ヤモリの杜/Forest Geckos Forest

>>>Eurydactylodes agricolae/アグリコラクチサケヤモリ/Agricolae Chameleon Gecko

ニューカレドニア/New Caledonia
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Eurydactylodes agricolae (HENKEL & BÖHME, 2001)
雌体長:頭胴長(SVL)60mm、全長120mm(諸説あり)
雄体長:頭胴長(SVL)40-45mm、全長100mm(諸説あり)
寿命:飼育下で20歳以上
性成熟:飼育下で一年(雄)から一年半(雌)
棲息地:ニューカレドニア本島北部、ベレップ島
食 性:果実食(飼育下では、専用配合飼料、ベビーフード、バナナ、リンゴ、マンゴー、花蜜など)、昆虫食(飼育下では、コオロギ、ローチ、ハニーワームなど。)
基底温度:24-26℃(夜間22℃)、極めて低温に弱いので、15℃以下には曝露しないことが望ましい。

 口元から耳にかけて走る黄色い部分をしてクチが裂けているかのように見えることからクチサケヤモリの名で呼ばれますが、そう見えるというだけで、もちろん別にクチは裂けていません。正確にはクチ裂けてるようにみえるヤモリです。
 Eurydactylodes属はニューカレドニアに四種ほど棲息する小型の樹上棲ヤモリで、Eurydactylodes agricolaeはそのうち本島北部に棲息するとされます。頭胴長で50mm前後、雌のほうが大きくなることで知られます。雌で200mmになるものを実見したことのある話を聞いたことがありますが、少なくとも繁殖され出回っているものは、だいたいメスで全長100-110mmあれば成体と言って良く、雄に至っては尻尾を最大限伸ばしてようやっと80-100mmといったところでしょう。ただ、寿命が長いようなので、飼育していればそこまで大きくなるということなのかもしれません。プロポーションも異なり、オスはスレンダーで頭部から尻尾までのラインが緩やかであるのに対し、メスはボリュームがあってぼてっとしています。

 よく調査されており自然下のデータも豊富です。ニューカレドニア本島北部の森林地帯に棲息しており、自然下では標高5メートルから、標高1100mまでの広い範囲の硬葉樹林、叢林、山地林などで見られるそうです。それぞれの地表1メートルから2メートル弱ぐらいの高さでも比較的よく見られますが、より高いところにいることもあるようなので、単純に、高いところのものは見つけづらいだけではないかという意見もあります。実際、生活史では地面に降りることは殆どないと考えられています。

 積極的に飼育、繁殖され、よく流通し見掛けるようになりました。つまるところ、飼育しやすい種であると考えて差し支えは無いでしょう。

■触り方/How to touch 

 樹上棲種ではありますが、動きは緩やかで、どんな人でも取り扱うことが出来るでしょう。びっくりすると一生懸命に走って逃げますが、その速度はたいしたことはなく、小さいことも手伝って、簡単に捕まえられる範囲ですし、動きも直線的で予測できる他愛なさです。平滑な壁面にもくっつくことが出来る様ですが、もともとは、樹木の上を動き回る種類だからでしょう、平滑面での運動能力は高くありません。

 性格も少なくとも繁殖個体はどれも皆大人しいので咬んでくることはまずなく、総じて取り扱いしやすいと言えるでしょう。そもそも咬んだとしても対して害があるとも思えませんが。

 枝に止まるのが好きなのか、手のひらに載せるよりは、指に乗っかる、あるいはぺったとくっついている方が落ち着くようです。ただ、驚いたり居心地が悪いようだと、取り敢えず手から落下して(跳躍しているのですが、跳躍して、と表現してよいかは躊躇われるところです)、逃げようとすることがあるので、手の端に移動したときには、もう一方の手で受け止められるように、掬い上げるようにして扱うのが安全でしょう。あまりに高いと怪我をするかもしれません。自然下では、木や草、あるいは落ち葉などに引っ掛かることを期待している可能性がありますからね。

 なんにしても、扱いやすさでクチサケヤモリを超えるヤモリは、そうそう居ないんではないか、というぐらい扱いやすい部類なので、初めて飼育する人でも安心かと思います。

 強いて注意点を挙げるとすれば、驚かせてしまい飛び降りようとさせてしまったときに、事故が起こりうることでしょう。あまり跳躍も得意でなければ、着地も得意ではないようです。かといってあわてて受け止めようとすると何かと事故になりがちですので、ひとつはあまり高い場所に持ち上げたりしないこと、する場合は地面がちょっと柔らかい場所でやること(こうした種が棲息している場所は葉っぱなどがあってそれなりに柔らかいはず、という想像に基づくもので、あんまり根拠はありません)。掌で掬うように扱うと同時に、もう一方の手で包むようにして、落ちたときにはそこに着地しやすいように差し出しておくこと、でしょうか。
 心持ちは臆病なほど慎重に、ただし動きは迷いのないように。いまのところ管理人も注意深く扱っていることもあって、飛び降りて事故が起こった!ということは経験していませんが、見ていると運動能力のあまりの無さに、些かそういうところも気になってしまうヤモリです。

■飼育/Keeping 

□飼育環境(ケース、温度、光) 

 幼体の頃は協調性が高く、あまり喧嘩をしませんが、成体では基本的には単独飼育か、ペア飼育がよいでしょう。メスは成熟してもあまり喧嘩をしませんが、オスは喧嘩をすることがあるので同居させるのには向かないと聞きます。同居させてみた感じ、他の同居できないとされるヤモリほどには喧嘩しない気がするのですが、まぁ、たまたまかもしれません。今のところ、ヤモリのオス同士で殺し合いまで発展するような感じは受けませんが、もちろん、足場は複数用意して、好みの場所を選べるようにしてあります。
 飼育ケースはプラケースで問題ありませんが、高さのある飼育ケースで飼うと見栄えしますから、300*300*450以上のケースでペアを飼育したいところです。ただ、広すぎるケースは目が行き届かなくなることもありますから、広ければよいというものでもないかな、とも思います。植物を入れるのではないなら、いわゆる小型30cm水槽(約320mm*180mm*250mm)に、金網蓋をしたものや、Mサイズプラケでも十分でしょう。加えていえば、生後間もない小さいサイズの場合は、目の行き届きやすいもうちょっと小さいプラケなどで飼育したほうが良いかもしれません。
 ここに、立体活動が出来るように蔓(藤蔓やアケビ蔓)、コルクバーク、竹筒、ガジュマルなど、何かしらの植物を配します。基本的に樹上棲種でありますが、木の枝などにくっついているのを好む種類であるため、こうしたマテリアルは必須です。壁面にぺったり上手くくっつけるヤモリでもないため、入れないと地面をうろちょろすることになってしまいますが、あまりそれは良いことではないでしょう。小鳥の止まり木と似たようなものです。
 できれば、その個体の胴体の太さと同じか、1.5倍ぐらいの直径の枝を用意してやるのが良いように思います。コレがなければ死んでしまうということはないのですが、コルクバークなどの板状のものだけでなく、枝や蔓などがあるとより良いように感じます(両方入れると、大抵は蔓のほうにぺたっとくっついているので)。緑の彩りとしてポトスなどの好みの植物を入れ、隠れ家として二匹から三匹が入れるぐらいの内径のある竹筒や塩ビパイプを、こうした植物に引っかけておいても良いでしょう。ただ、あんまり筒に入っているのは見ないですけどね。やっぱり、蔓みたいな枝みたいなにぺとっとくっついているのがお気に入りみたいです。

 ただし、絡みやすいもの、強度の高い繊維質のものは入れるべきではなく、枝と枝を繋ぐさいに紐を使う場合には、細心の注意が必要です。引っ掛かってしまって抜け出られなくことが懸念されるからです。そんなまさかと思われるでしょうが、コレが案外あるんですよね………

  コルクバークなどを入れておいても、その下にいることは殆ど観察されませんが、いちおう緊急避難場所として考えています。ただ、あくまで緊急であって、普段は樹上にいるわけですから、日常的に空中湿度の管理がより重要な種類であると考えるべきでしょう。

 基本的に昼間は寝ていて、夜間に活動するヤモリなのだそうですが、昼間でも普通に動いているところも見るので、飼育下では何かと違うのかもしれません。自然下では昼間に雨が降るということはよくあることでしょうから、昼間に霧吹きをしてはいけないということはないでしょう。霧吹きをすると、よく顔や枝についた水滴を舐め取っている姿を見ることが出来ます。ミスティングシステムで管理する場合、水皿を設置し、昼間のミスティングで水が供給されるようになっているかのチェックは大切です。管理人は、ミスティングシステムで管理するときは、夜にも一回だけミストをするようにしています。加えていうと、体がべしゃべしゃに濡れるほど霧吹きするのは望ましくないのは当然ですし、ケース全体が多湿になりすぎないような注意が必要でしょう。樹上棲の種でありますから、空中に湿度があることは望ましいとはいえ、湿潤な環境が好みでは決してないからです。あくまで、ヤモリ本体ではなく周囲が濡れるイメージであり、ヤモリはそれを舐めに来ると考えるとよいでしょう。せいぜい、顔にちょっとかけるぐらいがよいかと思います。もともと、コルクバークや樹皮、枝を入れていると、その上ばかりで生活している種類であり、そこまで土に接触しているわけではないにせよ、濡れすぎはさけるべきでしょう。

 かといって乾燥には弱いので、ほどほどの空中湿度を維持しやすいように、床材に土を使うことを管理人は好んでおり、ヤシガラ土、樹皮培養土、黒土などを混ぜたものを使っていますが、このあたりはどのようなケースで飼育するかによって変わってきますし、好みもあるでしょう。床全体を土で覆うと、幼体のときに誤飲する危険はありますが、本種の場合は一部のカナヘビなどとは異なり、勢い余って餌と一緒に土を噛んでしまっても、水入れの水を飲んだり、霧吹きの水を飲んだりして、はき出したり飲み下したりして問題になったことはないように思います。もっとも、そこまで粒の大きいものや硬い砂のようなもの、繊維の長い床材を使った経験はないのですが(砂とか砂利とかは、どう考えてもダメだとしか思えないので、試す予定もありません)。

 土壌は湿り気を帯びてはいるが濡れているわけではないぐらいでよく、イメージとしてはぎゅっと握って水が出てこないぐらい、頑張れば数滴落ちるかも、ぐらいに水分を含ませた状態が基本です。もちろん、常日頃そうであるためには、そこに水分を加えていく必要があります。毎日の霧吹きでどの程度様子が変わるかを観察し、概ねその状態を保つようにするとよいでしょう。このあたりは、使用する飼育ケースによって変わってくるところであり、通気性が良いケースのほうが良いのは言うまでもないですが、そういうケースは同時にどんどん乾いてしまいますから、乾燥しないように注意が必要です。三日四日したらちょっと乾いてくるかもだけど、一日二日した状態では、別段、表面は目立って乾燥してこない、というようなのを管理人は目安にしています。当然、冬か夏かで大きく乾燥しやすさは変わってきますから、そのあたりも斟酌してください。基本は水皿への注水と併せて行う霧吹きで水分を補給するわけですが、回数は冬場ではなく夏ならば、水皿を設置していれば、一日一回ぐらいで問題ないかなと思います。本種は、先にも書きましたが、低温に弱いので、霧吹きやミスティングをする水は飼育温度に合わせたものにすべきです。これはまぁ、どのような生き物でも基本であるような気がしますが。

 飼育温度は基底温度を24-27℃とし、夜間22-24℃といったあたりが安全でしょう。低温にさえ気を付けていれば飼育しやすい良いヤモリです。高温に強いかというと、よく分からないところでもあり、蒸れて暑いような環境ではやっぱり死んでしまいそうな気がしますが、そんな環境に曝露したことはないので、どこまで弱いかは分かりません。ただ、広めのケージでバスキングライトを当てると、寄ってきて当たっていることがあります。大抵、沢山食事をした後などがそうです。ただ、先の気温で飼育している限りは、バスキングライトが飼育に必須ということはなく、蛍光灯も屋内蛍光灯が自然に当たる程度で問題はないようです。ただ、光を当てたほうが飼育ケースの中の植物もよく育ちますし、ヤモリ自身の色合いも綺麗になりますから、爬虫類用蛍光灯などを当てることは悪くは無いと思います。日照時間はニューカレドニアを参考に、夏期は12-14時間、冬は9-10時間程度、タイマー制御が簡単でしょうか。光を当てることは良いことだと思いますが、ただし、当たりたくないときには隠れられるような木陰を用意することは必要です。コルクバークや杉の樹皮などを立て掛けるとよいでしょう。

□餌について

 一般的なヤモリ用の餌昆虫――コオロギ(フタホシコオロギ、ヨーロッパイエコオロギ)、ローチ(モリチャバネゴキブリなど)、ハニーワーム、その成虫であるワックスモス、ワラジムシなど、食べるにあたってサイズが適していれば、幅広くよく食べるようです。成体は小さすぎて食べづらそうなこともあってあまり使っていませんが、幼体の頃は、ショウジョウバエもよく食べる様子が観察できます。餌の丁度良いサイズは、咽を通るであろうサイズでしょう。柔らかいローチでは、かみ砕くことでサイズが小さくなるものですが、飲みづらさもあるので、咽の半分か、それよりもうちょっとぐらいの太さを目安にするとよいでしょう。一般的なカルシウムサプリメントをダスティングして与えます。

 そういう意味で、また形状から、食いつきづらく飲み込みづらいせいか、デュビア(アルゼンチンモリゴキブリ)や、オガサワラゴキブリなどはあまり好まないようです。小さいサイズであれば食べることは食べますが、これらを強いてあげる必要性は皆無ですので、モリチャバネゴキブリなどの森林棲で潜らないタイプのローチを与えるとよいでしょう(そもそもオガサワラゴキブリもデュビアも潜ってしまうので、あまりこの手のヤモリの餌には優れていません。というのも、口に入るサイズを与えようとすると厚みが薄いため、小さいものを数を多くあたえる必要があり、ピンセットでやると面倒だからです。逆にいえば、面倒さを別にすればエサにはなります)。このあたりは飼育ケースの中でうろつかれると厄介なので、頸部を折ったものをピンセットで差し出して食べさせるのがよいでしょう。

 ただ、本種の自然下での食事は動物食(昆虫食)と植物食(果実食)の中間から、やや植物食に寄ったあたりとされています。これは野生下での調査によるもので、特に成体であれば動物食と植物食の比率は、植物食のほうが有意に多いようです。実際、柑橘類ではない果実の熟れたものや、花蜜、花粉などをよく食べます。食べられる果実の幅は広いようで、バナナ、リンゴ、マンゴー、イチジク、モモなど、甘い薫りがするならば取り敢えず食べますが、もちろん果実だけでは栄養やミネラルに欠けます。ベビーフードなどのように、いろいろと混ざっているものが良いでしょう。
 昨今はクレステッドゲッコーやデイゲッコー、ゲッコー(Gekko属)のような、果実食ヤモリ向けの餌が販売されており、これをよく食べます。果実食であってもヤモリにはそれぞれ好みがあって、デイゲッコーフードは食べるけれどクレステッドゲッコーフードは食べないというヤモリもいますが、この二種類のフードに限って言えば、クチサケヤモリはあまり気にせず、どちらもよく食べます。ただ、管理人がやってみた主観では、クレステッドゲッコーフードよりも、デイゲッコーフードのほうを好んでよく食べている気がします。クレステッドゲッコーフードへの喰いが今ひとつの場合は、昆虫ゼリーを混ぜて半分から三分の一ぐらいの分量加えたものを与えたりすると喰いが良いと聞きました。昆虫ゼリーは様々な種類があるので活用し甲斐があります。勿論、自作しても良いでしょう。欧州では果実系のベビーフードをベースに自作している人が多いようです。

 こうした配合飼料は、生まれて初めて食べるときには、慣れがないからか躊躇することがあるようですので、指先でちょっと、鼻先に付着させて舐めさせ、食べられるものであると認識させ、匂いと味を覚えさせるとよいでしょう。鼻先にくっつけるのは、そこに付けると反応として舐めて落とそうとするからです。食べたことのないものだと、口元に差し出しても舐めないことがありますが、一度舐めて食べ物だと分かれば、次からも食べてくれるようになるというところは、人間だろうとヤモリだろうと同じというところでしょうか。勿論、初めて食べる場合でも、香りがよければ、それに釣られて舐めてしまうこともままありますし、そういう風になるように餌を調合するのがメイカーの腕の見せ所なのでしょう。

 こうした人工飼料だけで飼育できるのかどうか、というと、実は管理人はそういう風に飼育したことがないので分かりません。基本的に、昆虫と果実両方を与えるようにしているからです。出来ると聞きますが、やったことがないので……雑食哺乳類もいれば肉食哺乳類もおり、そして草食哺乳類がいるように、ほぼ植物食のヤモリがいてオカシイということはないですし、実際に果実をメインにした配合食をよく食べ、作り込まれていればそれだけを食べて成長させることが出来るのではないかという気はします。ただ、幼体から育成してみた感じでは、人間もタンパク質が含まれていても植物だけではなく、動物性タンパク質を摂取したほうが大きくなりやすい(戦後の日本人を見れば明らかです)ように、コオロギなどの昆虫も織り交ぜたほうが、より成長しやすいように感じているので、幼体の育成には積極的に昆虫を与えることにしています。といっても、データとして蓄積した訳ではありません。亜成体から成体になれば、基本的には配合飼料のみでも体調を崩すことは無いようです。少なくとも管理人のところでは、七割方を配合飼料にしても問題ないように思います。
 動物性タンパク質を補うために、蛹粉などを配合飼料に入れることも出来ますが、蛹粉やコオロギ粉は水分を含んでから劣化するまでの時間が極端に短くなりますので、置き餌として与えることは難しくなってしまい、デメリットのほうが大きいように思います。その場合は、与えてすぐに食べるよう、スプーンなどで差し出すものに混ぜて食べさせて、置き餌は普通のものにするとよいかもしれませんね。

■繁殖/Breeding

 本種は極めて低温に弱い種であると云われており(15℃あたりから危険で、12℃以下とか止めといたほうが)、実際、そのようであるので、温度を下げて発情させるのではなく、日照温度、湿度変化により発情を促すのが安全です。ただ、これだけ広く繁殖され多く流通していることからも分かるように、飼育繁殖の難しいヤモリではないようです。
 温度を下げる場合は一週間二週間をかけてゆっくりと下げ、クーリング温度は夜間含めて下限20℃、怖いならば21℃を基準にして考え、気化熱で温度が下がるので、全体に満遍なく霧吹きするのではなく、水皿を含めた観葉植物などの一部に霧吹きするようにします。土壌を湿らせて飼育している場合、入れているシェルタの種類や位置によって温度が変わってくるので、ヤモリが常にいる場所の温度を把握しておくことが大切になります。やや湿度を低めにしたこの状態で、できれば併せて日照時間も短めにして一ヶ月半から二ヶ月管理し、(ただし安全のためにウェットシェルタと水入れを入れておきましょう)、そこから温度上昇と併せて湿度上昇、日照時間を長くするといった環境変化で発情を促すと良いでしょう。

 とはいえ、はっきり言ってしまえば、空調管理をしていると、季節のなだらかな温度変化で、特段何もしなくても発情してペアリングが成立し、産卵するように思います。何故なら、冬季に暖房を使っていると、それだけで湿度が下がるため、夏と同じような感覚でミストをしていると、けっこう乾燥気味になってしまうからです。個人的には、冬と夏では、そこまで湿度に差をつける必要はないのではないかと思っています。それほど差を付けずとも繁殖しますので。ただ、繁殖させたいのに、上手く行かないという場合は、このあたりの変化を試してみると良いかもしれません。

 ただ、管理人のところでは先述の暖房による乾燥も手伝ってか、「ペアで飼ってたら、なんか殖えた………」という感じであって、上記のような冬化処理を厳密に行っているかというと、「部屋の低いところに置いているので、冬は、まぁなんとなく温度低くなっていますな」というテキトウなものです(ただし、そうやって殖やすために意図的にその周辺が暖かくなりすぎないようにしているのは確かです)。それで殖えるので、殖えやすいヤモリなのだと思います。

 卵は通常1クラッチ2個。同じ場所に産むことが殆どだが、1個の事もあれば、別々の場所に1個ずつ産むこともある。産卵場所が気に入らないからかもしれない。

 産卵は掘りやすい地中に行われます。土で飼育しているならばその何処かに、クッキングペーパーなどで飼育している場合は、タッパーウェアにヤシガラ土を入れたものを入れておけば産卵します。床材を赤玉土や、ペーパー類にしている場合は、産卵用のボックスを入れます。掘りやすく保湿性がある、樹皮培養土やヤシガラ土にピートモスを半分ぐらい混ぜたものなどがよいでしょう。ビバリウムで飼育していて、ワラジムシなどが飼育ケースにいて、なにか卵に害はないかと言えば、あまり問題が起こった記憶はありません。そもそも地中深く埋めるからです。とはいえ気になるならば、土の状態をチェックして、変化を感じたら掘ってみるとよいでしょう。余談ですが、逆にカルボンとかを中に入れておいて、ワラジムシがそっちを食べる様に仕向けるというのは一つの手かと思います。まぁ、取り敢えず管理人はワラジムシが何かそこまでの害を及ぼした記憶はないので、あまり気にしないことにしています。

 こうした産卵に関連することとして、ケースに土を敷いて飼育している場合には、概ね毎回同じような霧吹きの度合い、土への水分補給を行うように心がけるべきです。ちゃんとそのあたりを把握して、孵化に適した場所を選んで産卵するからです。産卵の場所を好みで選べるように、水皿の周辺が一番、水分含有量が高く、そこから離れるに従い減っていく、というような。適当に水を注いでいると、卵を溺れさせてしまう危険がありますから、毎回思い思いに水をばしゃばしゃいれるのではなく、パターンを作って注水するのも一つの安全のコツかと思います。

□孵卵/Incubate

 卵は産卵から24時間以上が経過してから取り出すのが望ましく、取り出す際には卵に油性ペンで印をつけて、卵の上下が変わらないようにして孵化器に移動します。孵化器は産卵場所と同じような植物系の用土で問題ありません。パーライトやバーミキュライトなどでも孵化しますが。
 孵化は22-26℃当たりが安全でしょう。この周辺温度で管理すると(通常、管理人は昼間と夜間では2℃ほど夜の方が低い温度で管理しています)、概ね48-55日前後で孵化するようです。雌雄決定については分からないのですが、この温度で孵化させた管理人のところでは、雌雄はだいたい半分ぐらいで、どちらかに寄ってるということもないような気がします。

 孵化仔(ハッチリング)の立ち上げ、餌付け、育成には、特段、難しいところはありません。ただし、よく食べ、ぐんぐん成長するので、手を抜かず、最初に一気呵成に育て上げることが大切です。
 もしも、ハッチリングの餌付きが良くないとか、新陳代謝が上手く進まず成長しないなどの問題が起こった場合は、ハッチリングの育成方法の見直しを考えるだけでなく、親の飼育状況――与えている餌の栄養バランス、孵化技術のほうに問題がないのか検討するべきでしょう。孵化仔の餌付けや、孵化よりも、親の育成が良くないから卵がよくないから上手くいかないというのは往々にしてあり得ることです。

 ベビーは、人工飼料(ヤモリ用配合飼料)に加え、ハニーワーム、ショウジョウバエ、ローチ、コオロギなど、動くものを積極的に食べますが、案外食べるのがヘタで、食いついたはよいですが土を一緒にクチの中に入れてしまうことがあります。今までこれが問題になった経験はないのですが(そうならないように、砂礫などの床材を使わないようにするなどの配慮はしていますが)、見ていてあまり気分が良いとも思えませんし、自然下の生態を考えて、コルクバークや蔓など、登りやすい立体的な足場を沢山用意してやり、その上で餌を与えるのが安全でしょう。そうした枝にくっついた状態で、斜め前ぐらいに差し出してやったり、そこへ歩くように昆虫を入れてやると食いつく筈です。
 先述した餌昆虫の中でも、ハニーワームなどのワーム類への嗜好性が抜群に高く、孵化してから何も食べようとせず、配合飼料もあまり食べない個体でも、これには反応して食べてくれるような気がします。何かを食べ始めればそのまま他のも食べるようになることが多いので、幼体の育成にはハニーワーム、小さいコオロギの二つぐらいは用意しておきたいところです。モリチャバネやショウジョウバエなどもよく食べますけどね。

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