ヤモリの杜/Forest Geckos Forest

キョクトウトカゲモドキ(Goniurosaurus属)の飼育と繁殖 >>menu

 大陸及びその周辺に産するキョクトウトカゲモドキ、即ち、
G. luii-Group
 Goniurosaurus araneus=カオバントカゲモドキ(ベトナムトカゲモドキ)=Cao Bang(Vietnam) Far East Gecko
 Goniurosaurus bawanglingensis=バワンリントカゲモドキ/覇王嶺蜥蜴擬=Bawangling Far East Gecko
 Goniurosaurus catbaensis=カットバトカゲモドキ=CatBa Far East Gecko
 Goniurosaurus huuliensis=フーリエントカゲモドキ=Huu Lien(Hữu Liên) Far East Gecko
 Goniurosaurus luii=ピンシャントカゲモドキ=Pingxiang Far East Gecko
 及び、
G. lichtenfelderi-Group
 Goniurosaurus lichtenfelderi= バクボトカゲモドキ=Norway Far East Gecko
 Goniurosaurus hainanensis=ハイナントカゲモドキ=Hainan Far East Gecko
 について、その飼育方法の総論(2013年度時点)

 G. liboensis,G. yingdeensisについては飼育していないので分からない。

 

飼育/Keeping (>>menu)

iconケースセッティング/飼育環境

 Goniurosaurusは壁面をよく登る。ハイナントカゲモドキなどはそこまででもないが、大型種は爪が引っ掛かるならば垂直面でもすいすいと登るのが好きで、高さのあるケースでは上に下に移動する。といっても、殆ど夜の話で、工夫しないと観察はできないが。壁面に何かを貼り付けてもよいし、コルクバークを立て掛けるなどしてもよいだろう。

 Goniurosaurusはどれも標高のそれほど高くない森林に棲息するトカゲモドキですが、G. araneus, G. catbaensis,G. huuliensis, G. luiiなどはカルスト地形の急峻な地形に棲息することもあって、立体活動に向いた独特の手足の長い体型をしていると考えられています。ヤモリのように平滑な面に貼り付くことは出来ませんが、爪を引っかけることによる立体活動が得意で、実際に飼育下でも樹皮などに爪を引っかけてよく登るため、そうした足場のあるケースで飼育すると、その様子を観察できて面白いでしょう。G. bawanlingensis,G. hainaensis,G. lichtenferderiなどは、立体活動はしますが、そこまで高さを意識する必要はなく、概ね森林低層の地表棲種の飼育スタイルで問題はありません。これらは花崗岩からなる山地の森林低層に棲息するとされています。

 大きい種類は成体のペアで600*300*450mm以上、できれば600*450*450mm以上が望ましく、高さはもっとあったほうが面白いでしょう。ただし、慣れない個体の場合は驚いて落下したときに怪我をする懸念があるので、そういった心配があるならば高さは450mm以下に留め、中に入れる素材には気を遣った方がよいでしょう。小型種であれば、ペアで400*300*300mmぐらいのケースで飼育することも出来ます。一匹であれば、300*200*200mmぐらいのケースでも大丈夫でしょう。面白味に欠けるのでオススメはしかねますが、飼育するだけならば、ジャンボサイズプラケ(430*340*260mm)ぐらいでペア飼育し、繁殖させることも出来るでしょう。

 最も簡素な飼育スタイル。プラケース+ウェットシェルタ+水入れ+床材(植物系用土)。幼体のうちは、こうしたケースで管理するほうが失敗がない。写真のウェットシェルタは、床材を湿らせて飼育する場合、基本的には水を入れる必要はない(空調管理する冬季のような乾燥しやすい時期や、部屋が乾燥しやすい場合には水を入れる)。個体が環境に慣れないセンシティブな個体の場合は、外が見通せないポリプロピレンケースや、紙などでケースの側面を覆うとよい

 ただし、幼体のうちは目の届く範囲で飼育したほうが失敗がなく、頭胴長で40-50mmぐらいまでは、一般的なプラケース(300*200*200mmぐらい)などで飼育するほうが良いかと思います。先のようなケースは、だいたい最大長の半分から六割以上のサイズになってからが良いでしょう。

 本属は、隠れ家が複数あり、大きさがほぼ揃っているならば、殺し合いになるほどの喧嘩をすることは稀だと思っていたのですが、どうもいくつかの種で例外があるようなので、やはり一般的なトカゲモドキの飼育方法に倣い、基本はペアかトリオでの飼育がよいのではないかと思います。
 種類によっては、広いケースで十分なシェルターがあれば問題ないのですが、何かの切っ掛けで喧嘩になってしまうかもしれませんので。
 今の処、G. bawanglingensisG. yingdeensisは注意したほうがよいかもです。前者はオス同士で稀にですが成体だと喧嘩に発展することがあるようですし、ペアだとオスがメスを弱らせてしまう傾向が見受けられます。G. yingdeensisもそれに似たところがあり、ペアってあっても、喧嘩をするわけではないのですが、弱いほうの個体がストレスを感じて食べなくなり弱っていく傾向があります。これはどの個体でもその傾向が見受けられるので、この種に限っては一匹ずつで飼育すべきではないかという気がします。繁殖の時も、一定期間だけ同居させ、しばらくしたら引き離したほうがよいでしょう。あるいは、CBの累代が進めば変わってくるのかもしれませんが……。

 いずれにせよ、個体の相性もありますから、同居はリスクを考えて行い、注意を払ってください。基本的にはペアかトリオでの飼育が良いでしょう。噛んだ痕が見受けられたり、痩せてきているように感じたら、即、痩せている個体を避難させるべきでしょう。

 床材は繁殖を視野に入れるならば掘りやすい自然用土――細かめの腐葉土、ヤシガラ土、樹皮培養土、黒土など、及びその混合素材を使用します。管理人はこうした用土での飼育しか経験がなく、本属をクッキングペーパーなどの床材で飼育できるかどうかは分かりませんし、今後試す予定も今のところありません。
 床材の通気性を考え、深く土を入れる場合は鹿沼土もしくは赤玉土の中~大粒を混ぜると良いかと思います。小粒や砂は入れるべきではないでしょう。ただし、発酵していないヤシガラ土等の素材に腐葉土を混ぜて多湿環境に置くと、何かの拍子にヤシガラ土が一気に発酵してしまい、土壌が極端な酸性に傾くことがあり、これは望ましくないので、用土を混ぜ合わせるときには注意が必要です。土壌を把握することは植物育成では基本ですが、それを習得することは生き物の飼育にも役立ちます。園芸関係の書籍が参考となるでしょう。管理人が最近好んで使っているのは、杉や檜などの樹皮を細かくして作ったもので、園芸用のマルチング材として販売されているものです(商品名を挙げると、バークファイバークリプトモスなどです)。これらは燃えるゴミとして廃棄しやすいので、これ単体で使用していますが、産卵まで含めて問題はないようです。ただ、クリプトモスなどの細かくない長いものよりは、もうちょっと細かくて掘りやすいヤシガラ土のほうがよいのではないかな、と思います。少なくともバークファイバーの単体のみで管理人は繁殖までさせています。

 テラリウムやビバリウムではない、プラケ飼育などの場合は、床材は単一にし、定期的に交換してしまうのがよいでしょう。管理人は、幼体の飼育など、そうした時には、樹皮培養土オンリーか、ヤシガラ土に杉樹皮培養土を半々ぐらいか後者がやや少なめぐらいにしたものを好んで使っています。樹皮培養土は良いものですが、一度乾燥するとやや堅めになってしまうので、定期的に揉みほぐすと良いでしょう。

 用土に含ませる水分はぎゅっと握りしめて、ぎりぎり水滴が出てくる程度をベースに。目安として、樹皮やコルクバーク、落ち葉などを入れて置いたとき、その下でワラジムシやシロトビムシが殖えるような環境を良しとしています。
 糞は見かけたら除去するとしても、本種のような隠棲する種の場合、目の届かないところに糞をされる可能性は捨てきれません。次善の策として、トビムシが湧くような環境にしておくと、これらがビバリウムの中の栄養分を先んじて食べることで、カビを抑制しつつ、土壌を痛めにくくすることが、少しだけ期待できるようです(掃除が不要になるわけでは決してありません)。用土に樹皮培養土を混ぜる、あるいは表面に敷き、霧吹きしておくと、何故か理由はよく分かりませんが、なんかトビムシが湧きます。トビムシはダニと異なり、ケースの外をびっしり歩いたりということはありませんので(ただし、ケース壁面が濡れていると、うろうろしてケースの外に出ることはありますが、ダニと異なり、乾燥環境ではすぐ死んでしまいます)、とても有益な蟲でもありますし、慣れてしまうのがオススメです。

 コルクバークは最も手軽なマテリアル。軽めなので安全性が高く、シェルタ代わりにもなる。流木は見栄えするのでレイアウトケースにはよいが、やわらかい土の上には設置しないこと。中の動物がそれらの下を掘ったときに崩れて押しつぶす懸念があるからで、ケースの底にしっかりと配置したい。また、プラケなど移動するケースで飼育する場合は取り落としたときに危険なので流木や石などの重いものは入れるべきではない。

 本種は、基本的には地表棲傾向の強いトカゲモドキであり、それほど積極的に樹上に登ったり、蔓を渡ったりというようなことをする印象は受けませんが、樹木の表面や枝程度はひょろひょろと登ったり歩くことはあるようです。登れるようにして飼育することは、ストレスを与えずに飼育する方法の一つとして一考の価値があるでしょう。それを抜きにしても、夜にちょっと見たときに登っている様子を見られると、なんとなく嬉しくなります。ただし、ケースを飼育者が覗き込んだ時に、驚いて落下してしまうことは想定されます。落下時に外傷を引き起こす虞のある尖ったマテリアルは、カットしたり、ささくれはバーナーやコンロで焼いた上でよく水洗いをして処理しておくとよいでしょう。余談ですが、樹木は煮たり、炎であぶったりして殺菌すると、バランスが崩れるのか水分を与えたときに一気に黴びることが往々にしてあります。そういう場合は、一ヶ月から二ヶ月その状態で放置しておくと黴びが落ち着いてきます。ちょっとぐらいならば問題ないですが、全体が黴びている真っ最中のマテリアルはヤモリの健康上よくありませんので、黴びている場合は取り出して、飼育環境に近いようなケースでしばらく安定するまで単体で保管するとよいでしょう。

 足場、遊び場は必ずしも必要ではありませんが、シェルタは必須です。シェルタは、最低でもケースに入れる個体と同じ数だけ用意しましょう。コルクバーク、樹皮、流木やその加工物、植木鉢を加工したもの、色々なものがシェルタになり得ます。ただし、いずれの素材でも、シェルタの中の空気が澱まないよう、入り口とは別の場所にも、空気穴を用意することが望ましいです。土を凹ませて、その上にシェルタを置くという手もありますが、トカゲモドキ自身がごそごそと土を掘り返したときに埋まってしまう感はあります。そういった事も考えると、両脇が空いているコルクバークなどの樹皮が、一番手軽かもしれません。

 流木やそれなりの重さのあるものは、地震や、ケースを落としたときのことを考えると、ケースサイズによっては固定するのが安全かもしれません(そもそも、ケースを移動するときに中に生き物を入れておくべきではありませんが)。自然下では岩や木の根元などの隙間に身を潜めて生きているようです。隠れ家になる場所を入れることはストレスをかけないように飼育する上で重要です。ビバリウムで飼育するにあたって、石などの重量物を入れる場合は、適当に入れておけば、その下を自分で掘りますが、土の上に石を置いておくと、石のバランスで掘ったヤモリを上から圧迫するかもしれません。重量のあるマテリアルを入れる場合は、一番下に、ガラスケースが割れないよう、底面のガラス直接触れない程度に薄く土あるいは薄スポンジを敷いて、その上に石をぐらつかないように配置し、それから土を入れていくのがセオリーです。

 Goniurosaurus属は、環境にも拠るのですが、狭いケースで飼育した場合にとくに、シェルタの中で糞をすることが少なくない為、一週間に一度程度、シェルタをどかして、掃除をするべきです。これは個体差や環境によるところが大きいように思われ、広いケースであればシェルタの外に出て、だいたい決まった場所(角であることが多いです)に糞をするようです。数ヶ月チェックしてもシェルタの下に糞が見受けられないならば、その後はさほどチェックする必要はないかもしれません。土で飼育し、トビムシなどが殖えていればカビの抑制が期待できますが、それでも基本的には、定期的に糞は除去すべきでしょう。それ以外だと、ケースの端など、どうも決まったあたりで糞をする傾向があるようです。

 本属のヤモリは、どの種類であれ、冷涼で湿度のある、しかし通気のよい環境を好みます。一般的な地表棲の森林のヤモリを想像するので問題はないですが、このようなヤモリの常として、WCには、ダニが付着していることがあります。このサイトでは基本的にCB個体の飼育を推奨しており、飼育方法もそれに準拠したものなのですが、ストック環境が良くなかったのでしょう、CBであってもダニに寄生されている個体を入手したことがあるので、一応書き添えておきますと、この場合はピンセットなどで除去しましょう。瞼の下、腋の下、指の間などは要チェックポイントです。状態が良好な個体であれば、ピンセットで除去しつつ、クッキングペーパーにシェルタだけ、毎日別のケースに移動して、霧吹きで水やりをするという乾燥環境で一定期間(二週間から一ヶ月程度)飼育すれば、ダニを根絶することが可能です。

 ところで、繰り返しになりますが当サイトは基本的にCB個体の飼育しか推奨していませんので、導入直後のWC個体にこれをやって大丈夫かというのは保証しかねます。まぁ、CBなんて出回っていないじゃないか!というお怒りはあるかもしれませんが…………。ただ、昨今はストックと流通状況が改善された為に軽減されたとはいえ、WC個体の立ち上げには、往々にして駆虫薬の投与が欠かせません。管理人が知っているショップのひとつでは、駆虫薬投与を行っていますが、そうでないショップが大半です。しないと全てがそうだという訳ではないのですが、体調を崩し始めている痩せた個体の場合、駆虫をしないと、食べても食べても痩せたままで太らない、という事がしょっちゅうあります。なにより、こうした寄生虫は飼育環境下では感染を拡大させますから、検疫段階での駆虫が望ましいでしょう。もちろん、体調を崩していない状態であれば、駆虫しなくても飼育できるという意見もあるでしょう。それは否定しませんが、バランスを崩したときにはやはり致命的になりがちという事でもあります。当たり前の話ですが、駆虫しなくても飼える個体もいるかもしれないが、駆虫しないと飼えない個体もいる、ということです。まぁ、CBが流通していてくれるなら、それを入手するのがいちばん、ということでもあります。

  話が逸れましたが、本属はどのグループであれ、高温に強いという話を聞いたことがありません。管理人は、基底温度を24-26℃とし、28℃を超えないように管理しています。湿った床材は、気化熱もあり、風通しがよければ空調管理温度よりも低めになるものですが、それでも気温は28℃を超えるべきではないでしょう。夜間は22-23℃といったところですが、これは意図して下げているというよりは、照明を落とせば空調管理をしていても同じ空調設定であれば温度は低下するものなので、自然に任せている状態です。
 この属が高温環境にどこまで弱いのか、試したことはないですし、今後も事故以外で試すこともないと思うので、よく分かりません。ただ、いずれにせよ沙漠にいるヒョウモントカゲモドキなどと異なる環境を好むヤモリです。

 ところで、照明と書きましたが、本種は夜行性なので、紫外線を含む照明を必要としないとされます。ケース直上ではなく、部屋の照明というだけで十分だと思いますが、レイアウトしたテラリウムではあったほうが見ていて面白いような気がします。まぁ、日中は殆ど出てこないのですが………。夜間も照明が点いていると出てきませんが、赤色の照明だけにすると、ちょこちょこ歩いているのを観察できるかもしれません。
 また、これに関連してビタミンD3を含有するカルシウムサプリメントを摂取させると過剰症になる懸念があるとされるため(経験があるわけではありませんが)、ビタミンD3を少量含む、夜行性ヤモリ向けか、D3を含まないカルシウムサプリメントを使用するとよいでしょう。

 湿度のある環境を好むと書きましたが、これは濡れている環境とは異なるものです。湿度は、あくまで定期的に霧吹きや灌水をすることで補うべきで、通気性の良いケースで飼育することが基本です。具体的には、土壌の表面が湿っている状態から、放っておけば一日から二日で表面が乾燥するが、掘るとすぐ下は湿っている、ぐらいの通気性が望ましいです。管理人の感覚では、水入れなしで一週間から十日程度放置したとき、ケースの土の深さ数センチまでが乾燥してしまうぐらいです(水入れなしと書いたのは、乾燥の度合いを測る場合の話で、水入れは常設します。床材は乾燥しやすくても、シェルタを入れておけば、その下は案外乾燥しませんし、もちろん、水入れがあるとだいぶ変わってきます)。言ってはなんですが、一般的なプラケースであれば飼育に支障はないでしょう。

 毎日霧吹きをするべきかどうかは、どのような部屋で、どのような飼育ケースを用いるかによって変わってくるので一概には語れません。そもそも日中に動く種類ではないですし、直接、水を吹きかけてよいものかは疑問の余地があります(確かに咽が渇いていれば顔についた水滴を舐めますが、しかし霧吹きをいやがるそぶりもあるからです)。ただ、乾燥に弱いことは確かなので、新鮮な水を飲ませる目的で、水皿を設置した上で、二日から三日に一回は、ケースのマテリアルや壁面に向けて霧吹きをしつつ水を交換するとよいでしょう。

 通気の良いビバリウムとミスティングシステムの導入は飼育を容易にすることでしょうが、床材の水捌けには注意が必要であり、ヤドクガエルなどのカエルのセッティングとは全く異なるノウハウが必要になります。ミストの頻度はずっと少なくすべきですし、適した水滴の大きさも異なります。また、通気は上部のほぼ全面を金網として確保し、床材も水捌けがよく乾燥しやすいものがよいですが、同時に誤飲したとしても問題のない種類や粒状サイズのものを選ぶ必要があります。どちらかというと、ケース全体にミスティングをするのではなく、水捌けのよい床材にしたエリア、つまりここに来れば濡れているというエリアをケースの一部に用意するほうが簡単だし、失敗がないでしょう。ミスティングシステムの活用は、大きいケースではやりやすいのですが、小さいケースではやりづらいところがあります。実際にやってみた感じとしては、最低でも450*600*450Hぐらいのケースが望ましいでしょう。やってみたら意外に難しくて、なんか水入れを工夫するほうが簡単かな、と管理人は思ったとか。

素焼きの皿は、周囲に水分を拡散させるので、湿度を上げる効果があるが、反面、水入れとしては直ぐ乾いてしまうので、些か心許ない。爬虫類用のレジン製の水皿があれば望ましいが、こちらも浅いのでとくに冬などは水があっという間は渇いてしまうので、保険で入れておくならば2cmぐらいの水深が欲しくなるが、タッパーウェアのような平滑な容器は餌のコオロギなどが溺れてしまいやすい。樹脂製だと浅くても溺れてしまうので、鉢底網を入れるなどして使うとよい。

 トビムシがよく湧く環境では、トビムシが水皿の中に入ってしまうのが悩みの種になるかもしれません。表面張力で水面の上にいて、溺れることはあまりないようですが、逆に脱出できなくてそのままそこにいることが多いようです。こればかりはどうしようもないので、汚れていないようなら定期的に水を床材に捨てて、新しい水を入れるとよいでしょう。敢えて対策を講じるとするなら、良く洗った大粒の軽石を何粒か入れておけば、水面上に出たその軽石にトビムシは全てではないですが少しは登ることがあるようですが、まぁ気休めの域は出ない気がします。一番良いのはレジン製の水皿や、素焼きの皿ですが、深さが足りない、あるいは水が蒸発しやすいきらいがあります。となると、深めの水入れを使いたくなるのですが、そうしたもの、とくに壁面が平滑なプラスティック容器の場合、餌として投げ入れておいたコオロギが溺れてしまいます。これを防ぐために、そうした容器を水入れとする場合は、カットした鉢底網を入れるとよいでしょう。鉢底網は製造方法から緩やかなカーブを持っているので、そのカーブに沿ってカットし、容器の外周の七割程度を沿うように入れると引っ掛かるかたちで固定されます。浅い水皿や素焼きの水皿であれば爪が引っ掛かるので問題はないのですが、深い容器やタッパーなどを水入れに使う場合はこうするとよいでしょう。また、水皿は、ケースの端に設置すると糞をされる傾向が多いような気がするので、ケースの中程に設置するようにするとよいような気がしますが、個体差もあるかもしれません。

icon餌に就いて 

 昆虫食で、どの種もコオロギローチなどをよく食べます。よく馴致された個体に対し、ピンセットで差し出して食べさせれば、サツマゴキブリ、トルキスタンゴキブリなどを食べることはありますが、好みもあって食べない個体はあまり食べない気がします。喰いのよい個体であれば、ちゃんと食べることもあるので、一概には言えないのでしょう。ただ、コオロギに比べると明らかに喰いが落ちるようです。となると、サツマゴキブリなどは、飼育環境に潜ってしまうため、あまり向かないと考えてよいでしょう。ローチ類は隠れるのが上手いことも手伝って、何かと隙間で生き延びがちですので、テラリウムやビバリウムで飼育していて、放り込んで餌とするならば、コオロギが良いでしょう。

 コオロギでは、フタホシコオロギのほうが食いつきがよい傾向はありますが、あくまで傾向であり、慣れればヨーロッパイエコオロギもよく食べ、これ単体での飼育も容易です。実際、基本的に管理人はヨーロッパイエコオロギで飼育、繁殖、累代を行っています。

 ただ、最終的には飼育者の手元にある、または入手しやすい餌に慣れさせていけば良いとしても、入手する段階で、どのような餌を食べてて飼育されていたのか、把握しておくことは大切です。食べ慣れていないものを食べるのは、人間であってもそうそう慣れるものではないものですし、そもそも、移動直後のヤモリは神経質になるものもいるからです。購入するにあたり、どのような餌を与えていたのかをショップに確認しておくと良いでしょう。

 ピンセットから食べるか否かですが、CBで、かつそのような馴致されやすい性質の個体であれば、食べることもあるかと思います。ただ、基本的にはウロチョロとケースの中を動くコオロギを食べることを好むヤモリです。より累代が進めば変わってくるのかもしれませんが。話によれば、だいたいのものは慣れさせればピンセットから食べる様になるという話ではありますが、観察してみると食べるかどうかは動きに拠るところが大きいようです。ピンセットから食べるかどうかは、慣れとピンセットなどの動かし方次第であるならば、冷凍コオロギなども食べさせられるのかもしれないですが、管理人はそうしたえさやりをしたことがないので、よく分かりません。ただ、そういう風に飼育している人もいるようなので、出来るのだとは思います。

 強いて言うならば、G. hainaensisや、G.bawanglingensisはピンセットから食べてくれやすく、G.araneus,G.catobaensisも慣れてくれば食べてくれるかな、という気がします。Goniurosaurus luiiに関しては、食べてくれる個体もいなくはないかな、という感じでしょうか。  

繁殖/Breeding(>>menu)
 繁殖に就いては、目下データ蓄積中です。ただ、今のところどの種も温度設定はほぼ同様の手法で繁殖可能であり、それほど難しくない部類に入ります(それぞれ微妙にちょこっと違ったりしますが)。つまり、冬季に軽いクーリングをかけるだけです。1クラッチは2個で、栄養状態や交尾状態にもよりますが、年に2クラッチから4クラッチ産卵するようです。普通は2クラッチ、多くて3クラッチまでで止めておくのが安全でしょう。
 全種に共通することかどうかは不明ですが、どうも1回の交尾で1クラッチしか産卵しないような気がします。したがって、一回産卵するごとに一緒にするか、ずっと一緒にしてしまうのでよいでしょう。

 ただし、満足に餌を与えないで同居させ続けると、メスは産卵を続けてしまい、骨に異常を来すほどに弱ってしまうようです。管理人は弱らせた経験はないのですが、明らかに産卵させすぎて弱った個体を見たことがあります。長期飼育でブリードでしているメスだという話でしたが、頭骨の形状が分かるほどに痩せ、背骨が婉曲しており、痩せたことで皮膚が余って寄ってしまい、肋骨があきらかに分かるという、1990年代の到着直後のWCか、という状態でした。同居飼育だというオスは元気で、あきらかにオスに餌が行っていて、また過度の産卵のせいでメスが弱っていることが一目で分かりました。

 このレベルまで弱ってしまうと、立て直すことは容易ではありません。満足に餌を食べることもままならない(上手く食いつけないですし、顎に力が入らない)ことがしばしばあり、また往々にして消化能力も衰えているからです。なので、怒らせて口を開けたところに手足をもいだ、消化しやすい脱皮直後の白いコオロギを入れて、少しずつ回復させます(自発的に食べられる場合でも、消化能力が衰えているような個体には、こうした脱皮直後のコオロギが有効だと思っています。まぁ根拠はないんですけどね)。入れ方がヘタだったり、口に入れた後に不用意な刺激を与えると飲み込まずに吐いてしまうので、やや難しいです。数ヶ月かけて自発的に食べるようになるまで立て直しましたが、ここまでぼろぼろのものは、完全に直すのには半年から一年近くを要するでしょう。(実際、管理人のところで半年程度はかかり、完全に回復して繁殖に使えると判断できるまでに一年を要しました)

 そうなる前に、ちゃんと観察してメスの太り具合や体調をチェックし、痩せてきてしまったら一端オスと分けることは重要です。一緒に入れておけば殖えるかもしませんが、殖やすというのはそういうことではない、ということです。ちゃんと世話をしないと個体の命に関わります。

 とはいえ、管理人はいままでにそれなりの数を繁殖させてきましたが、別にそんな危機的な状況に陥らせたことがないので、別に繁殖が難しいとかそういうことはありません。ちゃんと観察していれば、分かる範囲のことであり、別に繁殖も、CBであれば痩せないように殖やすことも、難しいということは欠片もないヤモリだと思います。

各種紹介/(>>menu)

Cao Bằng, Việt Nam/ベトナム、カオバン省/Cao Bang,Vietnam
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icon カオバントカゲモドキ/Cao Bang Far East Gecko/Goniurosaurus araneus (GRISMER, VIETS & BOYLE, 1999)(>>menu)

体長:SVL111-129mm
寿命:不明
性成熟:飼育下で二年~三年程度
棲息地:ベトナム社会主義共和国(Cao Bang, Việt Nam/カオバン省)

 Goniurosaurus araneusは、ベトナム北部のカオバン/Cao Bang省に棲息している同属最大種で、頭胴長(SVL)で111-129mm、全長は200mmに達することもあるのですが、他種とSVLでせいぜい10mm強程度しか違わないこともあって、最大種という印象は薄いです。
 手足が長いのは、カルストの風土に棲息して、樹木が生えた岩壁周辺を足場にして生活しているからで、そういう環境では一度銜えた獲物を逃さない為なのでしょうか、頭がぐっと大きく、育て上げると最大種としての風格が出てきます。
 
成体は帯紋と地肌の色合いに差が殆ど無くなり、帯紋を縁取る黒のほうが模様として浮かび上がって、全体的に黄色味を帯びた茶色の地に、黒い斑模様のトカゲモドキといった風体になります。二つのカラーバリエーションがあって、ひとつは帯紋と、その縁取りの黒が入るだけのシンプルなバンディッド、もうひとつは、帯の縁取りの黒と黒の間に、斑紋が入る豹柄めいたもの。これはどちらもカオバンに産し、種類も同じですが、産地が違うようで、同じ特徴のもの同士からはほぼ有意に同じ模様が出てくるようですから、繁殖に際しては分けて考えると良いでしょう。

 ベトナムトカゲモドキと呼ばれることもありますが、他にもベトナムにいる種類は何種かいますので、他の種類に倣い地名に拠るならば、カオバントカゲモドキという風じゃないかな、と勝手に思って、勝手に呼んでいる今日この頃です。といっても、カオバン省には他にも同属のトカゲモドキが生息しているようなので、カオバン省で括るのも、やっぱり大雑把過ぎるかもしれませんが。アシナガトカゲモドキと呼ばれることもあるようです。まぁ、学名で呼ぶのが一番間違いがないかもしれません。

icon バワンリントカゲモドキ/Goniurosaurus bawanglingensis (GRISMER, HAITAO, ORLOV & ANAJEVA, 2002)Bawangling Far East Gecko (>>menu)
覇王嶺/Bawangling
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体長:SVL100mm
寿命:不明
性成熟:不明(飼育下で二年~三年程度)
棲息地:中華人民共和国(海南省,覇王嶺)

 バワンリントカゲモドキ/Goniurosaurus bawanglingensisは、中華人民共和国の海南島覇王嶺に棲息するトカゲモドキです。日本風に呼ぶならばハオウレイトカゲモドキ(覇王嶺蜥蜴擬)になるのでしょうが、地名に倣うなら、海南島にいるのはハイナントカゲモドキだし、まぁ現地の発音ぽいもので呼んでみる感じがよいような気がしますね。
 覇王嶺は海南島の中央からやや西に位置し、周辺を含め覇王嶺国家級自然保護区(Bawangling National Nature Reserve)という自然保護区になっています。海南島もまた、世界の大半の森林と同様に、森林伐採の流れから逃れられてはいませんが(この島の場合、ゴム用途の人工林への開発によるもの)、中国本土と比べるとまだ自然が残っており、特に五指山、吊羅山などの自然保護区、尖峰嶺、覇王嶺といった国家級自然保護区及び周辺には、原生林ではなく二次林が多いようですが自然が残る場所であるそうです。

 Goniurosaurus属は漢方薬として捕獲され流通しているのは有名ですが(どういう効能があるのかは寡聞にして聞いたことがありませんが)、そうしたルートに於いても、本種が流通したという事例は長らく聞かれなかったようです。ところが、理由は定かでありませんが2010-11年ぐらいに流通例が聞かれるようになり、香港でも繁殖されて、世界中に流通したようです。何か現地で開発でもしたんですかね。といっても、流通はこの一度きりで、それ以降は無いかと思います。ただ、海外では少なくない数が飼育者の手に渡ったようですので、維持されていくのではないかと期待したいところです。国内でどうかは分かりかねますが。

 本種は分類的にはG. luii-Groupに含まれ、その中でもっとも小さい種類です。棲息環境が似ているせいか、体型などはG. hainaensisに似ていますが、風貌は大陸グループの要素を感じさせ、どちらに似ているようでもありつつ、どちらにも似ていない独特なもので、頭骨の形状は滑らかで鋭角的でありながら、顎から頸部へのラインは緩やかに、体つきもその流れのままに全体的に嫋やかな雰囲気を漂わせます。頭胴長や全長はG. hainaensisとほぼ同じこともあって、全体的なボリュームはこちらのほうが心持ち少ないといったところでしょうか。尻尾の模様が、他の種類ではリング状におおよそ白黒になるのに対し、本種は黒の部分が色抜けして灰色になり、白黒灰といった模様になるのが面白いところです。というのも、こうした風になるのはハイナントカゲモドキなどがその傾向があるのですが、本種は生息地こそ同じですが分類的にはそちらよりもG. luiiに近い筈だからです。尻尾の黒が色抜けするのは、何か環境から来る変化なのでしょうか。まぁそれは定かではないですが、尻尾が色抜けするのでそこもちょっと格好良いかな、と思います。

 動きはこの仲間とだいたい同じで、さほど素早いということもないのですが、性格がセンシティヴで、刺激に対して慌ててしゃかしゃかと逃げるところがあります。ただ、走ることはしますが、跳躍や着地はあまり得意ではないようで、取り敢えず高いところから飛び降りるというだけなので、ケースをテーブルの上などに置いておくと飛び出した拍子に落下しかねませんから注意が必要でしょう。
 そうした神経質さは見せますが、同時に大胆なところもあり、慣れさせると餌をピンセットから簡単に食べることも多く、飼いやすいGoniurosaurusでもあります(ただし、冷凍コオロギなどを食べるかどうかはやったことがないので知りません)。

 生後2年ほどは、全身の基調色に橙色を帯び、バンドの中が濃い橙色になるのですが、生後2年から3年ほどでこの色合いが抜け、山吹色を帯びた黄色が基調色となり、帯の中の橙色が減衰して、地肌の色に近づくのに伴い帯模様の中に黒い斑模様が入ってくるため、一見すると帯模様が見えなくなり全身が斑模様のトカゲモドキであるかのように見えるようになります。黒斑蜥蜴擬の名前はこのへんにあるのかもしれませんが、成体になっても橙色が地肌から完全に抜ける訳ではなく、山吹色を帯びた黄金色のような印象になり、またよく見れば帯模様がどこにあるのかも分かります。

 繊細な雰囲気の本種ですが、本属の中ではかなり飼育しやすい部類に入ります。入手できるならば、ハイナントカゲモドキと並んで最初に入手するのに向いている種類と言えるでしょう。

 ただ、同居させるかたちで繁殖させると、産みすぎて体調を崩す危険性があるので、注意が必要です。これは本種に限らず言えることだとは思いますが、どうも本種はメスのほうがやや小さく、さらにオスが大きくなりやすい傾向があるようなので、より注意を払うべきでしょう。繁殖期はよりしっかり餌を与える必要がありますし、場合によってはペアを分けてやる必要があります。これは他の種の話なので確定ではないですが、Goniurosaurus属は一度の交尾で1クラッチしか産卵しないようなので、同居させなければ消耗を避けられるのではないかと思います。

 また、稀ではあるのですが、オス同士で喧嘩をすることがあるようです。同居させていて問題なかったこともあったのですが、あるとき一時的に同居させてみたところ、けっこう激しく噛み合いをしたようなので、少なくとも本種は、オス同士は一緒にしないほうが無難かもしれません。

Quần đảo Cát Bà,Hải Phòng, Việt Nam/ベトナム、ハイフォン省、カットバ島/Cat Ba Island,Hai Phong,Vietnam
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icon カットバトカゲモドキ/CatBa Far East Gecko/Goniurosaurus catbaensis (ZIEGLER, TRUONG, SCHMITZ, STENKE, RÖSLER, 2008)(>>menu)

体長:SVL117-118mm
寿命:不明
性成熟:飼育下で二年程度
棲息地:ベトナム社会主義共和国(Quần đảo Cát Bà,Hải Phòng, Việt Nam/ベトナム、ハイフォン省、カットバ島

 現在のベトナム社会主義共和国北部、Quần đảo Cát Bà,Hải Phòng, Việt Nam/ベトナム、ハイフォン省、カットバ島から記載されたトカゲモドキです。記載された頃には既に飼育下で繁殖されていたらしい、という訳の分からない逸話があったりします。まぁ、記載するために集めている筈なので、それほど不思議ではないのかもしれませんが。
 かなり大きくなる種類で、孵化直後の幼体のサイズではG. araneusよりも大きいのですが、最大長では負けるようです。ですが、なんとなく全体を見たときに、頭部が大きい印象があり、ボリュームからくる迫力があるような気がします。
 性格はけっこうセンシティヴで、驚くとしゃかしゃかと動いて逃げることがあります。ですが、目の前で素直に食べてくれることが多く、慣れさせればピンセットからでも餌を食べるようになるとか。Goniurosaurus araneusをちょっと慣れる感じにしたような印象でしょうか。まぁ、あっちもピンセットになれさせれば食べるらしいんですけど、管理人はそういう飼育方法していないのでよく分からないのでした。

 斑紋は乱れが強く、成長すると不明瞭になるタイプですが、逆に成長に伴い斑紋だけでなく、全身にある突起状の鱗の多くに斑紋内部と同じような黄色から橙色までの色合いが乗るので、成体になるとかなり豪華な感じになります。もちろん、個体差はありますが、逆に、この色の濃さや範囲などにばらつきがあるため、選抜交配の余地があるような気がします。尻尾が他種の殆どが白黒のリング状の色合いになるのに対し、本種は乱れた模様をしており、知らないと一瞬再生尾なのかな?と思ってしまうかもしれませんが、最初からこういう尻尾だったりします。

icon ハイナントカゲモドキ/Goniurosaurus hainaensisHainan Far East Gecko (Barbour,1908)(>>menu)
体長:SVL100mm
寿命:不明
性成熟:不明(飼育下で二年~三年程度)
棲息地:中華人民共和国(海南省、海南島南部から南西部?)

 ハイナントカゲモドキ/Goniurosaurus hainaensisは、中華人民共和国の海南島に棲息するトカゲモドキです。以前は、ベトナム北東部沿岸及びその周辺島嶼から中華人民共和国広西チワン族自治区南西部周辺にまで棲息するとされるGoniurosaurus lichtenfelderiの亜種とされていました。現在では独立種とされます。
 よく知られる産地は南部から南西部なのですが、このエリアは自然保護区を除くと開発の著しい地域でもあり、以前どこらへんからどこらへんまで棲息していたのかは定かではありません。五指山周辺が有名らしいのですが。
 詳しくないのですが、このあたりのヤモリは元々漢方薬の材料であったと云います。もっと以前は広くいたけれど、今はもう居なくなっちゃった、という場所も多いことでしょう。

 一体全体、海南島のどこから来ているのかは謎であり、高地タイプと低地タイプなどと呼ばれるものも含め、数タイプが散見されます。ただ、あまり区別されていないようではあります。国内繁殖例はあるものの、殆どがWC個体を使っての繁殖で、真面目に累代飼育している人の少なさが目立つ種類でもあります。ただ、それは別に本種の飼育が難しいといった技術的な問題ではなく、熱意の有無によるものでしょう。
 本種は、Goniurosaurus属の中で、筆頭の飼育のし易さを誇ります。これは、比較的ペットトレードに於ける流通状況が改善されて以降が初入荷であったということも大きいでしょう。ある時期まで全く流通しなかったのですが、流通し始めた途端、かなりの個体がペットトレードにも流入しました。

 大陸系の種類が立体活動を好むため、特にWCの導入初期に繊細なケアが必要になることがあるのに対して、本種は林床に棲息する種類であり、そこまで立体活動をさせずともすぐに環境に慣れ、また餌をよく食べる図太さがあるからでしょう。
 本種を飼育できないなら、Goniurosaurus属の飼育はどれも諦めたほうがよい……というか、森林系のランドゲッコーを含め、多くの種の飼育を諦めたほうが無難です。それぐらい、本種は飼育しやすいよいヤモリです。Goniurosaurus属でどれを初めに飼育すべきかと言えば、本種をおいて他にはないでしょう。ただ、2014年というか、もうここ数年は、本種だと確信できるものは殆ど流通していないような気がしますが。

Hữu Liên,Lạng Sơn, Việt Nam/ベトナム、ランソン省、フーリエン/Huu-Lien,Lang Son,Vietnam
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icon フーリエントカゲモドキ/Huu-Lien Far East Gecko/Goniurosaurus huuliensis (ORLOV, RYABOV, NGUYEN, NGUYEN & HO, 2008)(>>menu)

体長:SVL117-118mm
寿命:不明
性成熟:飼育下で二年~三年程度
棲息地:ベトナム社会主義共和国(Hữu Liên,Lạng Sơn, Việt Nam/ランソン省フーリエン周辺)

 現在のベトナム社会主義共和国北部、Hữu Liên,Lạng Sơn/ランソン省フーリエンにあるフーリエン国立公園及び周辺から記載されたトカゲモドキで、(Nikolai L. Orlov,2008)に詳しく、これは現在オープンで入手可能です。Goniurosaurus luiiによく似ますが、吻部の枚数及び形状、Eyelid fringe scalesluiiでは52–63なのに対し、huuliensisでは41–44とレンジが大きく異なる等の外見的差違があり、ここを指標に見分けることが出来るとされます(他にも指の鱗の枚数なども違うとされます)。一応、そーゆーことになっています(遠い目)

 というのも、どうもhuuliensisで出回っているものは、このレンジではないような………数え方が悪いのでしょうか。吻部の鱗の枚数で見比べようとすると、luiiとされるものの中にも一枚のものがいたりするので、これだけでは判断材料にはなりませんので、難しいところです。luiiの中に混じってくる鱗が一枚のやつは、全部がhuuliensisなのかと言えば、それの瞼の鱗の枚数は別に少なくないんですよね………もうよくわからん………。
 極々一部で繁殖された本種とされるものが流通したことがあります。サイズはGoniurosaurus luiiと殆ど同じかやや小さいぐらいで、個体差もありますので大きさから区別できるほどではありません。CBしか見たことがないのですが、帯のオレンジが鮮烈で美しい種類です。 っていうか、正直よくわかんないんですよね……… 

21° 12'48''N, 106° 28'38''E: Chí Linh,Hải Dương,Việt Nam
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icon バクボトカゲモドキ/Goniurosaurus lichtenfelderiBacBo Far East Gecko (Barbour,1908)(>>menu)
体長:SVL100mm
寿命:不明
性成熟:飼育下で二年程度
棲息地:ベトナム北東部(ランソン省/Lạng Sơn、クアンニン省/Quảng Ninh、ハイズオン省/Hải Dương、バクザン省/Bắc Giang, Hà Bắc and Hải Hưng(Hải Dương and Hưng Yênなどのトンキン湾湾岸地帯周辺/Bac Bo Gulf(Gulf of Tonkin)周辺?)、中華人民共和国?(広西チワン族自治区?)

 Goniurosaurus lichtenfelderiは、ベトナムの現在のバクボ湾(北部湾の意。旧名トンキン湾)沿岸の島嶼から見つかったものが最初の記録で、(Mocquard, FRANÇOIS,1897)には、" des iles Norway, de la baie d'Along, dans le golfe du Tonkin."とあり、ここからすると、ハロン湾のノルウェー諸島というところで捕獲されたということだと思うのですが、ただ、このノルウェー諸島というのが何処なのかがよく分かりません……。

 近年の調査では内陸部の森林地帯からも記録があり、(Orlov,1999)にある採集記録は、2013年時点の行政区ではハイズオン省(海陽省)に含まれる位置です(Hải Hưng省は、Hải Dương とHưng Yênという二つの省に分かれた)。ここから南へ、ハロン湾までいるのかもしれません。大陸側としては、(Orlov et al.,2008)によると、"During period from 1997 to 1998 we found G. lichtenfelderi lichtenfelderi (Mocquard, 1897) in granite valleys
of forest streams in provinces Lang Son, Quang Ninh,
Bac Giang, Ha Bac and Hai Hung at altitudes from 100
to 600 m a.s.l.”とあり、かなり広範囲に棲息していることになります。隣接する広西チワン族自治区にもいるのでしょうか。
 Goniurosaurus luii-Groupがカルスト地形の渓谷などに見られるのに対し、Goniurosaurus lichtenfelderiは"granite valleys
of forest streams"、花崗岩で出来た山が川によって削られた渓谷周辺の森林にいるとありますから、近い地域に住んでいても、生息地が違うということなのでしょう。体型の違いも、そういったところから来ているのでしょうか。ちょっとした疑問としては、ハロン湾に浮かぶ島嶼の多くは桂林から始まる石灰岩台地が元となっており、つまり、島の多くはカルスト地形となっている筈なので、そういう島のどこにGoniurosaurus lichtenfelderiが棲息しているのか、というのはあります。

 ところで、Goniurosaurus lichtenfelderiと言えば外見がGoniurosaurus hainaensisに似ているので、産地もよく分からないで輸入されるこの仲間では判別する必要があります。どこかに指標はないものなのか。よく分からなかったので、素人ながら色々読んでみることにしました。

 G.huuliensisの記載論文 (Nikolai L. Orlov et al., 2008)には、 "The new species is further distinguished from G. lichtenfelderi and G. hainanensis by having 41 – 44 eyelid fringe scales (vs. 43 – 56 in lichtenfelderi and 55 – 68 in hainanensis), 34 – 36 paravertebral tubercles (vs. 24 in lichtenfelderi and 26 – 29 in hainanensis)." (References and Citations from (Nikolai L. Orlov et al., 2008) 'A NEW SPECIES OF Goniurosaurus (SAURIA: GEKKOTA: EUBLEPHARIDAE) FROM NORTH VIETNAM' Russian Journal of Herpetology Vol. 15, No. 3, 2008, pp. 237)

 とあります。これはシンプルで参考になりそうじゃないか、と思って、そんなこんなしつつ写真撮影して鱗の数を数えたりしつつ、先日、(Wang et al., 2013)A NEW SPECIES OF GONIUROSAURUS (SQUAMATA:EUBLEPHARIDAE) FROM LIBO, GUIZHOU PROVINCE, CHINAという論文に書いてある検索表をぼんやり見てみたりしたところ、この論文ではNo. of paravertebral tuberclesがlichtenferderi:23-27,hainaensis:23–32. Eyelid fringe scalesがlichtenferderi:43–58,hainaensis:54–77という風に変わっていました。より新しいほうを参考にするなら、Eyelid fringe scalesをカウントして、53以下か、59以上だったら分かりやすく分けられるのかな、という気がします(あくまで気がするだけですが)。

 この指標で分けますと、国内でWCのhainaensisとして入手したやつにもlichtenferderiだと思われるやつはいました。ただ、逆はないかな、という気がします。そもそも、一番最初に流通したhainaensisは本物だったようなのですが、ここ数年はlichtenferderiばかりであるような………ただ、2010-2013に来ているものを調べてみると、鱗を数えると、lichtenferderiか、中間かな、というものが多いですね。lichtenferderiのレンジのものも少なからずいて、この期間には、むしろ明らかにhainaensisというものを見ていないような気がします。まぁ、なんていうかよく分かりませんな………。
 この目の鱗の数は、けっこう風貌に違いを与えるように思います。来た時期の違う色々なものをじーっと見てみると、目元の雰囲気がかなり違うものがいることが分かる筈です。肉眼で見た場合でも、鱗の枚数が60枚以上のものは、かなり滑らかな目元になる。対して、50-55枚程度と思われるものは、目の周りの鱗の一枚一枚が大きく、瞼が滑らかな曲線ではなく尖った印象をしており、目立ちます。 ぱっと見、なんか鱗が立っていてカッコイイ目元だったらlichtenferderiを疑い、ちょっと柔らかい感じの目元だったら、hainaensisかなと思って調べるのが良いかも知れません。調べ方は、標本だったら双眼実体顕微鏡写真なのでしょうが、まぁ相手は生きているので、被写界深度を深くしてマクロレンズで撮影し、写真をチェックすることになるでしょうか。

 …………ところで、中間の個体はどうするのか?という問題ですが、これは、もう、同じ時期に来た中間の個体同士で繁殖させて、子供を成長させて、その鱗を見てどっちかに寄るかどうかをチェックするしかないんじゃないですかね………。正直このへんは、よくわからんとしか言いようがない…………

広西チワン族自治区/Guǎngxī
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icon ピンシャントカゲモドキ/Goniurosaurus luii (GRISMER, VIETS & BOYLE, 1999)/ Pingxiang Far East Gecko(>>menu)
体長:SVL120mm
棲息地:中華人民共和国(広西チワン族自治区)
食 性:昆虫食(コオロギ、ローチ、蛾の幼虫)

 Goniurosaurus luiiは、中華人民共和国の広西チワン族自治区(かつての広西省)に棲息するとされるトカゲモドキで、その中での西部のベトナムとの国境である凭祥(憑祥。ピンシャン、日本語で読むならヒョウショウ)市周辺から記載されたとされます。幾つかのタイプが知られていますが、この辺は生息地の違いに依るもので、広西チワン族自治区のものとベトナムのものは今後分けられる可能性がありますから、外見的に違うものは別種であると考えて繁殖させたほうが良いかと思います。もちろん同種かもしれませんけれど、見てみると鱗がけっこう違います。

 何にしろ、大陸から流れてくるものは混ざって来るので、何処の個体が何処に生息しているのかは判然としません。もっと西のほうにもいるようだし、どうもベトナムのカオバン省にもいるようなのですね(ただ、だいぶ外見違うし、鱗もけっこう違うように思われるので、将来的に分けられる可能性はかなりあるように気がします)。

 なんというか、よく分かっていないのはだいたい luiiで来てる、という気がします。

 だいたいどれも大きさ的には頭胴長で120mm、全長で200mmに達すると言われていますが、それは細長い尻尾をしているからで、体型自体が元々痩せ形なので、全体的な存在感は其程ありません。然し、南米の土器に描かれる猿のように細く撓る背骨のライン、縦に切れた虹彩を備えた双眸と、逆三角形の突き刺さるような頭部。一風変わったその面立ちは、時として妖怪のようだ、等とも表現されます。
 以前は流通環境の劣悪さから飼育は難しかったのですが、現在流通しているものは其程でもありません。但し、簡単なのかと聞かれると、やや小首を傾げざるを得ない、そんな曖昧な飼育感です。ピンセットから食べることは殆どありませんし、WCの場合は、個体によっては中々餌付かないということが現在でも少しはあります。個体によっては、いつまで経っても、見ている前では食べないってのはザラにあります。また、これが一番深刻なのですが、寄生虫に顕著に冒されている個体が少なくなく、長期飼育や繁殖には駆虫が必要になるように思います。この辺の心配をしないで済むよう、CBで購入した方がよいのでしょうが、なかなかCB化が進んでいない種であるのも事実です。

 個人的に、数あるGoniurosaurusの中では一番気むずかしい気がします……ハイナントカゲモドキは、やたら飼いやすいのですが、そのノリで本種に手を出すと全然違うので驚かされるかもしれません。中々思う様に殖えませんし……(貴方の腕が未熟だからだという指摘は管理人が凹むのでしないであげるのが優しさというものですよ?)

 先述したように、Goniurosaurus luiiには外見からだけでも見分けられるタイプの違いが、幾つか存在するようです(管理人ぐらいでも、3種類ぐらいはいるのは知っています)。おそらくは生息地の違いによるものだと思うのですが、判然とはしません。この手の生き物に関しては地域情報というのは、実質得る手段もないからです。基本的には漢方薬などの食品用途で捕獲されたものであるからで、輸入業者とて辿れるのは捕獲業者が集めて来たストック場の場所迄、なんてのは良くあることであり、便が同じだからといって必ずしも同じだという保証はありません。それに、種類というのは外見からだけでは推し量れないものですからね。とはいえ、少なくとも外見的にこれは違うだろ、というのものは、種類が分割されるかもしれないので、繁殖に際しては、此らの差というのは結構重要であると個人的には思う次第なのです。なにしろ外見の色合いだけでなく、鱗の形状や枚数が明らかに違ってますからね………。

 そんなわけで、繁殖させるときは、同じ便で来ている、まぁこれは明らかに同じだろう、という風に思えるものをせめてペアリングするようにしています。気は心というやつです。

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