餌図鑑/Pet's food picture book

 Woodlice/ワラジムシ

 ワラジムシは、平べったい足のたくさんある土壌生物で、その姿がワラジ(草鞋)に似ているムシだからワラジムシという、たいへんそのまんまな名前です。安直すぎます。でも昨今はワラジも一般的ではなくなったので、そのうちこっちが本流になって、「この藁で作った履き物って、ワラジムシにそっくり!」なんて会話が為される時代が来たりするんでしょうか。

 なんか、こういう名は体を表すという名前ってよいですよね。カブトムシとかクワガタムシとか、チョウチンアンコウとかもそうですし、イザリウオとか、ナマケモノとか、シオマネキとか、コモチヤモリとか。形態や行動であれば納得ですし、併せて生態を表していると面白くなります。正確な表現ではないとしても、タツノオトシゴやリュグウノツカイ、みたいなのもすごくよいと思います。名前には文化と智慧が詰まっていますね。

 英語ではWoodliceと言うそうです。liceはシラミの意味ですが、現代日本ではシラミってあまり馴染みがないのではないでしょうか。管理人は見たことがありません。しかし、何かの生物を表現するときに、別の生物に似てるように見えるからという理由で名前を拝借するのは、個人的には釈然としません。物品ならばまだいいかな、という気がするのですが……。こういう生物ひとつひとつに名前があるかどうかの文化の違いというのは面白いと思います。

 ワラジムシという名前を、管理人は子供の頃からいつの間にか知っていましたが、知らない人の間では、丸くならない(団子にならない)ダンゴムシ、なんて矛盾に満ちた呼び方をされることもあり、その語感に溢れる哀愁は涙なくては語れないとうことは別にないものの、ちょっと気の毒だなと思うこともしばしばです。でも、ワラジムシを知らない人でも、「丸くならないダンゴムシみたいなやつのことだよ」と説明すると通じるのですからしょうがないですよね。ダンゴムシの馴染み深さが、あまりにすごすぎるということでしょう。

 ワラジムシは昆虫ではなく、甲殻類に分類される生物です。親戚筋としては、エビや蟹がいます(かなり大雑把に言えば、ですが)。ダンゴムシは比較的近いです。

 彼らは陸上に進出しましたが、鰓で呼吸していることに変わりはなく、鰓に湿気が豊富にない状況、つまり乾燥すると呼吸が出来なくなってしまうため、林床などの空中湿度の確保された領域に棲んでいます。端的に言うと、落ち葉や倒木の下などを棲み家にしており、主に落ち葉や、他の生き物の死骸など食べる、森の分解者として、森林の林床と呼ばれるエリアで繁栄している成功した種です。こうした森林の分解者は個体数が多く、それはつまり上位捕食者の主たる餌になっているということでもあります。

 あ、そういえば、ワラジムシで検索かけて来ちゃった人には申し訳ないのですが、このページはワラジムシを何かしらの動物の餌として利用しよう、つまりその為に飼育繁殖しよう、というページです。ワラジムシを単純に飼いたい、という人向けではないような………。

 閑話休題

 このサイトで扱っている生き物の中では、ヤモリ、トカゲモドキ、トカゲ、カエル、イモリ、サンショウウオやヤモリと言った、両棲類(無尾類、有尾類)、爬虫類の中でも林床に生息する種の多くが、ワラジムシをよく食べます。クモやムカデなんかにも良い餌になります。一部の生き物には他の餌虫にはない、高い有効性(嗜好性)が認められることと、ビバリウムの中に放っておくと床材を綺麗にしてくれることも期待できます(個人的に、シロワラジの主たる存在意義はこれです)。

 ワラジムシは、コオロギやゴキブリといった餌昆虫に比べ、成長が緩やかであるため、短期間で大量に繁殖させることが出来ません。したがって、餌として利用するには、消費量よりもかなり多めに自家繁殖をするのが一般的です。ちょっと面倒くさいと感じられるかもしれませんが、短期間で大量繁殖がしづらいにも関わらず餌虫として利用されている生物は、維持するだけならば、そんなにメンテナンスの手間暇がかからないものが選択されているものです。ワラジムシもそうしたもののひとつで、飼育繁殖はとても容易です。


 シロワラジだと思われるもの。

■購入する? 捕獲してくる?

 さて、以前は幾つかのワラジムシが販売されていました。ホソワラジムシ/Porcellionides pruinosus やシロワラジムシ/Trichorhina tomentosa なんかが餌用ワラジとして有名でしたが、まぁたぶんそんなに売れないんでしょう、数年すると販売されなくなってしまうことがよくあります。

 と、いうわけで、当ページでは、最初の種親を捕獲してみるところから入ってみたいと思います。もっとも、シロワラジムシとかは日本国内には生息していないと思うので、あくまで採集出来る種類に関しては、ということいなります。また、管理人は知らないですが、飼育動物には有害なタイプのワラジムシも存在するかもしれないので、そのへんは各自の責任に於いて採集、餌に使用してみてください。

 それから、管理人は基本的に、「捕獲してきたものを餌とする」のが嫌いです。ワラジムシに限らずどんなものであれ、基本的にそのような行為を是としていません。捕獲してきたものを種親にして、殖やして餌にはしますが、捕獲してきたそれを餌にしたくないのは、特に衛生的な問題、どのような寄生虫を持っているか分からないというのが最大の理由で(ワラジムシと共通するものということではなく、屋外でそうした寄生虫に冒されて死亡した動物を食べることで消化管内にそうした寄生虫を持っているのではないか、という不安です)、他にも理由は幾つか挙げられますが、最大の理由はたぶん基本は嫌いなものは嫌いだからしょうがない、なのでしょう。なんか飼育者としてそれは負けな気がするんですよね。

 そんな訳で、ここで紹介するのは捕獲してきたものを種親にして飼育し、繁殖させ、それを餌にするということです。

 よくワラジムシを見掛けるならば、それを採集してしまえば良いと思います。ワラジムシは日本にはいくつかの種類がいますが、どの種類もそんなに逃げないし、結構集団でいるので、場所を見つけたならばそれをちびちび回収してしまうので良いと思います。

 日本には沢山の種類のワラジムシがおり、種により飼育方法がけっこう異なってきます。なので、基本的には捕獲した場所の環境を再現するのがよいでしょう。

 それとは別に、これはトビムシなどにも使える方法なのですが、飼育しやすい餌ムシを集めようという場合は、飼育するときに使おうと思う餌をトラップにするという方法があります。そして、このへんの環境なら再現できそうだな、とか、まぁけっこうこの辺、苛酷な環境だよな、という場所を探します。
 例えば、コオロギ用の餌であるとか、ハムスター用の餌であるとか、そういうよく使うものが既にがあるとします。それを森へ持っていき、なんかワラジムシとかいそうだなぁ、という倒木や落ち葉の下、岩の近くなどにちょびっとだけ(あくまでちょびっとだけですよ。でもちょびっと過ぎると食べ散らかされて終わってしまいますから、まぁ、ちょびっとかつそこそこ)置きます。 そして、数時間後とか夜とか翌日の早朝とかに、集まっているであろうワラジムシやらをごそっと落ち葉ごと回収、選別するわけです(ちゃんと残った餌も拾ってきましょう)。もちろん、天候とかが良くないと集まるものも集まりません。乾燥しきった真夏日とかは、湿っているところを探しましょう。

 この方法のデメリットは、まぁ他の生物も集まってしまうということです。ヤスデや、一般的には好まれないであろうモリゴキブリの仲間なんかも集まってしまうかもしれません。苦手かもしれませんが頑張りましょう。ワラジムシは平滑な壁面を上れないので、餌を入れたプラカップを地面に埋めておくという方法もあります。そこまでやらなくても捕獲できる感はありますが、いちおうそういうトラップも有効なので覚えておくとよいでしょう。ただし、当たり前ですが雨が降るときは使えませんし、必ずすべて回収することは当然です。

 ワラジムシはわざわざトラップを仕掛けなくても集められると思いますが、ワラジムシがいる場所にいるトビムシもちょっとは欲しくなるのが人情というもの。餌撒きで集めると、当たり前ですが、明らかにそれを食べるものが回収できるし、森で集まったような場所を飼育下でも再現すればいいだけなので、飼育の簡単な種類を集められることが多いです(林床から樹上へ移動するような生態の種類もいるらしいので、必ず簡単なものが集まるとは限らないでしょうが)。

 逃げられないようにバットや大きい容器(プラケやタッパー)に土ごと一端とり(トビムシは平滑な壁面を登れないからです)、そこから、湿らせた脱脂綿やティッシュペーパー、クッキングペーパーを敷いた、小さい穴をあけたプラカップやタッパーウェアに移して持ち帰ります。基本、管理人は森の土などを持ち帰らない主義だからです。これは、あんまり飼育環境に外部の土を持ち込むが好きではないってだけで、このへんは個人の好みだと思います。ただ、ちっちゃい土に発生するハエが入り込むと何かと億劫ですし面倒なので、これの侵入を防ぐ意味でも、やっぱり目的のムシだけを持ち帰ったほうがよいような気がします。

 温度変動が大きい場合、ケースが蒸れてしまい、そうなると全滅してしまうので、適度に穴をあけておきましょう。沢山あけるのがたいへんならば、プラケースに不織布(コーヒーフィルターみたいの)やクッキングペーパーを挟んだものでもよいでしょう。いちおう、保険のために2パックぐらい作るとよいのではないかと思います。

 家に持ち帰ったら、クッキングペーパーやティッシュペーパーを湿らせてケースに敷いたところに入れ、2-3日ほどペーパー類を毎日交換しつつ様子見をして、消化管に残っているであろうものを排泄させましょう。


 ホソワラジムシは枯葉を好んで食べる。

■ホソワラジムシの飼育

 ワラジムシには沢山の種類があるので、その飼育方法もいろいろでありましょう。例えば朽ち木周辺にいるやつには、落ち葉ではなく程良く朽ちた状態の朽ち木が必要だとか、そういうことがあるのかどうかは知らないのですが、あるかもしれないので、このページでは種類を限定しておきたいと思います。(例えば国内で捕獲できるちっちゃいタマヤスデは明らかに落ち葉ではなく朽ち木が餌として必要です。もちろん、腐葉土で飼育できるタマヤスデもいるかもしれないけど、鹿児島で捕獲したってやつは朽ち木じゃないとダメだった)

 まずはホソワラジムシ/Porcellionides pruinosusについて。
 ホソワラジムシは一般的な林床のワラジムシで、枯葉などを主食にしているワラジムシです。実は帰化種なのだそうですが、けっこう既に全世界的に広まっているようです。まぁ、人間と同じですね。飼育するときには用土には腐葉土を基本とし、あとは広葉樹の落ち葉を入れておきます。管理人はサクラ、ホオ、クヌギなどが入手しやすいので、それらを利用することが多いです。

 ホソワラジムシなどは枯葉や腐葉土をよく食べます。そこで腐葉土をベースとしつつ、バークファイバークリプトモスといった樹皮培養土をちょっと移植し、そこからトビムシが発生することを期待していたりします。既にトビムシがいるひとは、それを移植すればよいでしょう。

 腐葉土を殺菌するかどうかに関しては、好みで良いとは思いますが、市販されている腐葉土には大抵クチキバエが湧くことが多いというのがあって、これだけは屋内飼育する以上は解決しておきたいところです。クチキバエはノミバエとかに比べれば、あまり害にはならない、ちいちゃいコバエですが、飛び回っていると、口の中に入ったり鼻から吸い込んだりとかする羽目になって、家族の不興を買う危険性は多いにあります。管理人は腐葉土をレンジでチンすると家族に怒られるので、熱湯か天日干し派です。熱湯を使うと腐葉土の中の良い感じの菌も全部いなくなてしまうでしょうが、そのへんは前のワラジムシの飼育ケースからとか、まぁワラジムシを移植すればそれにくっつているのが移植されるだろう、という風に適当に考えています。今のところそれで問題ないですし。ただ、最近は何かと面倒くさがりになってしまって、炎天下の日に、ビニール袋の腐葉土をがんがん太陽に当てて裏表やっとけばいいんじゃないかな、みたいな手抜きをやっています。効果のほどは定かではないですが、クチキバエは出ないから、まぁいいかな、と。ただ、これだとなんかイヤな菌が板場合、侵入を防げないかな、という気はしますが。

 ワラジムシは前述したように、短期間での大量繁殖が出来る生き物ではなく、緩やかに殖える生き物ですが、幼虫から成虫までを同じケースで飼育できるため、飼育ケースを作ってしまえば比較的シンプルに飼育できます。コオロギのように、採卵、孵卵といった管理は特段必要ありません。ワラジムシは卵を体の下側(胸のあたり)のところに抱えて孵化させるから、卵を取り出しようがないのですが。

 ホソワラジムシは、幼虫から成虫までの全ステージで、乾燥に弱いので、乾燥には注意が必要です。日本にいるワラジムシの多くはそんなにべちゃべちゃな環境が好みということはなく、表面がほどよく乾燥しているぐらいが好きですが、あくまで湿度は高いが表面は濡れていない、というのが好きなだけで、湿度がないと直ぐ死んでしまいます。

 かといって濡れていればよいかといえば、ホソワラジムシは全身が濡れたまま乾かないと体調を崩すようなので(濡れない場所に移動します)、基本、表面は乾燥していいるが地中は湿っている、という状態を作ります。具体的には、腐葉土を5-8cm程度敷き、その底面に水を注ぐようにして、地面の一番したはけっこう湿っているという状況を作るだけです。掘れば湿り気を帯び、一番底はけっこう湿っている、でも表面は湿っているけれど濡れていない、みたいな。そして、その上に枯葉を軽くくしゃっとしたものを散らし、ちょっと大きめの枯葉を入れます。これは、床材である腐葉土や樹皮培養土などは湿らせておきつつ、表面から上はやや乾燥気味、という環境が作りやすいからです。ワラジムシは乾燥したところへ行きたければ枯葉の上に登りますし、例えば脱皮するときなどは下のほうに潜ります。必須ではないですが、よく食べているようですし、全体の目安になります。ただし、公園などの場合は落ち葉をそもそも持ってきてよいのか?という問題がありますし、もしも公園で農薬を使っている場合は、ワラジムシが全滅することも起こりえるので、注意が必要です。

 枯葉の表面はやや渇いて見えるが、地面に触れている裏側は、地面から蒸発した水分でほんのり濡れている、そして床材である腐葉土の表面も同じぐらいちょっと水気を持ってはいるが、濡れているという程ではない、という塩梅を目指します。とはいえ、まぁ案外適当にやってるんですけどね。

 この手の環境を簡単に作るには、プラケースではちょっと通気性が良すぎますので、ハエ侵入防止シートを挟み込む、タッパーウェアなどの密閉容器の側面に通気口を設けたものを使うと楽でしょう。管理人は側面に直径2-3センチの穴をあけ、ホットボンドで#80-100ぐらいのステンレスメッシュをホットボンドで貼り付けたものを好んで使っていますが、ワラジムシなどは平滑な面を登ることができないので、半田ごてやドリルで数ミリの穴を沢山あけたものでも大丈夫です。

 餌は腐葉土と、あとカルシウム剤(カルボン)や、さっと茹でた卵の殻などを入れておくとよいと言われています。カルボンをそのまま入れておいても、そこまで目立って減ったりしないのですが、気は心、ということで入れることにしています。ただ、粉末にしたほうが食べやすそうかな、という気はしますね。管理人は電動ミルで砕いた卵殻カルシウムが手軽なのでよく使います。

 ワラジムシの仲間は、自力でセルロースを消化することが出来ると言われており、これはとても特殊な能力ですから(シロアリですら共生する微生物に分解してもらっている)、それを獲得している生物である以上、少なくともセルロースは与えたほうがよいのでしょう。実際、ホソワラジムシなどは枯葉や、腐葉土をよく食べるようですし、日本で森の葉っぱの下とかにいる連中はだいたい腐葉土を食べるのですから。

 幾つかのワラジムシでは、動物質の餌も食べる種類はいますが、そんなに高タンパク、動物性タンパク質ばかりが必要というわけでもないようです。ホソワラジムシはそこまで動物性タンパクを好むという感じはしません。なので、植物性の餌、たとえばウサギの餌や、植物を食べるタイプの魚の餌、たとえばプレコの餌などがよいでしょう。メインは腐葉土と枯葉、でもそうした餌も与えることでわらわら殖えるのを期待、というところでしょうか。コオロギの餌も植物性のものが多く入っているので、管理人はよくこれを使っています。

 ただ、どの餌であれ、湿気がある環境では地面に直接置くと、通気性のよろしく無さも手伝ってたいてい黴びます。プラスティックプレートのようなものに盛って入れましょう。皿でもいいですが、その場合は浅くして地面ぎりぎりに置かないとワラジムシが入れないので、乾燥した葉っぱや樹皮などで橋渡ししてやるとよいようです。

 あんまり立体活動する生き物ではないので、ひとつのケースの中で、コオロギなどのようにわさわさ飼うのは難しい気がします。そこそこ過密で飼うものではあるのですが、あくまで平面的な意味で過密という感じではないかと。なので、大量に繁殖させたい場合は、たまにメンテナンスするだけの放置しておいても維持できるケースを作り、あとはそのケースを複数用意するのがいちばん楽でしょう。管理人はけっこうほったらかしにしても大丈夫なように、ちょっと高さのあるタッパーを使っていますが、10センチぐらいの薄いタッパーウェアでも簡単に飼育できます。沢山殖やしたいときはどんどん積むとよいでしょう。ただ、個人的には積むんじゃなく、引き出せるようなボックスを作るほうがメンテナンスしやすいので、そういう棚を作っちゃうのがオススメですけど、でもまぁ、そこまでワラジムシを殖やすのに力を入れる人は少ないような気がしますね……これだけで飼育できるという生き物がいるわけではないと思うで………


 カビをものともせずに殖えるシロワラジムシ

■シロワラジムシの飼育

 シロワラジムシはよく分からないワラジムシです。Trichorhina tomentosaという学名で呼ばれているらしいです。中南米に原産するとか。まぁぶっちゃけると由来とかはあんまり調べてないというだけなのですが、ともかく屋外では採集できませんから、このワラジムシは基本的に購入するか、知り合いから分けて貰うことになるでしょう。

 シロワラジムシの飼育用土には、管理人はヤシガラ土を使うことを好んでいます。あるいは、樹皮培養土でしょうか。床材は押し固めず、ふんわりと入れてやります。バークファイバーなどを混ぜ込んでもよいかもしれません。程良くトビムシも湧きますしね。用土としては、他に腐葉土、燻炭(籾殻を炭にしたもの)のほか、いろいろ混ぜたものも使えますが、いずれにせよ燃えるゴミとして廃棄できる植物性のものがよいでしょう。飼育温度は24-27℃ぐらい。それほど暑すぎる環境は得意ではないようです。

 通常、こうした土壌に生息するムシの飼育では、カビが生えるのは望ましくはないのですが、シロワラジムシは例外で、なにやらカビが生えるような状況でも平然として生きています。というか、明らかにカビが生えたような場所とそうでない場所だと、カビの周辺に集まっています。カビや酵母を食べているのかどうかまでは分かりませんが、黴びている植物質のものも平然と食べているのは間違いないでしょう。
 ホソワラジよりもちょっと湿度の高めな状況を好みますが、過湿はよくありません。これは過湿に弱いというよりは、シロワラジを飼うような密閉容器で過湿になると、未発酵の用土を使っている場合はそれらが発酵したり、餌を入れすぎたときに腐敗したりカビすぎたりしまいがちになるからかな、と思います(そういう意味では、ヤシガラ土よりもピートや樹皮培養土のほうが土として向いていると言えるかもしれません)。というのも、ワラジムシ自体は、べちゃべちゃな環境でも、排水される状態、例えばヤドクガエルのビバリウムのような場所では、コルクの下のところで平然と暮らしている様子が観察されるからです。とはいえ、ヤシガラ土を密閉容器でそんなべちゃべちゃなことにしたら、あっさり嫌気性発酵を起こしてたいへんなことになるので、軽く絞って水滴が出ないぐらいの湿り気をベースとするのがよいでしょう(ぎゅっと絞って、ではなく、軽く。けっこう湿った状態です)。

 管理人は腐葉土で飼育していないので、我が家のシロワラジムシは、主にオートミールを電動ミルで粉砕したもので飼育しています。他にも、野菜屑(白菜、にんじん、茸の石突き、バナナの皮)、ドライイーストとオートミールを砕いて混ぜたもの、米糠、それから各種人工飼料(コオロギの餌とか、砕いたハムスターフードとか)も餌としていますが、主にはオートミールです。

 カビても問題がないので、基本はオートミールを電動ミルで粉砕したものを、蓋のできる胡椒入れなどに入れておき、それを振り掛けるようにして使います。電動ミルは安価なものだと2000円ぐらい。他にも色々砕くのに役立つので、一個ぐらい飼育用にあると便利です。正直、他の野菜屑などは年に一回か二回ぐらい、コオロギやハムスターフードを砕いたものなどは一ヶ月に一回ぐらい、思いついたときにごく少量あげることがあるぐらいです。あげなくても飼育できるのかもしれませんね。

 これらのフードを多湿なヤシガラ土の上に撒き、上に竹筒、あるいは竹を割った板を軽く炙って焦がしたもの(そのまま入れるのでもよいですが)、段ボール紙などを被せます。段ボールがあんがい便利ですが、ちょっと固めのものがベターです。

 すると、十中八九、数日後には白いカビが発生します。しかし、明らかにそのカビの周辺に明らかに集まって、そこで暮らしているので、繁殖した酵母やカビを食べているのかもしれません。なのでカビはあまり気になくてよいと思います。ただ、青カビなどは良くないように見えますし(そもそもあまり管理人のところでは青カビが発生しませんが、例えば大きめのハムスターフードを入れたときなどで、青カビが発生したときには、あまり寄りついていないような気がします)、それほど動物性タンパク質が必要という印象もないので、動物性タンパク質を与える場合も、コオロギの餌やウサギの餌、小鳥の餌などの割合の少ない餌にしたほうがよいでしょう。ただしこれらも、カビて問題ないとはいえ、大粒で入れることには意味が無いので、電動ミルなどで細かい粉末にして表面に薄く撒くのがよいように思います。


 多湿な環境で飼育でき、また土にそれほど潜らないので、浅いタッパーウェアで事足りる。

 こうしたカビを食べたものをカエルとかが食べてよいんだろうか、という疑問はあるのですが、まぁ、いまのところ別にヤドクガエルもヤモリも死んでないから、いいのかな、と思っています。

 入れてある板や段ボール紙の裏にワラジムシがくっつくので、少量を取り出すときは、この板を取り出して、タッパーの上などでかんかん、と叩いて落とせば簡単に回収することができます。

 大量に取り出したいときは、シロワラジムシが通れるぐらいの目の洗濯ネットの中に、飼育容器の土をごそっと移動し、それをバケツの上につるしておくことで、ワラジムシが下に落ちるようにするという方法もあります。ツルグレン装置と基本的には同じです(光は当ててませんが、まぁそれでもけっこう落ちます)。こちらのほうが効率的でしょう。ある程度落ちても全部落ちることは稀なので、洗濯ネットから土を戻して再び繁殖させるもよし(数が少ないなぁと思ったら落ちてるものの中から少し戻す)、土が古くなったようなら密封して天日に曝し、それから燃えるゴミとして捨てるとよいでしょう。外で殖えないよう、用土の後始末には注意です。

 他のワラジムシがそうであるように繁殖サイクルが長いので、数が欲しいときは、ケースを殖やして、飼育できる表面積を増やすことで対応します。シロワラジムシは多少は土に潜りますが、そんなに深くは潜らないようなので、容器を深くすることには、保湿以上の意味はあまりなく、シロワラジムシであれば通気性を下げることで確保すればよいでしょう(地中に樹皮や竹筒などをいろいろ埋めて、地下構造みたいの作ってみたりしたことがあるのですが、あまり上手く行きませんでした)。高さのあまりないタッパーウェアなどに2-4cmほど床材を敷き、その上に木板や竹を置いたケースを複数つくるとよいでしょう。多くのケースを管理する上では、一個一個のケースのメンテナンスをそこそこサボっても問題ないようなものにしておくと楽になるはずです。管理人は月に二回か三回ぐらいしか様子を見たり餌をやったりしないです。

■終わりに

 ワラジムシの飼育は、飼育ケースの制作と飼育用の土、そして餌を何にするかを選択しておけば、かなり簡素にすることができます。もっとも、管理人もより良い方法がないか日々試行錯誤で、ここに書いてあるものは管理人の現在のそれよりも過去のものということになりますが。

 管理人自身も、餌として使っているかというと、「まぁトカゲとか入れてるケースの中で殖えてるし、食べてるんじゃないかな…………」というレベルで、ワラジムシは、もはや「殖えてるの見ると、なんか楽しいから」というだけの理由で殖やしているという感はあります。というか、このへんをよく食べる種類を飼育していないというだけの話なんですけども。林床の生き物を飼育するのなら、こやつも一緒に飼育してみると、楽しいような気がするんで、けっこうオススメですよ?