玉蜀黍畑の唄/CornSnakeSongs

始めに品種に就いて遺伝概論品種一覧  / 付箋集参考文献飼育に就いて諸問題と解決方法繁殖に就いて終わりに

icon始めに

 此の頁は、既に存在した数多くのテキストを参考にしており、また、数多くの人々の助力を得て作成しています。
 写真とかアドバイスとかまぁ色々です。頁によっては、経験よりも前の段階、情報収集、編纂により形作られている面が色濃く、趣きが異なっているかもしれませんが、その辺もお楽しみ頂ければと思います。
 そもそも、あんまり詳しくないから、書いてみよう、というのがこのページの始まりでした。分かる部分を整理して書き出すことで、分からない部分を浮き彫りにし、それを調べて………の繰り返しです。正直、此のあたりは深すぎて、追いつける気もしないです。

 尚、参考文献に関しては別記して纏めてあります。

 そうした書籍の著者はもとより、ブリーダー諸氏との歓談もまた、この頁の内容はもとより、作ろうという動機に寄与するところが大きく、実際に飼育する中でしか得られない数々の知識、知見も、此らを書き上げるに当たって大変参考になりました。各位に感謝致します。

 それから、当頁は、当サイトの他頁と異なり、掲載している写真には、幾人かの方から借り受けたものが多数含まれています。独力では、とてもではないですが、集めきれはしないでしょうから……。提供者の希望によりキャプションを附けてないものが数多くありますが、掲載写真の大半が借り受けているものだと言って過言ではないでしょう。あらためて謝意を。

iconPantherophis guttatus/CornSnake/アカダイショウ

Pantherophis FITZINGER, 1843
 Pantherophis guttatus (Linnaeus, 1766)
  Callopeltis guttatus (Linnaeus, 1766)
  Coluber carolinesis (Shaw, 1802)
  Coluber compressus (Donndorff, 1798)
  Coluber floridanus (Harlan, 1827)
  Coluber guttatus guttatus (Linnaeus, 1766)
  Coluber guttatus (Linnaeus, 1766)
  Coluber guttatus sellatus (Cope, 1888)
  Coluber maculatus (Bonnaterre, 1790)
  Coluber molossus (Daudin, 1803)
  Coluber pantherinus (Daudin, 1803)
  Elaphe guttata (Linnaeus, 1766)
  Elaphe guttata guttata (Linnaeus, 1766)
  Elaphis guttatus (Linnaeus, 1766)
  Natrix guttatus (Linnaeus, 1766)
  Natrix maculatus (Bonnaterre, 1790)
  Natrix panterhinus (Daudin, 1803)
  Scotophis guttatus (Linnaeus, 1766)

 嘗ては、ナミヘビを代表する属であったElaphe属でしたが、2002年の再分類に際し、北米のナメラの幾つかはPantherophis属として区分されるようになり、本種も移動となりました。厳密な意味は知らないのですが、何となく管理人の中では、ナミヘビというのはElaphe属以外のものも含む、言うなればColuber全般を指し示すもので、ナメラというのはElaphe属を指す、というイメージがあります。ですが、北米の蛇に関しては、ナメラと云う呼ばれ方はあまりしないようで、ナミヘビというのが一般的かもしれませんね。或いはラットスネークか。アカダイショウという和名があるようだけども、そんな風に呼ぶ人にお目に掛かった事はなく、普通はコーンスネーク、略称コーンと呼ばれる気がします。豆知識的にアカダイショウという名前を覚えてもよいが、別に覚えたからって愉しい事はあんまりない上に使っても通用しない場面の方が多そうだし通用したとしてもちょっと寒いかも。とはいえ、どうでもよいことを沢山知りたくなってしまうのが人情とも言えるけれど。

 飼育に関しては、爬虫類の中でも群を抜いて長い歴史を誇り、累代が進んでいる事に加え、日本の気候に大変適応しているようで、飼育繁殖共に容易いとされます。また累代の結果、性質的に馴致されており気質が穏やかであることも人気の一因でしょうか。
 ちなみにタイトルには何ら深い意味はなく、砂糖黍畑ってのがあったなぁと言う聯想と、略したらCSSになるなぁという感じの、極めて刹那的な発想によるものです。まぁ、他の頁と同じということですか。

 コーンスネークの呼び名の由来は、インディアンコーンの模様(黄色に、まばらに赤いコーンがまざる。此はフリントコーンに分類されるのですかね)に、コーンスネークの腹部が似ていたから、というのが一般的のようです。昔は玉蜀黍畑にいるから、なんて話もありましたが、幾ら何でもそれには無理がありすぎでしょう………別に、コーンベルトにだけ棲息している訳ではないですから。

 所謂”コーンスネーク”と呼称される蛇は、長らく広義Elapheの中で、Elaphe guttata guttataElaphe guttata emoryiの二亜種が記載されていました。前者Elaphe guttata guttataは北米の東南部に広く分布し、後者Elaphe guttata emoryiと呼ばれていたプレーンズコーンスネークは北米の中南部に、これまた広く棲息していました。ただ、此の二つの亜種の境界域には、亜種間の交雑域が複数存在することが以前から示唆されてはいたようです。ただ、そのうちの一つは、非常に顕著な特徴を持っていた為、地名からキサッチ・コーンと呼ばれて区別されていたのですが、此が2002年に、遺伝子解析から変異が河を境界にして断絶したものであるとされ、Elaphe slowinskiiとして新種記載されたという事もあり、或いはまだ、ある種の個体群に関しては新種として記載される余地があるのかもしれません。
 同年2002年、Elapheが系統解析され再分類が為されElaphe guttataを含む北米の幾つかのラットスネークが、Pantherophis属へ移行されることになり、同時にこの際、亜種から種へ昇格されました。この際、種小名は属名に倣って変化するのですが、学名変更のルールとして、人名由来のものは変化しません。そんな訳で、女性詞Elapheから男性詞Pantherophisに移動するに際して、Elaphe guttataPantherophis guttatusになりましたが、Elaphe guttata emoryiPantherophis emoryiとなっています。

 コーンスネーク/Pantherophis guttatusの腹板枚数は197-245枚で、北部に行く程少なく、南部に向かう程多いそうです。飼育下では交雑が進んでいるので意味がない情報かもしれませんが………スジオナメラ同様、此の変化は北部から南部へ向かって諧調的で、何処かで境界線を引く事は出来ません。此の、境界線を引く事が出来ないで諧調的に変化することを、クラインを為す、と云います。亜種として何かが認められるには、先ず、周囲と明かに断絶した環境に居て、此処から此処に存在するもの、と区別が出来ないと生物学上、亜種とも個体群とも認めがたい(線引きが曖昧になるから)のだそうで、オケーティだとかマイアミが個体群だとかに認められることはあっても亜種だとかに正確に認められないのは此故だとか。
 ただ、北部には幾つか断絶された地域(といっても米国大陸は大きくいので、迚も広いのですが)があるので、そこら辺を区分することは出来るかもしれません。

 腹部は白を基準として市松模様が黒く入るが、極端な場合、真っ白であるものと真っ黒なものとがある。黒い部分は、黒と赤が混ざった色であるようで、黒色色素を欠損させると赤、乃至、橙色になる。体鱗列数は中央部で25-29

icon品種に就いて

 本来、品種とは、形態的特性、及び表現型が、同種の中でも識別可能な程に固定されたグループ(集団)のことを言います。
 それらの特性は、確立された繁殖方法により均等かつ永続的に遺伝しなくてはなりません。

 自然発生的な地域個体群ではなく、人為的に作られた閉鎖個体群をしてそう言いますが、特定の個体群の中から選抜育種を繰り返し、その地域個体群の持つ特性をより表面に顕在化させた結果、その特性が閉鎖個体群内に於いて均等化、均一化された場合、それは品種として確立したと認識される、と言えるでしょう。未だ表現型にばらつきがある間は、品種としては不完全だということになります。

 特性や表現型は、一つの品種が、他の品種、或いは原種に対して示すもので、外見的特性だけでなく、生物的特性も意味します。植物で言うならば、耐寒性や耐病虫性、草丈なども品種の特性として数えられますが、ハープタイルホビーの分野、取り立てて蛇の分野では、突然変異の色素異常型遺伝子や、模様変異遺伝子を持つ個体をして品種と呼ぶ事が多いです。

 確かに、動物種でありながら多重劣性遺伝表現型の個体が、個体群と呼べるレベルの数存在し流通する現状は、冷静に考えると驚嘆すべきものがありますが、本質的な意味で品種と云うのは、こうした変異遺伝子を抱えるだけのものを指し示す言葉ではないと言えます。

 むしろ、コーンスネークで言うならばオケーティやマイアミ、ブラッドレッドなどが、元来の品種に当たると言えるでしょうか。
 様々な”品種”がコーンスネークにはありますが、共通していえることとして、此らは外見的特性に主眼が置かれており、最大長などに主眼を置いた品種改良(矮小品種等)はまだ為されていないようです。

 遺伝性の色素欠損個体というものは、それら一つ一つが単一の品種として維持されているというものでもないし、色素変異型同士での交配も為されているので、血統的に色素変異の個体群が維持されている訳ではなく、此らは品種とは呼べないかもしれません。ですが、こういうものも、品種と呼ぶような向きも昨今はあるので、品種と捉えても、間違いという訳でもありません。どっちなのかと云えば、定義次第、ということになるかと思われます。

 ただ、コーンスネークは長年の育種により、その生物的特性は野生下のものから大きく掛け離れて来ており、目に見える性質ではなく、飼育し易さ、性質(凶暴さ、臆病さなどの気性)、環境への適応能力などが、長い馴致累代の過程で淘汰され、極めて飼育し易い特性を持つ個体が産まれてくる様になっていることから、飼育下繁殖のコーンスネークは、それ自体が既に原種と比べて一つの品種であると言えるかもしれません。

icon遺伝性変異(色素異常形質+模様変異)

 先ず、基本となる模様の外形をノーマルと呼称するとして、此以外に遺伝性の認められる模様の形質が、コーンスネークでは二つ知られています。

 モトレー/Motley、ストライプ/Stripedの二つがそうで、この二つは複対立遺伝で遺伝し、中間個体が存在しえます。

 此ら模様変異に対し、色素変異は通常、単一劣性遺伝形質です(例外が近年見つかりましたが、基本的には単一と考えて問題ありません。例外は例外だけ覚えればよいかと)

 コーンスネークの持つ色素は、黒色色素、黄色色素、赤色色素の三つであり、此らが欠損、或いは抑制、減衰することで色彩変異は生じます。
 管理人が調べた限り、優性遺伝、不完全優性遺伝、共優勢遺伝の色素系突然変異遺伝形質は無いようです。複対立遺伝は、アメラニスティックで確認されたようですが。

 黒色色素の変異では、欠損(Amelanistic/アメラニスティック)、減衰(Hypomelanistic/ハイポメラニスティック)が知られます。
 一口に黒色色素に関わる変異と云っても幾つかあり、それらは遺伝子の異なる場所が変異した結果である場合は対立遺伝します。

 例えば、アメラニスティック=黒色色素欠損は、フェニルアラニンからアラニンが生成される経路の何処か一つ(生成するのに必要な酵素一つ)が欠損しても、結果としては黒色色素欠損となりますし、黒色色素胞自体が欠損する変異であっても、やはり黒色色素は生成されないでしょうから、此が全身に及んでいれば見た目は先述のそれと殆ど変わらないものである可能性が高いと思われます。

 コーンの場合は、後者のようなタイプはないようですが(ルーシスティックが或る意味それに当たるのでコンフェティやルビーフレックルがそうだと言う言い方も出来ますが)。
 ルーシスティックは、黒色色素胞や黄色色素胞、赤色色素胞が、白色色素胞に置き換わる事で生じる色彩変異だそうで、眼球にはその変化が及ばない事が多いです。
 逆に、赤色色素胞、黄色色素胞などの体の総ての色素胞が黒色色素胞に置き換わるとメラニスティック(黒化)/Melanisticが起こります。が、此はコーンスネークでは報告されていません(一例ありますが信頼性が解らないので無いとしておきます)。メラニスティックでは、色素胞が置き換わっているだけである為、模様は黒一色で染まっているので解りにくいものの存在し、脱皮殻などで模様を見ることが出来るようです(他の蛇の場合)。色素胞自体が総て置き換わっている為、此のメラニスティック(黒化)/MelanisticAmelanistic/アメラニスティックを組み合わせると通常真っ白の蛇になります。此が、所謂スノー(Snow)/Amelanistic+Anerythristicと同じ表現になるかは、Anerythristic等の変異がどういうものかに関係するかと思いますが、同じにならないと言われています。何にしろ、コーンスネークでは現時点ではメラニスティックが報告されていないので詮無き思考ではありますが。

 コーンスネークの場合、Amelanistic/アメラニスティックを呈する変異では、チロシナーゼが欠損しているのだったと記憶していますが、調べた限りで詳細な資料が無く不確かなので断定は避けておきます。何にしろ、色素が生成される「どの過程が欠損するか」によって、同じ例えば黒色色素に関係する変異でも、表現形は変わってくるし、遺伝子は対立になります。
 何れにしろ、所謂AlbinoAmelanisticの意味)は、コーンスネークでは一系統しか見つかっていないので混乱することはありませんが(註:今後は、ウルトラが存在する為、複対立になると思われますが)、アネリスリスティック/Anerythristicには後述しますが、複数タイプが存在します。 

 黄色色素と赤色色素は密接な関係があるそうで、色素の素となる材料が同じであるそうです。というか、確か、黄色色素を経て、赤色色素が生成されるのでしたか………

 このことは少し変異に関係してくるようで、例えばキャラメル/Caramelという変異がありますが、アレは、赤色色素が欠損するアネリスリスティック/Anerythristicではなく、赤色色素に変化する過程の何処かが上手く機能しない為に黄色色素に止まってしまっている状態だと云われます。完全に止まる訳ではなく抑制されているのか、個体によっては(元が赤みの強い個体とかでは)本来赤の強い部分が橙色になるようです。キャラメル/Caramelだけでは解りづらいですが、キャラメル/CaramelAmelanistic/アメラニスティックであるバター/Butterを見ると分かり易いでしょう。

 故に、アネリスリスティック/Anerythristicと言っても、黄色色素、赤色色素が生成されるかなり初期段階で欠損が生じているものは、赤色色素と同時に黄色色素を欠きますし、そうでないタイプのアネリスリスティック/Anerythristicでは赤色色素は完全に失われても、黄色色素が僅かに表面に出てくる場合もあるようです。

 アネリスリスティック/Anerythristicは、現時点で二系統あり、古くからあるものを普通アネリスリスティック/Anerythristicと呼称され、もう一つはチャコール(木炭の意味)/Charcoalと呼称されます。
 アネリスリスティック/Anerythristicは黄色色素が喉元に残り、チャコール/Charcoalは残らない、とされてきていましたが、黄色色素が喉元に残らないアネリスリスティックであるとか、経年により喉元に黄色が生ずるチャコールが見つかり、外見からの判断は出来ない、というのが現在の認識の主流であるようです。亦、チャコール/Charcoalは黒色模様部分がより濃く、木炭の如く真っ黒になる為、単純な赤色色素欠損とは呼べないかもしれません。前者をAnerythristic "A"、後者をAnerythristic "B"と呼ぶ人も居ます。
 アネリスリスティック/Anerythristicと呼ばれる事はないのですが、此に近いと思われるのが、所謂Lavender/ラベンダーで、此は赤色色素(及び黄色色素)が完全に欠損するだけでなく、黒色色素も減衰し淡い色彩を呈します。此がやや紫がかって見える事からラベンダーと呼ばれます。ただ、完全に赤色色素生成のプロセスが欠損する訳ではないようで、Hypomelanistic/ハイポメラニスティックと組み合わせる事で透明感のある赤みが増すようです。
 Lavender/ラベンダーもまた、アネリスリスティック/Anerythristic系と捉えるならば、アネリスリスティック/Anerythristicは三系統存在すると云えます。此ら三つの遺伝子には互換性はなく、それぞれが単一劣性遺伝です。

 コーンスネークの殆どの品種は、此ら多数の突然変異形質を組み合わせにより作られています。

icon地域個体群及び、選抜交配により固定された形質

 コーンスネークの分布は広く、北米一帯に広がっていますが、その幾つかは亜種分けされたり、中には独立種として認められたものもいます。それら、亜種、独立種として認められていないものの、大変広い範囲に棲息している為、棲息地が遠く離れていると、その環境の変化も相俟って、同種でありながら外見的性質が異なったものが適応し棲息するようになっています。

 若しも、その棲息地が断絶されているならば、それらはヤドクガエルなどではモルフ/Morphと呼ばれるもので、日本語で言うなら地域個体群という事になります。ハープタイルホビーの分野では、特に、地域個体群の中でも、外見に変化が生じており、判別し易いものを表す言葉として遣われますが、外見的性質が近くても遺伝子解析により違いが認められればそれらは地域個体群と呼ぶべきではあります。

 ただ、コーンスネークでは生息地の断絶が殆どないようで、地理的な距離の差が表現形の違いを諧調的に生んでいることから、明確な個体群というものはないようで、地域性による外見の違いをあまり重要視しない人も多いようです。そういう方というのは、色彩変異の表現形の品質をより重視しているということですが。ただ、近年、この辺のを見なすべきであるという動きも出て来ていますし、それ以前から連綿と此らの血統を保持しつづけている人も、いなくはないようです。

 まず、もう混ざってしまっているもの、及びもともと一般的だったコーンスネークの形質をノーマルと呼称するとしますと、此と区別される個体群変異で有名なものは、マイアミ/Miami-Phaseとオケーティ/Okeetee、あとはフロリダキーズのキーズコーンなんていうのもあるようです。

 此らに加え、特定の地域の中から、その地域特有の特性を色濃く表す個体を選別――と、云うよりは、選抜し、それらの中で交配を繰り返し、より特性の方向を純化させ均一化させ続けた結果産まれた品種というものも存在するようです(管理人は選別交配と言うよりも、選抜交配、或いは選抜育種という単語を好みますが、此は個人的趣向です(笑))。例えば、ブラッドレッドがその最たるものでしょう。

 本来、選抜交配(Select-Breed)とは、より飼育者主観に於ける美しさの方向性に優秀である個体、或いは特徴的に異端である個体などを、それぞれの特徴に応じて選別した個体同士を選別し選抜し掛け合わせ、よりそれらの特徴がより顕著に出ている個体を生み出すことを意味する言葉であると思います。

 地域由来の個体群としては、マイアミ、オケーティ、ブラッドレッドがあるわけですが、それとは別に、その中でも特に面白い模様のものを選別して交配した結果固定化されたものとしては、他にバンディッド/Banded等があるかと思います。

 此らの選別、或いは選抜品種は、それ単体だけでなく、それらのAmelanistic/アメラニスティック、アネリスリスティック/Anerythristicといった色彩変異にすることでより深みのある形質になる場合があるようで、数々のブリーダーが日々、斯うした選抜に取り組んでいるようです。

 また、あるタイプの血を過去に入れた個体の系譜では、色彩変異にしたときに特徴的な傾向を持つケースなどもある為、案外、この辺の個体群を意識するのは、ある種の方向性で個体の美しさを際だたせて固定したいと思った際に重要になってくるのではないでしょうか。

icon二重以上に劣性遺伝子が出る場合(多重劣性遺伝表現形の作出に就いて)

 遺伝子座が異なる変異遺伝子(非対立である変異遺伝子)は、非対立であるのですから、同時にホモ接合になることが出来ます。
 此らは複数の遺伝子座に就いて、それぞれ劣性遺伝するパターンなので、基本的に考えは、単一劣性遺伝と変わりません。

 それぞれの遺伝子座に於いてそれぞれ独立しているので、単純に、多重であればあるほどに、出現の確率が下がる、という事以外は。

 例えば、黒色色素を欠損させる遺伝子と、赤色色素を欠損させる遺伝子があります。それはぞれ劣性遺伝子ですが、此らの遺伝子は遺伝する時、遺伝子座が全く異なるので、お互いに何ら関係なく遺伝すると考えて問題ありません。独立して遺伝するということです。そして確立は、その重ね合わせになっていきます。

 例を出しますと、此処に、黒色色素欠損(Amelanistic)個体と、赤色色素欠損(Anerythristic)個体によるペアがいるとします。此処では前者を雄、後者を雌としましょう。雌雄差は此の問題に寄与しないので、逆でも何ら問題ありません。
 黒色色素に関わる遺伝子座M( , )と、赤色色素に関わる遺伝子座E( , )について書き出すと、

 Male  : M(a,a) | E(n,n)
 Female : M(n,n) | E(a,a)


 となります。Mの座とEの座はお互いに干渉せず独立するので、記号としては+などを使わず垣根「 | 」を使いました。

この雌雄から産まれる子供は総て、遺伝子としては、

 { M(a,a) | E(n,n) }×{M(n,n) | E(a,a) }={ M(a,n) | E(a,n) }

 となります。a,nの順番に意味はありません。同じ事です。

 { M(a,n) | E(a,n) }のように、二つの非対立遺伝子を共にheteroで持つ個体を、Double-heteroと呼ぶようです。若しも、此に更に別の非対立形質が加わる場合、TripleQuadruple………と数が増えていきますが、多くなりすぎる個体の場合、意味が薄いこともあり、トリプルヘテロぐらいまでが普通に使われるレベルかと思われます。

 Double-heteroの個体同士を掛けた場合、MとEの遺伝子はそれぞれ、独立して遺伝の法則に従い遺伝します。

 乃ち、上記にあるように、M( , )の部分は、M(a,n)M(a,n)の掛け合わせなので、

 M(a,a)25%
 M(n,a)50%
 M(n,n)25%

 同時に、E( , )の部分は、E(a,n)E(a,n)の掛け合わせであるから、

 E(a,a)25%
 E(n,a)50%
 E(n,n)25%

 となります。そうすると、此らの組み合わせは、

 { M(a,a) | E(a,a) } : AmelanisticAnerythristicが共にHomo接合。Double-homoと呼んだりする。6.25%
 { M(a,a) | E(n,a) } : AmelanisticHet-Anerythristic 12.5%
 { M(a,a) | E(n,n) } : Amelanistic 6.25%
 { M(n,a) | E(a,a) } : Het-AmelanisticAnerythristic 12.5%
 { M(n,a) | E(n,a) } : Het-AmelanisticHet-Anerythristic = Double-hetero 25%
 { M(n,a) | E(n,n) } : Het-Amelanistic 12.5%
 { M(n,n) | E(a,a) } : Anerythristic 6.25%
 { M(n,n) | E(n,a) } : Het-Anerythristic 12.5%
 { M(n,n) | E(n,n) } : Normal 6.25%

 以上九通り。但し、外見上、ヘテロは区別が付かないから、外見で区別をつけると、

 Double-homo(Amelanistric+Aneryhristic) : 6.25%
 AmelanisticAmelanistic 6.25%Amelanistic+Het-Anerythristic 12.5%) : 18.75%
 Anerythristic(Anerythristic 6.25% Anerythristic+Het-Amelanistic 12.5%) : 18.75%
 NormalDouble-hetero 25%+Normal 6.25%+Het-Anerythristic 12.5%+Het-Amelanistic 12.5%) : 56.25%

 以上四通りになります。
 先程、三重(トリプル)ヘテロ以上のものに名前を付けるのには意味がない、と書いたのは、トリプルヘテロ同士から、三重劣性遺伝表現形(総てホモ接合のも)を作出しようとした場合、その出現確率は1/4の三乗、1.5625%しかありません。コーンスネークの平均産卵数を10とした場合、百個の卵を取って、始めて一個出てくるかどうかという確率です。正直、此はあまりにも現実的ではないので、故に意味がない、と書いた訳です。

 よって、二重は勿論そうですが、三重以上の劣性遺伝子の表現形を作出する上では、幾つかの要素がホモである個体同士を掛け合わせて、誕生の確率を少しずつ上げていく努力が肝要になるでしょう。

 例えば、スノウ(アルビノ+アネリスリスティックA)モトレーを作出しようと思った時、スノウとモトレーの間で子供を採って、そこからスノウモトレーを作るのは現実的とは言えませんが、スノウと、アルビノモトレーを掛け合わせたり、アルビノモトレーでも、作出の過程上、ヘテロアネリの可能性があるものと組み合わせるなどすることで、より現実的に作出し易くなる筈です。
 或いは、トリプルヘテロ同士から子供の場合、ダブルホモで、最後の一つのヘテロ、という可能性は高いので、ダブルホモの子供をとっておき、別系統のトリプルヘテロと組み合わせ………ということを延々組み合わせて行けば、スノウモトレーであるとか、バターモトレーであるとか、バターストライプであるとか、ハイポラベンダーストライプであるとか………多重の劣性遺伝の表現形を作出しうる訳であり、斯うした机上で書き綴っているだけでも気の遠くなるような作業を、最初に作出したブリーダーを始めとする多くのブリーダーが黙々とこなし続け四半世紀以上の時間が流れた末に、現在の多種多様な品種が確立されている訳です。

 余談ですが、此を書いていて、管理人は多重劣性遺伝表現形を作る気力が物凄い目減りしております。
 ハイポラベンダーモトレーとかハイポラベンダーストライプとか作ろうとしたら、物凄い労力を要しますな………いえ、まぁ、やりますけども。