんし、ちっちゃい虫であることもあって糞も細かく目立ちません。糞も細かく、ケースの大きさや数にもよるのかもしれませんが、数ヶ月に一度掃除する程度で十分であるようです。ただ、ダニが湧くと面倒ではあるので、怠けるのはほどほどに(ただ湧いた経験はありません。ダニが湧くには乾燥しすぎているのかな)。

 つるつるした壁面を登れないので、移動は簡単です。プラケやタッパーの上で紙パックや段ボールなどを軽くはたいて落とし、まとめて、新しくセットした飼育容器に流し入れるとよいでしょう。長めの柔らかい筆などがあると、初令などを潰さずに移動できるので便利です。コオロギのピンヘッドにも使えるので、一家に一本、絵筆はあるとよいかも?

 そんな訳で、入手さえできれば飼育繁殖は簡単なのですが、使い所が難しい昆虫で、うーん、ヤドクガエルの飼育書とかで紹介されていますけれど、ビバリウムに入れて溺れないのかな、こいつら。試したことないんですけど……ケンランカマキリの飼育には良いとか聞いた覚えがありますけど、どうなのかな………うちにはいませんしね、ケンランカマキリ。まぁ、普通にゴーストマンティスとかは食べましたけど。

 管理人は主に何にこの虫を与えているかというと、ヒルヤモリのベビーやLygodactylusSphaerodactylusPhelsumaのベビーといった、孵化サイズがとても小さい連中です。ピンヘッドのコオロギで良いじゃないかって? ああ………ええと、うん、その通りですね………でも、コオロギって殖やすの案外たいへんだし、これが衣装ケースにひとつあれば、けっこうな数のチビっちゃいヤモリを飼育できるから、ちっちゃいもの飼育者には、個人的にかなりオススメな気がします。それに、飼うだけでもけっこう楽しいですよ?