何処にいようと――家にいても、山にいても、海の上の船にいても、空の上から世界を見下ろしても、或いは砂漠に居てもジャングルの中を歩いていても、おそらくは宙の果てであろうと、結局のところ自分がいるところが、自分がいる場所でしかなく、世界はそこからしか始まらない。少なくとも今の処、人間はそういうものである。
人の世界が認識で成り立っているならば、想像力が精確に世界の認識を再現すれば、人は何処にいても何処にでもいることが出来る―――ただ、そこまでの想像力というものがあると、人として生きていくのは難しいようにも思われるけれど。
ただ少なくとも、逆に言えば、感受性や認識力が養われていなければ、或いは鈍化してしまっていたら、どこへ行っても、その人の世界は変わらないのだろう。管理人も、何やらそうした感覚が摩耗したということなのだろうか?―――コスタリカに到達しても、いまひとつ感慨が湧かないというのが正直なところだった。
飛行機に乗っている時間は長かったが、地球の裏側までやってきたというのに、高揚もなければ現実感もない。もっとも、夜に到着したこともあって、暗い町並みを見ただけだから、まだ実感が湧かないだけかもしれないし、或いはこれ以上ないぐらい興奮していたからなのかもしれなかった。
コスタリカは中米に位置する。日本は赤道付近ではないから、地球の裏側という表現は正確ではないが、気分的には殆ど地球の裏側だった。日本から出掛ける範囲の中では、遠い部類のひとつだろう――アメリカを経由して首都サンホセまでは、十九時間を要した。もっとも、これはニューアークを経由地としたことも大きいが(端的に言ってこちらの方が飛行機代が安かったからこちらを利用したが、通常はヒューストンかダラスを経由する。アメリカを経由するため、ESTAの取得などもあったが、そういったところは端折る。)。
飛行機を乗り継ぎ、サンホセへ、そこからタクシーを使ってホテルに入った頃には既に深夜である。そしてあまり寝つけもしなかった数時間後の早朝、ランドクルーザーに乗り込み、舗装の悪い道路に揺られていた。各地での滞在時間をより長くとるため、移動スケジュールはタイトである。このあたりは、管理人の旅行にあってはいつものことだった。本当は、旅行というものは移動も楽しむべきなのだろうが………。
目指すは海抜2000メートルを超えるサン・ヘラルド・デ・ドータ。
短い時間であの鳥を見たいと思えば、モンテベルデやグアナカステ(グアナカステ国立公園ではなく、グアナカステ保全地域。正確にはその中のParque
Nacional Volcan Rincon de la Vieja)よりも確率は高いと言われる(ホントかどうかは知らない。ただ、サンホセから半日を使えば行ける範囲という手軽さは魅力だろう)。実際、営巣地でもあるらしい。
今回の為に購入した望遠レンズを車中でカメラに装着し、案配を確かめる。今回、レンズを購入してから殆ど練習する時間もなく旅行になってしまった。思えば、マレーシアのときもそうだったような気がする。鳥の撮影自体は、前のレンズで雀相手にやっていたが、地面に降りてくる鳥ではないから、練習対象として間違っていたのではないかと今更ながらに思う(カラスのほうで練習すればよかった)。どこまで通用するか甚だ怪しい。もっとも、そもそも半日しか滞在しないのに見映えする写真を撮影しようなどというのは無茶も良いところだというのは分かってはいて、肉眼で見られれば、それでよいと出掛ける前は思っていた。が、やはり来たからには、微妙なショットでもピンぼけではないものを撮影しておきたい………なにしろ、イリオモテヤマネコもそうだが、「いや見たんだって!」と主張するにはやはり、微妙であっても写真がないと説得力がないのだ。「場所的に集落のないところで見たし、なんかイリオモテヤマネコっぽかった!」と主張しても、「イリオモテイエネコを見たひとは、みなそーいうんですよ」と一刀両断である。そう言われると、なんかやっぱりイエネコだったんかなぁ、という気がしてきてしまう。やはり、見た!という証拠になる程度の写真は欲しい………(ちなみに、管理人さんはいまだイリオモテヤマネコを見たことがないんじゃないかと思う。二度ほど、イリオモテヤマネコカモシシレナイネコなら見たことがある<読みづらいわ!)
今回のコスタリカ旅行には、ゴジ・ツアーズさんに全面的に頼ったこともあって、現地の交通機関や宿泊地を自分で手配しなくて済み、精神的にかなり気楽な旅行である。本当にタクシーが来るだろうか? 合流場所は此処であっているのか? そもそも相手の顔も知らないのにどうやって合流すればいいのか?とか、そういう諸々を心配しなくて良いのは素晴らしい。純粋に旅行が楽しめそうである。
コスタリカに行くにあたり、10年前と1年前にそれぞれコスタリカに行ったことのある二人の友人に、どこがオススメだったか?というのを訊ねて、それの良いところ取りをしたといったスケジュールを立てた。日程の関係上、コルコバード国立公園は諦めざるをえなかったが(ちなみに10年ぐらい前にコスタリカに行った人は、モンテベルデでケツァールを見たそうな)。
だが、このサン・ヘラルド・デ・ドータへ行く部分は、友人にお勧めされたわけではない。そもそも、随分前にゴジ・ツアーズを見つけた切っ掛けが、この鳥の名前で検索したからだったので、コスタリカに行くときには、此処には行こう、というのは旅行に実際に行く計画を立てるよりずっと前から思っていたことだった。
とはいっても、相手は野生動物。見られないことなど幾らでも有り得る。そんなことには慣れている。マレーシアでは結局、ヘビは殆ど見られなかったし………(まぁ、ヘビは種類にもよるが、野生動物の中でも相当見つけにくい部類だろうけれど………)。
見られるか、見られないのか………緊張はいやがおうにも高まりつつあった。このツアーには他にも女性二人組の旅行者の方も同行していたが、そちらの二人は朝が早かったせいか、移動を開始してから暫くして眠ったようだった。
そんなこともあって、ガイドの加瀬さんと管理人は、ぼやぼやと世間話をしていた。そんな折――丁度、車が山中に入ったとおぼしき頃、加瀬さんの口から、控え目に、「知らないかもしれないけれど」というニュアンスを含んで、予想だにしない発言が飛び出したのだった。
「そうそう……水曜どうでしょうって、知ってますか?」
Σ( ̄□ ̄; !!!! (←無音の驚愕)
/コスタリカ旅行記 ケツァール編第一回(了)