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Pet's food picture book/白蟻/シロアリ


シロアリ。種は不明
 却説……シロアリについて、高々一頁で語ろうというのが大きく間違っているのですが、此処では、あくまで餌昆虫としてのシロアリについて書いていく予定です。
 シロアリは、この頁でも白蟻と漢字を充てていますが、系統樹では蟻と近縁という訳ではありません。シロアリは昆虫網・有翅亜網・原ゴキブリ目・ゴキブリ上目・等翅目に属しますが、蟻は有翅亜網・膜翅目……となり、目の時点で分岐することから分かる通り、かなり離れています。
 シロアリに近縁なのは、カマキリやゴキブリで、分かり易い差異を挙げるなら、シロアリは不完全変態ですが、アリは完全変態です。
 コロニーを形成するという点ではアリと慥かに似ていますが、コロニーの形態を見てみると、大きく異なって居る事が分かります。以下、アリのコロニーについては省略し、シロアリについてのみ纏めて書いてみましょう。

 先ず、シロアリの社会の始まりは、一対の雌雄から始まります。此らは羽を有する為、シロアリの幾つかある階級の中でも有翅虫と呼ばるもので、特にコロニーの中心となった番(つがい)は創始虫とも呼ばれる事があるようです。
 シロアリの社会は徹底した分業形態で、創始の王と女王が生殖階級、そこから生まれた職蟻(しょくぎ)と兵蟻(へいぎ)が非生殖階級となっています。この二つの階級に属さないシロアリとして、有翅虫に分化する前段階のニンフ、職蟻、兵蟻に不可逆的に変化する前段階の幼虫がいますが、こうした未成熟なものを除いた成熟個体は、必ず生殖階級か非生殖階級に属します。
 非生殖階級は子孫を残す機能を持たない為、コロニーの形成は生殖階級である王と女王に完全に依存します。生殖階級の寿命は十年近くとも言われ、慥かに長寿ではありますが、何かの拍子で王か女王か、或いはその両方が倒れる可能性は否めません。コロニーの中核である王と女王の代替えは存在しませんが、そうなった時にコロニーが即時全滅ということに成らぬよう、王と女王以外の生殖階級として副王、副女王が存在します。副生殖虫と呼ばれる此らは通常、王や女王が健在ならば卵を産むことは有りませんが、若しもの時には生殖虫として働き、巣を維持、繁栄させて行きます。
 生殖階級は全コロニーの中で極々限られた部分であり、コロニーの大半は職蟻が占めます。彼らは巣を拡張するという役割を負っています。外皮が弱く、外気に肉体を曝すことを極度に嫌うシロアリにとって、巣はその体の延長に他なりません。我々が単身で山の中に入るよりも、山を切り崩し街を以て浸食するように(まぁ、シロアリの方がまだ節度ってものがあるでしょうが)、古木の中で広がっていきます。
 セルロースを分解することが出来るシロアリの真骨頂とでも言うべき能力は、この職蟻に備わったものですが、種により多少の差異が有ります。分類学上、高等シロアリと呼ばれる者達は、体内に原生動物を共生関係として持つ事なくセルロースを分解し得る能力(酵素でしょう)を持ちますが、下等シロアリとされる者達は原生動物との共生関係を必要とします。
 兵蟻を始めとする職蟻以外のアリは、成虫幼虫すべてが職蟻から口移しで食事を受け取ったり掃除をして貰ったりという世話を受けています。それだけでなく、蟻道の構築、拡張、修理などの凡そ生殖以外の凡ての雑用をっているのも職蟻であり、彼ら無くしてやはりコロニーの繁栄は有り得ないと言えるでしょう。

 ざっと簡単に纏めた以上の事を考えますに、シロアリの繁殖は極めて困難であると言えます。………と、言うか、今此を読んでいて「繁殖する気だったのか!?」と驚いている方がいらっしゃる事でしょう……でも、世の中、シロアリ食いの生き物を飼育する為に、試行錯誤に励んでいる人は少なくないと思います。

 ま、その辺の事はほっといて。飼育が可能かどうか? という部分に問題点を絞って考えてみましょう。
 生殖の能力を有するのは、シロアリの中ではごく限られた者達だけです。つまり、生殖階級を入手出来ないことには、シロアリは殖えていって呉れません。然し、生殖階級はそう易々と手に入りません。見つけるのが難しいでしょうし、持ち帰って来るのも大変です。女王だけを持ってくる訳には行きませんから、女王を含め、女王の世話をする職蟻も同時に持って来なくてはならない訳ですから。
 あと、自然界に存在する王と女王を持ってくるのは、やや問題な気がしないでもありません。とはいえ、国内でシロアリを殖やそうとする変人は、そう多くはないと思いますから、此処では捕獲圧に関しては気にする必要はなさそうですが(苦笑

 で、色々調べたんですが、日本に主に生息するとされるヤマトシロアリには、ある能力があるようです。職蟻の中でも、二年三年を生きた老成個体の中に、副生殖虫や兵蟻に分化する能力を持つ擬職蟻がいるそうで………職蟻を数十から百、巣から切り離すと、擬職蟻が副生殖虫となり、卵を産み始めるとか。

 この擬職蟻を見分ける方法は分からないのですが……或る程度の数を手に入れることが出来るならば、生殖階級を手に入れずとも、擬似的にコロニーを形成させ、シロアリを養殖することが可能になるかもしれません。

 僕としては、イエシロアリではなくヤマトシロアリの飼育の方を考えています。技術論としては、先ず外に出られない硝子若しくはアクリル、或いはポリプロピレン製の大きいケースであること。極めて細かいステンレスメッシュ或いはアルミメッシュを貼り付けて通気性を確保すること。
 ヤマトシロアリは拡散性のシロアリなので、ケースの周囲を流水で覆うなんてのも重要なのかもしれません。ドイツの蟻飼育設備ではそんなのやってましたね。
 問題は餌として与えた場合で、ケースからもそもそと出てきたシロアリが部屋に住み着くというのは少々というかかなり厄介です。そうなると、密閉度が高く、中から絶対に出られないのがベストということになりますが………

 …………なんか、面倒ですねぇ(苦笑)
 山へ遊びに行ったついでにシロアリを持って帰って、餌としてパラパラ与える程度に留めておく方がよい気がしてきました………

 然し、シロアリ食いの生き物は数多く、魅力的な事もまた事実。試してみるだけの価値はあるかと思いますよ。

 …………でも、家を囓られるかも、と思うと、なかなか遣る気は起きませんよね(苦笑)
 僕も木造の飼育部屋なもので、躊躇せざるを得ません。然し、其れでも尚かつ、「密閉の容器を使って……」と、考えさせてしまう程に、このシロアリという生き物は魅力的な餌虫であるということは、皆様が認めるところではないでしょうか?