Grandis Day Gecko=Phelsuma grandis
Madagascar
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マダガスカル島はアフリカ大陸の東の洋上に浮かぶ世界第四位の面積を持つ島です。本種は、その北部、国家区分でいうとマダガスカル共和国のAntsiranana Province/アンツィラナ州及び、Mahajanga Province/マハジャンガ州北部のAnalalava District/アナナラバ郡北部沿岸に分布する、現存するヒルヤモリ最大種とされます。
種小名が示すように、大きなヒルヤモリで、もとはPhelsuma madagascarensisの亜種という位置付けでしたが、現在では独立種とする向きが大勢であるようです。最大全長は約300mm、頭胴長150mm前後、尻尾の長さでスタンディンギィヒルヤモリ/Phelsuma standingiに勝りますが、最重量はあちらと云われています。何が最大か話題になるのは、タランチュラのTheraphosaとLasiodoraのように、よくあること、つまりは多くの人が気になる事柄なのだと思いますが、ヒルヤモリに限って言えば、あんまり話題にならない気がします。何故かは定かではありませんが、どっちが大きいかなどというのは現存する種という括りの話であって、ほんの百数十年遡れば、全長は440mmにも達したとされるPhelsuma gigasがいたのだから、それを思い起こせばグランディスとスタンディンギィのどっちが大きいかなど大同小異、ということなのかもしれません。或いは、Phelsuma gigasの逸話を思い出すと、現存種の多くが、現在絶滅進行中であるという事実を思い起こさせて気が滅入ってしまうからなのか。管理人も、どちらも大きい種類と思ってはいますが、どっちが大きいとかはあまり意識したことはないです。まぁ、そもそもどちらも外見が全然違うので、比べる意味がない様な気もしますし。
地肌は若い頃は■若草色をしており、成体になるに連れて色濃くなり■常磐色になります。といっても、光の強さなどの外的要因で色合いを変えることが多く、もうちょっと明るかったり、暗かったりと時として変化するのですが。頭頂部から背面にかけて入る赤は、成長に伴い色に■朱を帯び、同時に形状の原型は留めるものの、一部は小さくなったり消えてしまったりする傾向があるようです。記憶するかぎり、赤の面積が少なくなったな、ということはあっても、赤の面積が広くなった、ということはないように思います。
緑色と赤色は補色の関係にあるので、この二色が互いに引き立たせ合い、より印象的に見えます。大きく、飼いやすく、綺麗で、昼行性でよく見える位置に出てきてくれる、飼っていて面白い、申し分ないヒルヤモリなのですが、あまり人慣れしないこと、同種間での排他性が強いのがネックでしょうか。基本、成体になったら一匹かペアで飼育する生き物です。複数飼育が出来るとしたら、それは温室と呼べるぐらい大きい飼育ケースを用意している場合でしょう。
■飼育/Keeping
ビバリウムというか、枝や樹木を配したテラリウムで飼育します。程良い空中湿度のある環境を好みますが、同時に通気性も必要です。多湿ではなく、植物の表面が概ね乾いてはいて、ただし地中は適度に湿っている。一般的な熱帯の林を思い浮かべればよいでしょう。一日に一度から二度、霧吹きで適度な水分を散布し、表面を濡らしつつ、新鮮な水を与えます。霧吹きの水は数時間で表面が渇くぐらいが目安。もちろん、空調管理をする以上は、冬場はより乾燥に気を付けて霧吹きの量や散水の回数を増やすことは大切です。
立体活動を好むので体長の二倍、欲を言えば三倍以上の高さがあるケースが望ましいでしょう。成体では最低でも高さ600mm、できれば900mmあると飼育が楽しくなると思います。450mmだと、土を入れるとケースの高さは実質350mmぐらいしかないので、ほとんどヤモリの全長であり、あまり望ましい状態ではなく、一時的なストックぐらいに留めるべきです。横幅は450-600mmぐらいは欲しいところです。ペアリングをするならば、大きいほうが安全だというのも理由のひとつでしょうか。
樹木や植物などを入れ、立体活動がしやすいようにします。また、隠れられるようにサンスベリアのような植物や、二匹が入れるぐらいの太さの竹筒などを入れましょう。個体間に優劣が発生していても、極端でなければ、こうした隠れ家を多く配置することで深刻な問題になりづらいからです。ただし、同性間のテリトリ争いや、発情期などには執拗に追いかけるため、この限りではありませんから、観察は欠かすべきではありません。
不要か必要か、詳しいところは知りませんが、餌をちゃんとやっておけば、UVAやUVBといった紫外線を含む光源が殆どなくてもある程度まで育てることは可能であると思います。ただ、同属を飼育していると、やはり光源があったほうが飼育しやすいように思います。どうも、光を当てていないでプラケで飼育していると、指のところの脱皮が上手く行かなくて、登攀能力に支障が出るきらいがあるような………そういう症状を見たら、光を当てる飼育方法に変えているので、そのまま飼育したらどうなるのかは分かりませんが。管理人自身は、ブリーディング用のケースはすべてで爬虫類用のUVA・UVBを出すという蛍光灯を当てています。将来的にはこのへんもLEDになるのかと思いますが、2014年はまだ過渡期といった感がありますね。
そもそも光がないと色合いがやや薄くなってしまいがちですし、照射したほうが綺麗なので、するに越したことはないでしょう。ヒルヤモリ全般を飼育してみれば分かりますが、光を一箇所に当てると、それが暖かい光源であるか否かに関わらず当たりに来るのが観察されます。少なくともそういう種類なのですから、当ててやるのが正しい飼い方ではないでしょうか。
温度はマダガスカルの気候を参考にすべきでしょうが、夜間をそこまで下げる必要はありません。飼育下では、部屋を空調で管理している場合、24-26℃程度を基底温度にして、夜間は少し下げ21-24℃ぐらいで良いでしょう。蛍光灯などの照明の発熱量は莫迦になりませんから、部屋の温度とは別に、飼育ケースは通気性に配慮すると共に、内部がどの程度の温度になっているかを把握すべきです。屋内の飼育ではバスキングライトを使用すると当たりに来ますが、これも必須という訳ではありませんし、ケースサイズによってバスキングライトの使用は難しくなりますので、使用する場合は大きいケースを用いることと、サーモスタットを併用するのが安全でしょう。
先にも書きましたが、ヒルヤモリは全般的にその傾向が強いですが、本種は特に性成熟したオスの同性に対する排他性が強く、自然下のように逃げられないビバリウムの中では深刻です。優劣が付いた後は一方的になることが多く、怪我をさせたり尻尾を千切ってしまうどころか、そのまま放置すれば殺すところまで行き着いてしまうので、生後数ヶ月から半年程度を過ぎたら、オスは個別飼育にするのが基本です。(テリトリーを侵害する云々すら成り立たないような小さいケースに入れてある場合は喧嘩する気力も起きないのか、大丈夫なこともあるようですが、健全な状況とは思えません)。
また、発情期のオスは、交尾後もメスに交尾を迫るため、メスが受け入れないとメスを殺してしまうことが知られています。これは、自然下では受け入れる体制にないメスはオスから距離をとれるし、発情期のオスは交尾を受け入れてくれるメスを探して移動できるのに対し、飼育下ではそれが出来ないことにより生ずるのだと予想されます。従って、発情期を迎えたらよく観察し、あるいは耳を澄ませて、メスが逃げ回っているような印象を受けたら、あるいは卵を持った様子が確認できたなら、ケースを分けるべきです。
メスのほうは、同じぐらいのサイズであれば複数で同居させていても問題なく飼育できることが多いようです。ただし、喧嘩することがあるため観察は欠かすべきではありません。また本種は、ヤモリであるか否か、同種であるか否かに関係なく、自分より小さい動くものを食べてしまう傾向が強いので、同種であっても小さいサイズの個体と同居させようとしたり、両棲爬虫類含めて他の動物と同居を試みるべきではありません。
ビバリウムが大きければ大きいほど大きく育つかどうかはともかく、小さいビバリウムやプラケでは限界があるような気がします。狭いケースでは運動不足になってしまがちです。そもそも、ヒルヤモリは大きいケースの中で活発に動く姿を見ることこそ飼育の醍醐味ではないでしょうか。縦方向だけではなく、横方向にも枝や蔓を配したいところです。
餌はコオロギ、ローチ、ハニーワーム、小さい時はショウジョウバエやワラジムシなど、動くものに反応して良く食べます。ただ、ローチやワラジムシは、ビバリウムに入れてあるマテリアルによっては、上手く隠れてしまって、殆ど餌にならないことがあります(脱走できないケースであれば、最終的には、食べられて終わるとは思うのですが)。ピンセットで与えるか、出られないように工夫した容器に入れるか、終令のオスを与えるようにするのが安全です。
他には、自然下で熟した果実や花の蜜、花粉などを食べることが知られており、甘く薫るタイプの果物――バナナやリンゴなどをペーストにしたものをよく嘗めとって食べます。柑橘類は、与えたことがないですが、与えないほうがよいと聞きます(根拠は知りませんが、なんか、あまり良さそうなイメージがわかない………)
日本であれば、昆虫ゼリーがメジャーなので、これを与えてもよいでしょう。どの昆虫ゼリーでも食べるという訳ではないですが、中には人気のある昆虫ゼリーもあります。また、昆虫ゼリーは、ショウジョウバエやコオロギ、ローチの餌にもなり、特にショウジョウバエを入れる場合は、あるとないとでショウジョウバエの寿命や、ケース内部での位置が変わってきます。ショウジョウバエを与える場合は昆虫ゼリーとワンセットと考えてよいぐらいだと思います。ただし、昆虫ゼリーの栄養価は大したことがないので、これだけで飼育することは出来ません。
また、様々な乾燥果物や栄養価のあるものをパウダーにして混ぜて作った、水で溶いて使えるようにしたフードが販売されています。それ用に作られたものですので、基本、よく食べます。まったく食べた経験がない場合は、当初はあまり食べなかったりとかありますが、慣れさせていけば、よく食べるようになります。慣れさせるとは、口元や鼻先にちょんと触れさせて、それを舐めさせることで味と香りを覚えさせるということです。お腹が空けば、自発的に食べるので、そこから慣らすという手もありますが、このようにして慣らすとより早いでしょう。
ただ、ヒルヤモリは名前の通り昼行性のヤモリなので、餌やりは日中、明るい時間である必要があります。昆虫ゼリーもそうですが、この手の溶き餌は、水で溶いてから24-36時間で廃棄すべきです(製品によります)。管理人の場合、朝一番でフードを作ってケースに入れ、それを翌日の朝か、遅くとも夜には取り出して捨てるようにしています。慣れてくれば、スプーンに掬って差し出すと、嘗めてくれるし、さらに飼育者に慣れると、指に塗りつけた餌を嘗めるようにまでになるようですが、管理人は試したことがないので良くわかりません。正直、種類的に本種はそんなに慣れない気がします。
こうした人工飼料は、とても便利なのですが、餌昆虫がケース内部に残っているときに、こうした柔らかめの粘性のある液体を入れておくと、ショウジョウバエやコオロギが溺れて脱出できず死んでしまい、さらに餌も傷んでしまうと、良いことが欠片もないので、同時に使うのではなく、今日は餌昆虫の日、今日はフードの日、とするのがよいように思います。管理人は数日おきに交互に与えています。このあたりの塩梅は、実際に使ってみて把握してください。
■繁殖/Breeding
卵は乾燥した場所に産み落とすタイプの薄いハードシェル。自然下では樹木の洞や、割れ目などに産卵しているのでしょう(管理人は、自然下の写真を見たことがありませんので、想像です)。直径15mm前後で、通常2個でワンクラッチですが、1個だけ産むこともあります。卵同士は産み落とされるとすぐにくっつき合い、離れなくなりますが、壁面や周囲のマテリアルにくっつくことはないようです。飼育下ではサンスベリアの隙間や、コルクバークの陰、竹筒の中や割れ目などに産み落とすことが知られていますが、いずれも引っ掛かったり乗っかっているだけです。簡単に取り出せるというメリットはありますが、落としたりすると、簡単に割れてしまうので、取り出すときには細心の注意を払いましょう。管理人は産卵場所として親の体よりちょっと大きい程度の竹を入れておくのを好みますが、この場合、取り出すときに垂直軸を変化させないよう、棒を取り出す時に、どっちが上だったか注意しておく必要があります。多くの爬虫類――ヤモリがそうであるように、ヒルヤモリも胚が定着した後で上下が変わると、卵が死んでしまうことがあるからです。ヒルヤモリの卵は安定期に入る前の産卵直後は、繊細であるという話がありますので、他のヤモリよりもより、注意したほうが良いのかもしれません。とはいえ、正直なところ、気を付けてはいるものの、いままで見つけた範囲のものは全部卵を取り出していますが、問題になったことは無いですけども。
左からPhelsuma grandis,Phelsuma m. madagascariensis,Phelsuma kochi。チューブの径が4mm。ハードシェルでは、卵に接触する部分の床材は、乾いていることが望ましい。上記写真では、この下の層は湿り気を帯びていて湿度が確保されている。ヤシガラなどは一度乾燥させたものには湿り気が移りづらいからだ。このように、用土も工夫次第で孵化させることは可能であるが、確実性を期すならば、園芸用スポンジを使ったり、鉢底網を山谷山で折ったものの上に載せるなどして、床材に接触しないようにするのがよいだろう。産卵場所は、植物質のものが必須であるという訳ではなく、人工物でもよいようで、例えば遮光性のあるプラスティックのケースに、ヒルヤモリが通れるぐらいの大きさの穴を空けたようなケースを用意すると、そこに入って産卵する様子も観察されます。言うなれば産卵ボックスのようなもので、床材はとくに入れなくても産卵はしますが、取り出すときに卵が動いたりしないよう、ほどよく乾燥したヤシガラ土などを入れておくのを管理人は好んでいます。
卵は24-25℃程度の温度で、概ね60日強で孵化するようです。積算温度で1500-1600程度ということになります。温度が高いほうが孵化までの日数は短縮されますが、上限は30℃までで、これ以上は温度を上げても期間は短くならず、斃死率が高くなるだけで意味がありません。また、早く孵化はするものの小さいサイズで孵化するという話もありますから、31℃以上での孵卵は意味が無いと考えるべきでしょう。
ヒルヤモリは温度依存性決定であることが知られています。条件は諸説あるようですが、
管理人の場合、部屋の温度を日中24-25℃程度にして管理しているため、孵化容器の中、特に床材の上に接触させている場合、気化熱で冷やされることになり、何もしなければ、ほぼ全てがメスになる環境です。全ての個体を育て上げているわけではなく途中で手放してしまうことが多く、調べているわけではないのですが、幼体をチェックした感じでは、たしかにメスに見えるものばかりでした。基本的には22-24℃で孵卵しておき、一割から二割程度の数、オスになるとされる27-28℃の温度で保温して孵卵しています。実際、概ね狙った通りに雄雌を割り振れるように思います。卵を取り出せるヒルヤモリならではですね。
メスを多く殖やすのは、小規模の飼育環境では、メスが多いほうが計画的に繁殖させていく上でよいからです。先に述べたように、殆どのヒルヤモリがメスは互いに協調性があるものの、オス同士は、まず間違いなく同居させると傷つけ合い殺し合います。特に、グランディスはその傾向がかなり強い種です。また、発情しているオスは、メスが発情しておらずに拒絶した場合も、強く迫って、メスを傷つけてしまうことがあります。このリスクを分散する方法として、複数のメスが居るケースにオスを導入することが有効であると考えられています。ただし、特定のメスにずっと迫ることがあるので、複数入れておいたからといって安心できるという訳ではありませんが。
こうした理由から、メスを多くするほうが都合が良いため、管理人は雌雄比率を意図的に調整するようにしています。
ノーマルタイプの孵化直後。脇腹にも赤が入るが、このあたりの色は成長に伴い抜けていき、背中の色が主に残る。■育成
孵化幼体は全長で60-65mm程度。孵化直後は餌を食べませんが、数日するとよく食べるようになります。成長速度は早く、一年強から一年半で性成熟する種ですから、積極的に餌を与えて育成しましょう。ヒルヤモリは成長期に栄養が滞ると致命的な成長障碍になりますので、餌を抑制したりしてはいけません。
カルシウムを多めに与えるべく、配合飼料(デイゲッコーフード/DayGecko MRP)や、昆虫餌にはカルシウムのダスティングが望ましいでしょう。メス親は産卵時期に、純粋なカルシウムや、鶏の卵殻を砕いたもの(卵殻カルシウムでも勿論よい)を皿に入れておくと、積極的に食べる様子が観察できますが、幼体では好んでカルシウムだけを食べているのを見たことはない気がします。ですから、餌に混ぜ込んで与える手法が王道であると思います。
幼体の頃は排他性が低く、同居させて問題はないのですが、半年程度したら、あるいは100-120mmぐらいになったら、一匹ずつチェックし、雌雄を判別します。オスが混じっていると計画的な繁殖に支障を来しますし、オスが二匹いたら成長に伴い、確実に喧嘩するようになってしまうからです。オスはさっさと調べて、早い段階で取り出し、繁殖させるまでは一匹ずつで育成するようにします。基本的には大腿部の付け根の鱗の形状で判別可能です。
先にも書きましたが、メス同士であっても、サイズが異なるもの同士を入れるのは危険です。小さいほうが何かの拍子に噛まれてしまったり、最悪、食べられてしまうかもしれません。必ず、同じぐらいのサイズで揃え、成長差が出てきたら、ケースを分けるようにしましょう。