Phelsuma l. lineata CB2012

 ヒルヤモリは、特にPhelsuma grandisとかのイメージで、オスがメスを殺してしまうことがしょっちゅうあるような殺伐とした感じがするのかもしれませんけれど、小型種に関して言えば、荒くないような連中が多いような気がします。――といっても、それほど飼育して来ていないので、普通に荒いのかもしれませんけれど……我が家で一番飼育している小型種は、たぶん、Phelsuma lineataかと思うのですが、こいつは、まぁ雌雄の関係で首筋に噛み傷がつくことはあっても、殺し合いになったり尻尾が落ちるなんてことになったことはないように思います。もっとも、最低でも500*360*360ぐらいのケースは使っていますけれど。………そういえば、先日、Phelsuma serraticaudaはあんまり協調性がないらしいと耳にしたのですが、ホントだとすれば凹む話ですなー。あれの為に何ケース用意しろとゆーのか。見た目からしてなんとなく、Phelsuma laticaudaのようにそこそこ協調性があるような気がしていただけに、なんともまぁ………

 Phelsuma standingiは、ペアが形成されていれば、その後はそこから産まれた子と一緒にしばらく暮らす、つまり子を親が食べたりしないヒルヤモリとして有名ですが、小型種はどうなのでしょう? 深く考えたことがありません。そもそも卵は取り出すし、親と一緒に育成しないので、分からないのですよね。案外、他の種類でも別段大丈夫なのかもしれないですが、なんか大人しい種類のヒルヤモリでも、小さいサイズのが目の前をちょろちょろしてると(つまり孵化させた子をそのままケースにいれっぱなしにしておくと)、ぱくりと食べちゃうとか、そういう話を聞いたような気がして、試す気になれません……。
 まぁ、そんな澆季混濁たるヒルヤモリ界にあって、なんか大人しいらしいよね~というので有名なのがPhelsuma klemmeriで、これは登場したときから、「きれい、おとなしい、かわいい」と言われていたかは知りませんが僕はそう思ってました(<ぉぃ)。とはいえ……いくら大人しい、と耳にしてはいても、昔はそれなりに清水から飛び降りる気分でないと買えないヤモリだったし、同居とか、なかなか試す気にならんかったのですが、今年はなんとなくそういう、試しちゃおうかなー、みたいな気分になったことと、それなりに大きいケースを用意したので、「まぁ、これだけ広ければ喧嘩をしても殺し合いまでにはなるまい………喧嘩をして傷痕が観察されるようだったら、すぐに分けよう」と思って、試してみました。

 ケースサイズは200*600*600(それなりに大きいと言っておきつつ、なんか小さい!と思われるかもですが、だから”それなり”なのです! ………まぁ、高さとかがあるということで)。床材は杉樹皮培養土、水はミスティング、蛍光灯、サンスベリアと竹筒をたくさん。導入方法は、亜成体ぐらいから同居させ、そろそろ成熟するかな~、ぐらいのペアに、まず同じぐらいサイズのメスを導入。喧嘩する様子がないのを見て、さらに一ヶ月後に同じぐらいの成熟した(と思われる年齢の)オスを入れてみました。(ちなみに血統は別で、過去に一緒にしたことはない。)

 特に喧嘩する様子もなく月日は経ち………

 まぁ、そろそろ産卵してることは間違いなかろう(温度変化とかさせたし、まぁ腹部の様子を見た感じ抱卵した→凹んだし)、と思いましたが、今回は卵を取り出すことはせず、ケース内で孵化を待ちました(外壁には見当たらなかったので、竹筒の中でしょう。てか、うちではあまり外壁に産まないな………)。

 そしてまた数ヶ月後………ま、何事もなくフツーに孵化をしたようで、ケース内でちょろちょろしているのを発見しました。

 さて………ワンペアから子をとれば、それはすべて同一血統であり、(ある程度の大きさに育つまでは)テリトリーを主張したりして、その子に危害を加えることはないし、間違って食べてしまうようなこともない、というのは耳にしていたところです。こういった種類は他にも知られていて、例えばSphaerodactylus t. torrei等の幾つかのSphaerodactylusは、ペアが形成された後、ある一定のテリトリーで暮らし、そこに他の個体が侵入した場合は猛烈な喧嘩になる場合があるけれど、そのペアの卵から孵化した幼体は、そのテリトリー範囲(大抵は一本の木だとかそういう感じらしいですが)にしばらく留まり、一緒に暮らすが、この時、親はどちらも幼体に対して干渉をしないのだとか。ある一定のサイズになると、子は独り立ちしていくそうです。Phelsuma standingiは、この類であるということになります。ではPhelsuma klemmeriは? ペアであれば同様になることは分かっていますが、今回の場合、中に2ペアを入れています。複数ペアで飼育ができる種の場合、繁殖させたらどのようになるのか。厳密に個体識別をしてペアリング観察をしたわけではないので、どの個体がどの個体とペア形成されているのかが分かりません(カメラで撮影するという手もありますが、死角もありますしねー)。では、どのようにペアが形成される可能性がありうるのか。

 1. もし2ペアが形成されているとき、その親は周囲にうろついている子を自分の子とそれ以外と識別するのか(あるいは、識別せずとも、すべて自分の子だと考えて危害を加えないのか)
 2. もし「ペアが必ず決まった個体同士で形成されている」場合で、1ペアが産卵し、もう1ペアが産卵をしていないとき、周囲に子がうろついていた場合、産卵していないペアにとって、それはどのように認識されるのか。
 3. もし、オス1対メス2のトリオが形成されて、オスが一匹あぶれているとき、周囲に子供がいたらあぶれたオスは、その子をどういう風に扱うのか。

 という三つのパターンが気になりました。一番目に関して言えば、孵化した後うろつく生き物であり、そして親は孵卵をするわけではないから、孵化の瞬間を見て、その模様を記憶するといったことが出来ない以上、問題にならないのだろう(=識別はしないが、全個体が全子個体に対して危害を加えたりはしないだろう)、と予想されました。
 問題は二番目と三番目。そもそも、一部のヤドクガエルや一部のトカゲのように、「相手を個体識別して、ペアが形成される種なのか」というところが分かりませんから、もちろんこれは仮定にすぎません。二番目の場合、オスにはメスが産卵したかどうかは分かっていないでしょうから、どちらの子に対しても危害を加えることはない、と考えられそうです。では、メスはどうなるか。

 この二番目のメスと、三番目のあぶれているオス。可能性として幼体に危害を加えるケースは、この二つがあり得そうです。ただ、今回の場合、観察していたところ、メスは二匹ともが、だいたい同じようなタイミングで抱卵しはじめたのが見て取れました。おそらく、産卵日はそれほどずれていないはずです。つまり、二番目は確かめられてはいません。また、オスがあぶれているか、いないか、というのも、確認できていないと言えます。
 ただ、いまのところ問題なく同居できているということは………少なくとも、繁殖を経た個体は、周囲に子がいたとき、それが自分の子であるかどうかに関わらず、危害を加えないと考えてよいのではないかな、という気がします。
 二番目のケースのメスについては………いちおう、サイズ的や月齢的に、成熟したことをほぼ確認できてから同居させています。つまり、そういったことは起こりづらい状況を作るようにはしています。確認するには、わざわざ、そのようになりやすい状況を作って確認するしかなく、さすがにそれはする気にはならないんですよね……。三番目のケースも、わざわざそういう環境を作れるのか?という疑問があり………こうなってくると、もうあとは問題が起こった時に、その理由を探っていくしかないような気がします(そもそも、これは問題があるとしたらどういうケースがあり得るのか?という風に僕が考えたケースであって、たとえあぶれているオスであろうと、まだ産卵まえのメスであろうと、別に子が目の前をちょろちょろしていてもスルーするのがデフォルトであるという可能性もあるのです)。まー、いまのところ問題は起こっていないので、これ以上は今のところ確認のしようもないですし………それに、今後も問題が起こりませんよーに、と思いつつ飼育しているのでした。

 そも、なぜこのようなペアリング……というか、このような同居方法を試みたのかというと――単純に知りたかったというのもありますが、長く飼育管理していく上で、これを知っておくことが必要という程ではないにせよ、効率に関わるため、知っていると有利であると思われたからです。端的に言えば、選抜交配や系統管理をする上で、ブラッドラインAから採ったオス二匹と、ブラッドラインBから採ったメス二匹を一緒に飼育できるか、ということが知りたかった。

 これが可能であるならば、より効率的にケースを割り振ることが可能になります。僕は、ブラッドラインで管理しているとき、上のAのオス、AとA’としますが、これとBとB’のメスから採れる子を、それほど大きく区別していません。

 これはつまり、A-BとA’-B’でペアリングし、それぞれで子をとったとして、それらABとA’B’でペアリングするか?という話で、僕は基本的にはこれはしたくない。もちろん、ケースバイケースで、他に選択肢がない場合――もう輸入できないヘビで、国内に他に候補がいない場合とか、モノによっては、こういうペアリングも考えることはなくはないですが、ある程度、数が得られるものの場合は、しないに越したことはないかな、というスタンスなのです。だから、逆に系統を維持するのには四系統からのスタートが望ましく、最低でも三系統欲しくはなってしまうのですけれど………もっとも、外部から血統を入手できることが担保されているときは、二系統ぐらいでも問題はないかなーと思っています(だから、だいたいのものは二系統で維持していたりします)。

 ………まぁ、もちろん、Phelsuma klemmeriに関しては、どーも、いろいろなところで、ペアに限らず2トリオぐらいいれて繁殖とかさせてるよねぇ?みたいな話やら写真やらを見かけていたので、大丈夫であろーと思った上でやったのですけれどね。たぶん、知っている人の間ではもう常識もよいところなのかもしれません。でも、本とかにもあまり書いていなかったし………そうなると、「大丈夫かもしれないけれど、試すのはやめておこう………」という風になっちゃいますよね。例えば、先に書いたPhelsuma serraticaudaが本当に排他性が強いのかどうか、入手してみても、そうそう試してみる気にはならない気がします。

 でも、そもそも、よくよく考えると、本を書く人にしてみれば、「うーん、うちでは大丈夫みたいだけど、世の中、なにがあるかわからんからな………広いケースなら大丈夫だとは思うけど、狭いケースだとか、外部の騒音とかあって、ストレスから食べちゃうとかそーゆーこともあるかもだし………かといってどれぐらい狭いケースだとダメなのか、調べる気にはならないしなぁ………うーん、まぁ、これについては明記しないでおこう………」ってことなのかもしれませんね。
 だから僕も一応、書いておくとしましょう、「ウチでは問題は起こりませんでしたが、真似してなにか事故が起こったとしても、僕は責任とれません」と。