Dendrobates tinctorius “tumucumaque” (2015.11)

膝についているゴミについては、見なかったことにしていただきたい。

さて、今日はひさびさに真面目に飼育のおはなし! 真面目(に書いてみた)とは言った。だが、内容があるとは言っていない<詐欺だ。
そしてだらだら書いたから長いですよ。(書いた後に追記しますが、なんとなく書いたから起承転結とかそういうのはないですよ)

ヤドクガエル飼育における昆虫ゼリー利用の弊害(の可能性)について。

長くなるのでざっくり書きますと


・ショウジョウバエはコオロギなど以上に、リンとカルシウムの比率が悪いので、カルシウムサプリメントのダスティングが必須ですよ。
・昆虫ゼリーを使うとしても、カルシウムが落ちたショウジョウバエばっかりになるとよくないですよ! あまりたくさん入れすぎないようにしましょー。
・蛇足だけど、だからショウジョウバエの飼育瓶を中にいれて羽化したのを餌にして飼育するのは、たぶん無理だと思われますよ。

ということです。(ただし多分に予想が含まれております?)

以下は長いですよ。読まなくてよいですよ。

さて、ヤドクガエルの飼育で、洋書でも古くから紹介されているバナナやリンゴなどのフルーツをビバリウムに入れてショウジョウバエを集めておくという方法は、管理人は試したことはないのですが(むっかーし、10年ぐらい前に一回か二回やったことあったかなぁ、レベル。まぁ、やるなら青いバナナでやるほうがよいんですよね。そっちのが保ちますから。でも、そういや最近近所では青いバナナって売ってるの見ないような気も……)、その変化球版として、カブトムシ用の昆虫ゼリーを使っているのは、数年前から何度か書いていたと思います(変化球ですらない気もしますが(笑))。けっこうオススメしてたかなと。

バナナや昆虫ゼリーを入れると(昆虫ゼリーのほうが臭わない気が。製品にもよるでしょうが)、ショウジョウバエがビバリウムの中でより長く生きていられるようになるから、無駄になりづらくなるし、ゼリーを置いた周辺に集まるから、地面におけば地面に、樹上におけばその周辺の葉っぱや枝のマテリアルにショウジョウバエが集まり、結果ビバリウムの上のほうや外に出たりといったことが減る。なかなかいいことづくめです。

しかし、先日、やや多すぎにいれたせいもありますが、一週間ほどビバリウムの中でショウジョウバエがゆるゆる生きているのを見てふと思ったんです。

このショウジョウバエ、栄養価よいんでしょうか?

いえ、確かに昆虫ゼリー(というか、そこに湧いた酵母?)を食べて、ふっくらとしています。が、それは別に昆虫ゼリーがなくても、現在の培地を使っていれば十分なぐらい太ったものが羽化していたはず。

そして、いくらふっくらしていたとしても、たしか、ショウジョウバエって、リンに対してカルシウムが少ない、というような話を聞いた覚えがあります。コオロギがそうであるように。
扱い易くする目的も兼ねて、ショウジョウバエを餌にするときはカルシウムパウダーをダスティングするのが一般的ですが、これは扱いやすくすることだけでなく、カルシウムが足りないというのも理由ではなかったっけ?

昆虫ゼリーを食べて生きていますが、餌としてのミネラルのバランスはどうなのか。

普通はカルシウムのパウダーが付着したまま、どんどん餌になるわけで、ヤドクガエルはけっこうしっかりとカルシウムを摂取していると言えます。

けれど、数時間から数日間ビバリウムの中にいたショウジョウバエは、昆虫ゼリーの中で殖え始めるぐらい入れっぱなしのショウジョウバエは、もちろんカルシウムのパウダーなんか落ちきっています。

これは、カエルの健康に良い餌とはいえないのでは?

そもそも、管理人はほとんどショウジョウバエだけで飼育していて、サプリメントを併用することで問題なくアイゾメヤドクガエルを育成、繁殖させられると思っていますが(というかしていますが)、サプリメントをダスティングしていないショウジョウバエは栄養価としてどうなのでしょうか。

専門知識はないものの、話だけでなく、昔どこかで栄養価のリストを、カルシウムが少ないというデータを実際に見たような気がしたため、ネット世代としてとりあえず検索します。

そして、

Nutritional Values of Amphibian Foods by Jennifer Macke

というページにによれば、


Food Protein (% dry wt) Fat (% dry wt) Calcium (% dry wt) Phosphorous (% dry wt) Ca:Phos Ratio Ref.

Fruit flies    63.9 19.5 0.10 1.05 0.09 1
Fruit fly larvae 40.3 29.4 0.59 2.30 0.25 1

とあります。

ふむ、幼虫から成虫になるときに、カルシウムを失っている(蛹の殻になっている)ようで、カルシウムとリンの比率が著しく悪いことがわかります。
確か爬虫類の場合、餌のカルシウムとリンの比率は1:1から1:2がよく、成長期は1:2がよいのでしたっけ。この場合はCa:Phos Ratioが1-0.5あたりがよいってことになるのかな。

ピンヘッドのコオロギは、

Crickets, adult     64.9 13.8 0.14 0.99 0.14 1
Crickets, pinheada NA NA 1.29 0.79 1.63 2

となっています。ピンヘッドはカルシウムの比率が随分と多いのですね。もっとも、比較的すぐに脱皮しますし、ほどなく成虫と似たような組成になるのではないかという気はしますが。

いずれにせよ、ショウジョウバエは、動きづらくして扱いやすくする云々以前に、カルシウムの添加が必須なのは間違いないです。

ピンヘッドや、そして上のリストを見てもわかりますが、ローチの初令など、いわゆる孵化したばかりの幼虫を例外として(これは有名な話らしいですね)、コオロギもローチもミールワームもどれもそれは同じです。っていうか、ショウジョウバエが一番よくないっぽいですな(変態は、あくまで成長の途中だからでしょうかね。ところで、このフルーツフライってのは、これはキイロなんだろうかカスリなんだろうか……まぁ、普通にフルーツフライって言ったらキイロかなぁ)

だから普通にみなさんコオロギだろうとカルシウムのダスティングは欠かさないはずです。
(そして、産卵させたプラカップをビバリウムの中に入れておいてピンヘッドを与えるという方法は、カルシウムが不足するか否かでいえば、不足しない方法だということになります。カルシウムを多くとった場合は………うーん、まぁ、詳しく知らないのですが、カエルの場合は、あまり気にしなくてよいのかな。だって、カルシウムサプリメントが多すぎるとか意識したことなかったですし……)

カルシウムを添加していないショウジョウバエ、つまりはビバリウムの中で長く生きていたり、ビバリウムの中で殖えたようなショウジョウバエは、非常時(長期に出かけているとき)や、成長した個体の間食程度としてはよいとしても、日常的に与えていると、なにより育成時には、カルシウム不足に陥ってしまうことが懸念されます。

それを考えると、昆虫ゼリーは便利なものではありますが、それに頼りすぎて、いつも多めにショウジョウバエを入れすぎるのは、総体的によくないのではないか、と思われます。

というのも、餌がない状態でいるカエルは、撒かれたショウジョウバエをすぐ食べるでしょうからカルシウムをちゃんと摂取するでしょうが、ダスティングが落ちたショウジョウバエをちょいちょい食べてお腹がいっぱいのカエルは、入れられたショウジョウバエをすぐには食べず、結局、カルシウムが落ちてから食べてしまう……という悪循環になってしまう懸念があるからです。(そして、弱い個体はいつも先に食べることができず、いつも他が食べ終わっていなくなったときに出てきて食べる……結果、カルシウムが不足する、ということが起こりうる、かもしれない?)

まぁ、実際には数年この方式やってますが弊害っぽいものの記憶はないので、あくまで程度の問題でしょう。基本的には、一週間もビバリウムの中でショウジョウバエが生きているということはあまりなく、二、三日で消えるので、そしたらカルシウムをたっぷりつけたショウジョウバエを入れていて、それを入れた端からみな食べているようですからね。

時折、余って生き残っていたショウジョウバエ(カルシウム付着なし)を食べることがある、というのは問題ないにせよ、それを主食とするならば、コオロギにせよショウジョウバエにせよダスティングは必須であり、数値を見るかぎり、ショウジョウバエはその傾向がより強いと言えそうです。

成体であれば、そこまで極端にずっと、たとえば一年そうだというのでもないかぎり、問題にはならないんじゃないかという気もします。ですが、繁殖期には卵の良し悪しなどに影響が出てくるであろうことは想像に難くはないです。育成であれば、即問題がでてもおかしくないかもしれない(検証したわけではないので推測です)。

というわけで、このサイトでは昆虫ゼリーをいままで推してきましたので、それについて訂正、補足しなくては、と思ってこのエントリを書いた次第です。

結局のところ、そのビバリウムの中にいる個体が食べる丁度良い量を見極めて、それぐらいのショウジョウバエをなるべく毎日か二日に一回ぐらい与える、という基本的な飼育のスタイルがベストだとうことでしょうか(まぁ、管理人は二、三日に一回しかあげてないけどカエルは殖えてますけど、毎日やったらよりよい結果が得られるのかも)。

もちろん、ショウジョウバエがしばらく死なないでビバリウムで生きてくれる&ケース全体に拡散せずに下のほうにいてくれやすくなるアイテムとしての利便性は揺るぎないというか、すごく便利だと思います。
ですが、たとえば、一週間中で生き続けるような量は多すぎでしょう。あくまで、あまり拡散したりしないようにする&ちょっと余ったやつが下に来るようになって、餌になりやすくなる(二日ぐらいでいなくなる)、というのが理想なのではないかと思います。

あと、あまりに極端な事例ですが、昆虫ゼリーをビバリウムに入れて、ショウジョウバエが羽化する瓶かなにかを入れて羽化したものを食べさせて飼育する…………というのは、旅行に行くような一時的な場合はともかく、ずっとそればかりでやっていると(特に成長期の個体だと)、それによる弊害があるだろうな、というのは想像に難くないですね。
というか、長期には飼えないんじゃないかな……成体ならすぐには死なないでしょうが………でも、そういうやりかたは、管理人の中ではそれは飼育しているとは言えないかな(死なせてないor生きてる、と表現するものかなと)

まぁ、これは極端な例だし、やる前にちょっとまずくないか?と普通は気づくでしょうけど(だって普段やってるダスティングがゼロになるわけですから)………今回のは、あれですよ、ここまで極端ではなく、ダスティングはしてたんだけど、結果としてダスティングが落ちたショウジョウバエばっかりになっちゃってない?ということに、気づくことが遅れてしまったのですよっ(< まさしく観察不足&ちゃんと考えてなかったってことですよねー?)

……でもまぁ、ちゃんと知識が身についてなかったから気づくのに遅れたって側面もある気はしますな。このへん、やっぱり、総体的な物事を知った上でやるのと、何も知らないでなんとなくやるのでは、やっぱり違いますよね。ちゃんと知った上で利用しないと、全体の一部の、表層の真似で終わってしまうからいけない。管理人の理解は全然足りてなかったなぁと思ったり。もっともっとちゃんと考えて飼育しなくては…… (今年は、他の人の観察の着眼点の鋭さに驚かされたことが何回もありました。どの方も、もともと、それぞれすごいなぁと思ってた人々でしたが、ホントに飼育の上手い人は観察力と着眼点がすごい。そしてそれらが思考に裏打ちされているから、説明が上手い)

蛇足ですが、管理人が利用したのは昆虫ゼリーだけですが、おそらく、バナナなど他の果実を利用したとしても、似たようなものではないでしょうか(「バナナ カルシウム」で検索すると、ぐーぐるさんは100gのバナナの中のカルシウムの量を教えてくれるのです)。
ショウジョウバエが1日に食べる餌の重量をまだ調べていないので、計算できていませんが……でも、ショウジョウバエのお腹の中にあるバナナの量なんてたかが知れてそうですし……いや、でもそこは結論だすには、ちゃんと計算しないとだめか……どっかにデータないかなー。
(というか、不足を補えるぐらいカルシウムが多い代物って、ショウジョウバエ平気なのかな。コオロギとかは死んじゃうんだったような。ショウジョウバエが死ぬかまでは分かりませんが………ローディングよろしく昆虫ゼリーに水溶性カルシウムをさらに添加することも考えたんですが、ただ濃くすればよいってものでもないでしょうし、やるとしてももうちょっと調べてからでないとな……)

そういえば、コスタリカとかのファームでは、ヤドクガエルの餌としてバナナを温室の建物の中の何箇所かに放置してショウジョウバエが集まるに任せていましたが(有名な話では?)………おそらく、あれはショウジョウバエだけでなく、その温室の土壌にいる微細な他の生物なども餌にしているからこそ、なのでしょう。シロアリはわかりませんが、トビムシやらは食べているでしょうし、たとえば、カルシウムの多い、ワラジムシを食べているとかもあるのかも。

ふむ、ワラジムシはカルシウムとリンの比率が、ある意味ショウジョウバエやコオロギなどと逆転していて極端にカルシウムが多い(P. scaberの場合。11.5:1とか12:1だという話、文末のref参照のこと)ということだから、ショウジョウバエで不足するようなら、ワラジムシを併用すればよいかもしれませんね。

シロワラジとか飼育はしているんですが、餌として利用したことが皆無だったりしますが。でも、小型種の餌にするのは難しいかな。ビバリウムの中で繁殖してくれればそのかぎりではないかもしれませんが……

ううむ、このへんもうちょっと調べてちゃんと覚えて、餌ページに反映させたいところ……

参考文献(ref):
Nutritional Values of Amphibian Foods by Jennifer Macke
Neues F, Hild S, Epple M, Marti O and Ziegler A (2011) Amorphous and crystalline calcium carbonate distribution in the tergite cuticle of moulting Porcellio scaber (Isopoda, Crustacea). Journal of Structural Biology, 175, 10-20
Oonincx DGAB & Dierenfeld ES. 2012. An investigation into the chemical composition of alternative invertebrate prey. Zoo Biology, 31(1): 40-54
Complete nutrient content of four species of feeder insects.
Manipulation of the calcium content of insectivore diets through supplementary dusting
Mark D. Finke. 2002. Complete Nutrient Composition of Commercially Raised Invertebrates Used as Food for Insectivores. Zoo Biology 21:269–285.