(Grand Étang,Réunion island,2017.07)

 

《ヒルヤモリを見に行こう 2017(マスカリン諸島編) 3/3》

レユニオンにはPhelsuma inexpectata以外には、Phelsuma borbonica borbonicaPhelsuma borbonica materがいる。どの産地のものをどちらの亜種にするのかは諸説であるようで、2017年現在どれが正しいか管理人はよく知らないのだが、いくつかある説明のうち、それが正しいのかは知らないが、ピトン・ド・ラ・フルネーズで分断された南部にいるものがmaterで、ピトン・ド・ラ・フルネーズの北側にいるものはborbonicaだという説明は分かりやすいかなとは思う(より正確には、ピトン・デ・ネージュとピトン・ド・ラ・フルネーズで島を二つに分けたときに北東部側と、南西部側というべきだろうか。ただ、南部のLe Tamponあたりのエリアまではいるが、Bras de Cilaosに隔たれ、そこからぐるりと西回りに北上してRivière des Galetsで分けられる西側のエリアからは生息しているという話はないので、より単純化して表現するなら、「Phelsuma borbonicaが生息しているエリアをピトン・ド・ラ・フルネーズで分断したときの北部と南部」ということになる)

ただ、物事はそう単純というわけでもないだろうし、まったく別の理由で亜種分けされるぐらいの変化が起こっているのかもしれない。昔の文献では北東部のあたりまでPhelsuma borbonica materとされていたものはあったし、そもそも、今後もっと分かれることがないとも限らない。と、いうわけで、飼育しているものに関しては、産地で分けておけば、また、産地が分からないやつは産地が分からないものとして別枠にしておけば、後で分類が動いたとしても、どうにでもなるだろう、と思っている。

Phelsuma borbonicaは幾つかの産地で外見が違うことが知られていて、欧州ではそれぞれの産地に由来するものが系統を分けて繁殖されている(地図で見てみると、これら山脈や渓谷があるので、そうしたもので分断されていることは、それほど不思議ではない)。名前はそのまま生息地のこともあれば、行政区画の名前のこともある。Le BrûléとGrand Étangはそのまま生息地の名前だが、Saint-Andréはかなり広範囲を意味する地名だ(とはいえ、そのエリアの標高何百メートル以上、というインフォメーションがあるので、間違っているわけではない。ただ、渓谷が複数あるように思われ、それらの間に違いが存在するのかどうかが定かではない)。

管理人は欧州で繁殖されたCBを幾つか飼育しているが、そのうち産地のインフォメーション付きで売られていたのはLe BrûléとGrand Étangのふたつ。それ以外の産地があることはかねてから知っていたので、今回はこれ以外の産地のものも見てみたいと考えていた。(というか、これに限らず、衛星写真と三次元地図や地質データや降水量のデータなどを見ながら、この辺があやしい……とか妄想するのはよくあることである。そしてそれがヒットしたりすると面白いし、外れた場合は何故外れたのかを考えるのがまた面白い)。

だが、結果からいうと、レユニオン島に来てからは天気に恵まれず、またこれらの生息地の標高が高いこともあって、満足の行くものは見られなかった。これはたんに、行った季節が冬だからというのもあるし、天候に恵まれなかったというのもあるだろうし、そもそも生息地のどういう場所を探せばいいのか、手探りだったというのもあるだろう。

言い訳になるが、Phelsuma borbonica materがいるとされる南のBasse ValleeからMatouta付近250-500mmは、調査された頃(2006-2007年ぐらいまで)よりも雰囲気が変わってしまっているのでは、という気はした。

Basse Valleeに向かう200m付近からバニラなどの栽培のために木々の間が刈られ、多くの木々にバニラが縄で巻きつけてあるところが少なからず見られた。もし農薬や殺虫剤などが使われていれば、種類によってはヤモリにとっては致命的であろうことは想像に難くない(実際に、Foret de Bois Blancでは農薬が使われた結果、2004年以降は1個体が観察されたきり姿を消している、という話を目にした。現在はどうなったのだろう?)。
また、Basse Valleeの400-500m付近はかなり広範囲に切り開かれてサトウキビ畑やヤシ畑のようになっているところもあった。付近を歩いたが環境としてはもうちょっと東のForest Mare Longue ほうがよりよく残っているように見受けられた(こちらではバニラの栽培が行われていない)。ただ、いずれの場所でも、見つけることは叶わなかったのだが。

実際に見つけられなかったので、これらの場所にいるのかどうかはわからないが(とはいえ記載標本が採集された地点にも行ってみたのだが)、ともかく、borbonicaの生息地とされている場所はinexpectataなどと異なり森の中だった。ただ、この森のどのようなあたりを好むのかは、見つけられなかったので、定かではない。

Basse Valleeは標高200mを超えるあたりから樹木に蘭のバルブがつき始め、100mmもあがれば蘭と苔だらけだった。ただ、当たり前だが同じ島の同じ標高でも必ずしもそうだというわけではなく、山をひとつ越えたGrand Étangは標高500mであってもBasse Valleeよりも雲霧林ぽくなかった。もうちょっと高いところへ行けば違うのかもしれないが。山を二つ越えて北側になったLe Brûléについては見た感じどこも二次林だったので、参考にはならなさそうであるが、これらよりさらに湿度の度合いが低いように思えた(1000mよりも上はそうでもないのかもしれない。今回は、1000mぐらいまでしか歩かなかった。ヒルヤモリは1000mを超える場所にはいないという話だったからだ)。

まぁ、風景写真ばっかりってのはそういうことですよ(がっかり)

いちおう、Grand Étangでは一匹見かけることが出来たが、残念ながら枝の間から間を移動しており、撮影することができなかった(ピントが合わせられなかった)。いずれリベンジしたいところである(とはいえ、ここら辺で見た、みたいな情報を知っている方は、教えていただけると嬉しい)。Grand Étangは有名な観光地、というか散歩に来たりピクニックをしたりする公園であるらしい。公共交通機関があまりないのでアクセスはよくないが。探すときにはそれを考慮する必要がある。となると、やはり冬ではなく夏がベストなのだろう。

…………というか、戻ってきてからGrand Étangに行ってヒルヤモリを見たことのある人に会う機会があり、こういったところを探した、という話をしたら、見つけ方のアドバイスをもらった。なんかちょっと探し方が違ったようだ。管理人の方法でも見られなくはないが、難易度が極端に高くなるのだとか……………。………………まぁ、次回行ったときに、その情報をもとに探してみることにしよう………そもそも教わったのは夏の探し方だったし…………

Grand Étangに挑み続けたものの結果は振るわず、他の場所に行く時間も無くなってしまった。行けるのはせいぜいあと一箇所。

フィールドに行って何も見られないと、なかなか精神的に凹むものがある。ピンポイントでこれを見たい、と思っているからだが(例えばコスタリカに行って、イチゴヤドクガエルを見たいとして、それなりに下調べしておけば、全く見られないということは基本的にないが、Aristelligerを見たい!と思って行けばそりゃ難しい。まぁヒルヤモリはAristelligerほどには難易度高くないと思うのだけど)。

まぁしょうがないので最後に賭けたのがLe Brûlé。できれば実物を見たことのない他の産地に行きたかったが、行くのが少々手間取るので、帰国を考えると無理しづらかった。

Le Brûléは北部のサンドニから南下した高地にある小さな町である。閑静なところではあるが、つまり、こちらは人里であるので、バスが毎日通っている。サンドニの中央からバスを乗り継いで1時間ぐらいで到着することができ、バス代も安い(確か乗り継ぎで追加費用はかからず、全部で1.6Euroだったと思う。まぁそう考えると別に普通な気もするが、レユニオンは物価が高く、コーラなんかが350ml缶で2Euroとかする国だから安く感じるのかもしれない)。

GoogleMapなどで見れば分かるが、登りの道は九十九折であることこの上ないので、運転などはせず、バスを使うのが無難である。管理人は1000m程度までしか行っていないのだが、どうも上のほうはトレッキングコースとしてそれなりに人気があるようで、ちらほら登山客を見かけた(逆に、登山の格好でもなくそんな町へ行こうとしている管理人は、「一体何をしに行くのだ?」と運転手に聞かれたりした)。

冬のLe Brûléは雲がかかると気温は日中でも13度ぐらいまでしか上がらないし、霧に包まれる。天気の良いことが見られる基本条件だろう。というか、まぁ冬は難しいんじゃないかな、というだけだろうけれど。

人里なので原生林は殆ど切り開かれていて、道がある周囲は二次林になっているように見受けられた。が、話によれば、環境に上手く適応しているとかで、人里でも見られるようだ。たまに電柱にくっついてたりするとかいう記述があるし、街中で人に尋ねたところ、天気が良ければ村のいたるところにいる、というものらしい。が、ちなみにだいたい原地の人は「どこにでもいる」「よく見かける」というものなので、いまひとつあてにならないことも多い、というのが生き物探しあるあるである。もちろん嘘を言っているということではないのだが、誤認しているということはある。例えば、ヒルヤモリの写真を見せると、「マナパニーに行けば見られる」とか「サンドニのLe Jardin de l’Étatで見られる」ということを教えてくれる。前者はinexpectataだし、後者は後に紹介するがbobonicaではない。

ただ、たまに「ここにいるやつは、ほかのところのより大きいやつなんだ」とか、なかなか詳細なことを教えてくれたりする人もいる。ここに来る前にForest Mare LongueやGrand Étangを歩いていたので、「一体、このLe Brûléの、どんなところにいるのだろう?全然環境が違うぞ?」となっていた。村外れから藪に入って、二次林になっていないエリアを探す必要があるのか? だが、こうした人里の近くで、村人の許可なくそういう行為をすることは、あまりよろしくない。村人からしたら迷惑だし、単純に危ない。番犬が多いし、レユニオンではそういうことはなさそうなイメージはあるが、一般的に、場合によっては野犬がいたりするから管理人はそういうことは好まない。なぜなら管理人は犬がとても苦手である。それに番犬のほうがやたら吠えるので面倒くさいというのはある。以前訪れたインドネシアのフローレス島では(狂犬病がこわい場所である)、飼い犬だけでなく野犬がうろうろしていたが、うろうろしている犬というのは、やたらめったら吠えたりしない。ただ、吠えないからといって怖くないわけではなく、むしろ静かに囲んできたりするので怖いが。ともかく、犬は言葉が通じないからどうしようもない。



結果、人のいるエリア周辺か、現地の人の力を借りて探すしかない。現地の言葉をなるべく使って、にこやかに話しかけるのだ。管理人がにこやかに話しかけても怪しいだけかもしれないが、話しかけない人間よりかはあやしくないと信じるしかない。

管理人は外国語が苦手である。正確には単語力がなく文法と発音と聞きとりが苦手である。というわけで、次善策として、あらかじめそれぞれの言語で質問のフォーマットを作り、それを印刷するかスマートフォンに保存しておく、という手を使った。フランス語なんかわからないし、そもそもレユニオンは正確にはフランス語というわけでもないが、とりあえず英語よりはフランス語は通じる。というか都市部以外になるとなおさら英語は通じない。
電源は重要なので、紙ベースのほうが無難だ。地図もあわせてあるといいし、鉛筆は必須である(といっても、世界には文字を読めない人のほうが多いというエリアはごまんとあるので、これはレユニオンだから有効だった方法だろう。ちなみにそういう場合はイラストを描くとかして頑張ろう)。

(Le Brûlé,Réunion island,2017.07)

いくつか努力してみた結果、半ば諦めていたが、ほんとうに最後の最後で扇芭蕉の陰にいるヒルヤモリを見ることができた。日本に帰ってから、過去にLe Brûléを訪れてヒルヤモリをたくさん観察している人にこの写真を見せたところ、曰く、扇芭蕉は本来、ボルボニカがいる環境ではない、という話をされたが(まぁ、広葉樹にいるのが本来の姿だというのは本にも書いてあるし知っていた。だからオオギバショウはあってもほとんどスルーしてしまっていたのだったりする)、まぁ見られないよりは、見られたほうがいい。

いま写真を見て思い返すに、大きさの差などを考えると、この2匹はペアだったのかもしれない。

野生下のボルボニカを見て思ったのは、やはりヒルヤモリ全般に言えることだが、おそらく紫外線量の違いにより緑の色合いが異なること、黒の濃さが全く異なること、赤の色合いがより濃いこと、つまるところ色合いが全然違うこと、つまり結果、随分と雰囲気が異なって見えるということ。

管理人が飼育している個体は欧州から小さいサイズで輸入されたもので、管理人のところで育成したCBなのだが、黒は弱いし赤はあんまりない。というわけで、メタルハライドランプを当ててみたりしている昨今である。

ところで、Le Jardin de l’Étatというのはサンドニにある、無料で入れる公園である。モーリシャスにあった植物園と名のつくような場所に比べると植物の種類も少なければ広さもせまい、普通の公園でしかない。たぶんレユニオンにも大きい植物園もあるのだと思うのだけど、今回は人工の場所ではないところばかり探していた。だってわざわざ行って植物園で見てもなぁという感じもあるじゃないですか?
とはいいつつ、自然下で見られなければ人は妥協するもの、もう帰りの飛行機まで時間もないし、ここに行くとヒルヤモリが見られるというので、急ぎ行ってみた。

結論からいうと、ここにいるというのは、いわゆるヒロオヒルヤモリ/Phelsuma laticaudaのことだったと思われる。もともとレユニオンにいるものではないので、オウギバショウであるとか、マダガスカルから植物や、資材を持ち込む際に、侵入してしまったのだろう。

そういえば、レユニオンにはパンサーカメレオンがいるというので、ちょっと見つけてみたかったのだが、話によると見つけやすいのは西海岸のほうであるらしい。とはいえ、南のほうにもいたはずではあるので(この辺にもいる、という話をトレッキングをしてる人に聞いたりした)、単純に管理人の観察眼がたりなかったのかもしれないし、歩いた時間がよくなかったのかもしれない。

まだまだ全部見られていないのでモーリシャスにも再訪したいし、Phelsuma borbonica materを見つけること、Piton de la Fournaiseへの登山を含めて、レユニオンも、もう何回か行ってみたいところである。ただ、それより前にPhelsuma klemmeriとかを見にマダガスカルに行ってみたいのだけれど……はてさて、マガダスカルのフィールドにどうやって行くのか、そのあたりは全然知らないので、そこから調べる必要がありそうだ。実現するとして、何年後になるのやら。